メンバーがそろった今年の日本ダービーを押し切って完勝したクロワデュノール。前走のプランスドランジュ賞(フランスG3)も勝利で飾った、日本馬の「大将格」!※写真/JRA
競馬の世界最高峰レースのひとつ、フランスの「凱旋門(がいせんもん)賞」。
しかし、今年は過去最大級のチャンスだといわれている。今年こそ、悲願の初制覇を!
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■芝2400mへの適性が重要!
これまでディープインパクトやオルフェーヴルなど、日本のそうそうたる馬が凱旋門賞に挑戦し、その厚い壁にはね返されてきた。2着は4回あるものの、あとちょっとのところで勝ち切れていない。
なぜこうも日本馬は凱旋門賞で辛酸をなめ続けるのか。海外競馬に詳しく、毎年、凱旋門賞を現地で観戦しているターフライターの平松さとしさんが解説する。
「ヨーロッパは、芝2400mのレースを中心に行なっているからです。同距離のGⅠもたくさんありますしね。逆に日本は、日本ダービー(3歳限定)やオークス(3歳牝馬[ひんば]限定)といった限定競走を除くと、芝2400mのGⅠはJC(ジャパンカップ)しかありません」
つまり、芝2400mという距離においては、日本とヨーロッパとでは層の厚さが全然違う、と。
「そうなんです。だから凱旋門賞に限らず、香港ヴァーズやアメリカのブリーダーズカップ・ターフ(どちらも芝2400m)も、ヨーロッパ勢が強いんです」



*スピードシンボリの着外は11着以下。ディープインパクトは3位入線後に失格
よくヨーロッパの重い馬場が日本馬には向かないという話も聞くが、そのあたりはどうなのか。
「確かに、あちらの馬場は時計がかかるんですけど、そもそもフランスの競馬は序盤が遅いんですね。
しかも、凱旋門賞が行なわれるロンシャン競馬場の芝2400mコースは、スタートしてからずっと上り坂が続くので、なおさら序盤が遅くなります。それでいて、最後は上がり33秒台の速い時計が出るんです。
なので、みんなが思っているほど重い馬場ではないんですよ。やっぱり馬場の向き不向きより、距離への適性が重要だと思います」
■重い扉を開くのはどの日本馬か!?
まるで呪いがかけられているかのように、凱旋門賞を勝てない日本馬。しかし、今年は期待が持てるという声も少なくない。
9月15日のフランス競馬紙『パリチュルフ』の電子版には、以下のような記事が掲載されている。
「2025年は控えめに言っても前例のない状況です。なぜなら3頭の日本馬がフランスで前哨戦を勝利しているからです」
確かに、凱旋門賞挑戦の歴史で、3頭もの日本馬が現地での前哨戦を勝ったというのは前代未聞のことだ。
『スポーツニッポン』の人気競馬担当記者、鈴木正さんは言う。

今年の天皇賞・春をアタマ差で2着と実力を見せつけたビザンチンドリーム。前走のフォワ賞(フランスG2)も快勝! ※写真/JRA
「前哨戦を勝ったこともすごいのですが、私が注目しているのは、それぞれの勝ち方が違っていること。
クロワデュノールは、重い馬場のプランスドランジュ賞を好位の競馬で勝ちました。
この3頭の勝ち方の違いが、大きなアドバンテージになっています」
雨で馬場が重くなっても、晴れて軽くなっても、ペースが速くても遅くても、どちらに転んでも対応できそうな日本馬がいることは心強い。鈴木さんが続ける。
「それに加えて、今年はトレヴやエネイブルといった怪物級の外国馬が参戦していません。私は日本馬の初制覇に向けて、過去最大のチャンスだと思っているんです」

日本では4戦1勝だが、前走のギヨームドルナノ賞(フランスG2)は圧勝だったアロヒアリイ。ジャイアントキリングなるか!?
ではここで、各日本馬の魅力を前出の平松さんと鈴木さんに紹介してもらおう。最初はクロワデュノールから!
「ハイレベルの日本ダービーを強い競馬で勝ったのは、素質が高い上に、芝2400mの適性もある証拠。前哨戦は重馬場をこなして勝ち切ったのもお見事!」(鈴木さん)
とはいえ、前走のラストは後続に詰め寄られ、辛勝したという印象も......。
「予定していた追い切りができなかったこともあって、仕上がりは100%には程遠い状態でした。また、レース序盤はかなりのスローペースでしたが、それでもきっちりと折り合って、最後は上がり33秒台の脚でまとめています。
完璧ではない状態であの競馬ができたことが素晴らしい。
最高の状態に仕上げてくるであろう本番では、どんな走りを見せてくれるのか。今から楽しみで仕方がない!
お次は、今年に入ってから本格化が著しいビザンチンドリーム!
「前哨戦が圧巻でした。速い流れの競馬にもかかわらず、強烈な末脚で差し切り勝ち。
しかも、負かした相手には、去年の凱旋門賞で3着に好走したロスアンゼルスや、1番人気で4着だったソジーもいましたから」(平松さん)
ちなみに、過去に凱旋門賞で2着だった日本馬は、すべてこのフォワ賞から向かっているのもプラス材料。さらに陣営の話では、ビザンチンドリームは心肺機能がかなり優れていて、身体的なポテンシャルは相当高いとのこと。
「競馬も上手ですよね。前走は内側からトップスピードの中で、うまく馬群をさばいて差し切るという。こういう器用な競馬もできるのかって驚きました」(鈴木さん)
そして、名手C・ルメール騎手が手綱を取るアロヒアリイ!
「前哨戦で負かしたクアリフィカーは、フランスのダービーで2着の実力馬で、次走では凱旋門賞の前哨戦のひとつのニエル賞を快勝。また、管理する田中博康調教師は、騎手時代にフランス遠征をしていて、現地の人脈やノウハウを持っているのも強み!」(鈴木さん)
ただし、マイナスのデータもある。
「これはビザンチンドリームにも当てはまりますが、日本でGⅠ勝ちのない馬の成績は悲惨なもので、ほとんどが2桁着順に沈んでいます。アロヒアリイは日本では1勝しか挙げておらず、さすがに世界最高峰の舞台でどこまで通用するかなって......」(平松さん)
しかしながら、日本ではGⅢしか勝っていないのにもかかわらず、4着と大健闘したスルーセブンシーズの例もある。鞍上(あんじょう)がそのときと同じというのも一発の予感がする。

前哨戦のベルメイユ賞(フランスG1)を勝って、順調に本番へ挑むフランス馬のアヴァンチュール。海外のブックメーカーでは、1番人気に!(9月22日現在)
続いては、ライバルとなる海外の有力馬を紹介しよう。
「まずは、去年の凱旋門賞で2着した"フランスの女傑"アヴァンチュール。ロンシャンを得意にしていて、5戦2勝、2着3回とパーフェクト連対中です。海外ブックメーカーのオッズも4.5倍で1番人気(9月22現在)。優勝候補の筆頭といわれています。
それから、伯楽のA・オブライアン調教師が管理するミニーホークは、イギリス、アイルランド、ヨークシャーのオークスを3連勝中! 前哨戦で負けて人気を落としていますが、ディープインパクトの血を引くカルパナも侮れない一頭です」(平松さん)

*騎手は予想です
最後に、鈴木さんが期待を込めてエールを送る。
「以前、海外挑戦の先駆者である角居(すみい)勝彦元調教師がおっしゃっていました。強い馬を出すことにこだわるよりも、遠征をものともしないタフな馬や、現地にいち早く慣れることがうまい馬のほうが意外と大仕事をやってのけるかもしれないって。
そういう意味からも、3頭がフランスの前哨戦を勝ったことは大きいし、勝つための手札はそろっていますよ!」
決戦は10月5日、出走予定時刻は日本時間の23時05分! 今年こそ、悲願達成を!
取材・文/浜野きよぞう 撮影/平松さとし(アロイアリイ、アヴァンチュール)