©電柱治『イエローマジック創世記』より
YouTubeやインスタグラムに、YMOの漫画を投稿し、いま音楽ファンを魅了し続けているのが電柱治だ。
彼は東京在住の28歳。
SNSを通じ、ファンと交流し、また当時の関係者たちと交流する。決してYMOをリアタイで体験していないものの、YMOファンからの支持により、漫画はより史実性を高め、また作品に込められる愛情も深さを増していく。
現在はYouTubeチャンネル『電柱治のYMOマニアch』とインスタグラムを主戦場に漫画を配信し、週に2度(火曜・日曜)執筆の様子をライブ配信していく。SNSを通し、作り上げていくのが彼の流儀だ。
果たして、そんな電柱治とは一体どんな人物で、なぜYMO漫画を描くのか。一般メディア初となるインタビューで迫った。
* * *
――電柱さんはSNSにYMO漫画を投稿し、注目されていますが、そもそも最初のYMO関連作品は漫画ではなく、楽曲のカバー動画だったそうですね。
電柱 そうです。2020年3月に「Wild Ambisions」(『浮気なぼくら』収録曲)のカバーをYouTubeに投稿しました。当時、コロナ禍で時間があったんです。
――もともとYMOの漫画を描く構想はあったんですか?
電柱 僕は東京工芸大学の芸術学部に通っていて、あの漫画は大学の卒業制作なんです。でも当初YMOを描くつもりはなくて。卒制の締切日を勘違いして、それに気付いたのが提出の1ヶ月前。「いまから準備しても間に合わない。自分が詳しいものを題材にするしかない!」と、追い詰められて描いたんです(笑)。
――最初から意を決して描いたわけではなかったと。でも電柱さんは、YMO直撃世代ではないですよね。もっとお若いというか......。
電柱 描いたのは2021年なので、当時23歳です。ご覧になった方からは「え? こんな若かったの?」とよく言われます。
――YMOはどういう経緯で好きになったんですか?
電柱 母が坂本龍一さんのファンで、坂本さんの『B2-UNIT』とYMOの『BGM』のレコードが実家にあったんです。それらを中学の時に聴いて興味を持ち、さらにブックオフで買ったベスト盤『UC YMO』を聴いて次第に惹かれていきました。
©電柱治『イエローマジック創世記』より。伝説とされる、「細野家」でのYMO誕生の瞬間
――一体、何が魅力だったんでしょう?
電柱 個性的な3人が揃っていて、楽曲によって作風がまるで違うことですね。しかも彼らを「ハブ」にすると、ワールドミュージックから現代音楽まで、あらゆるジャンルに広がっていき、逆にどんな音楽を聴いても、「これ、YMOがやっていたな」と戻ってくる。しかも彼らの存在は音楽以外にファッションやアート、思想にまで広がっていく。圧倒的な奥深さに惹かれていきました。
――そんな電柱さんの愛が詰まった『YMO創世記』は、結成からブレイク前夜までを描いた作品でしたね。
電柱 僕らの世代でYMOの楽曲は知っていても彼らが一体どんな経緯で結成され、どうやって売れたのか、またその裏で何が起こっていたのかなど背景を知る人は少ないと思ったんです。またアーティスト以外に影で支えたスタッフにも光を当てたいという意図もありました。YMOの研究本も何冊も読んで、それも参考に必死で描きましたね。
――そして2022年9月に『YMO創世記』を動画化し、YouTubeにアップするや、一気に話題を呼びましたね。自分もそこで知ったクチですが、何よりYouTubeにアップするのが面白いと思いました!
電柱 当時、自分の将来に何ができるかわからなかったので、できることは全部詰め込もうと思ったんです。アニメってほどでもないけど、動画編集をしてみたり、SEをつけたり、三人の声を真似てあててみたり。声はそれぞれのラジオを何時間も聴き込んで臨むから、時間がかかるし、一度「入る」としゃべりの癖が抜けなくなるので、大変なんですけどね(笑)。ただおっしゃる通り、漫画だけにとどめなかったのがよかった気がします。
電柱治さん(撮影/伊島薫)
自身のYouTubeチャンネルでYMOをはじめ数々のアーティストを撮影してきた写真家・伊島薫さんと(左)。YMOほかの貴重なエピソードが聞けるのも電柱さんのYouTubeの魅力。伊島さんは3月に新雑誌『野良』を創刊。誌面は多数の斬新なヴィジュアルのほか小泉今日子さんが連載小説を執筆するなど話題
――2023年4月からは初のワールドツアーを描いた続編が公開され、現在まで『テクノデリック』直前の様子までが描かれています。
電柱 最初は、そのうち続編を描こうくらいに思っていたんですけど、『創世記』を発表した後、高橋幸宏さん、坂本さんがお亡くなりになって。それで、いつかなんてもう言ってられないなとも思って、描き続けました。
――それこそ、続編を求める視聴者からの反響は、想像以上だったんじゃないですか。
電柱 そうですね。"反響"という意味ではYMOの初代マネージャーの日笠雅美さんが『創世記』を見つけてくださったのが大きかったです。あと高橋幸宏さんの実兄、高橋信之さんも。そこからエンジニアさんら当時のスタッフや関係者にも観ていただき、さらにお話しを聞く機会もいただきました。
――YMOのプロデューサー・川添象郎さん、アルファレコード創設者の村井邦彦さんもご覧になられていたとか。
電柱 川添さんが、村井さんに「面白いやつがいるぞ」と紹介してくださったようです。おかげで村井さんとは昨年、お話しさせていただきましたね。しかも解散を「散会」と呼んだ経緯やアルファの社長室のドアの素材なんかを教えていただいたり。村井さんはギャグっぽく描いているので怒られるかなと思っていたんですけど、もう本当に感激しました。
©電柱治『イエローマジック迷CUE記』より。YMOがアルバム『BGM』を制作するまでをコミカライズ。川添象郎さん、村井邦彦さん、ピーター・バラカンさんら関係者も多数登場する
――描いていて、特に苦労するのは?
電柱 一番はスタジオですね。
――一方で特に力が入るのはどこでしょう?
電柱 やっぱりライブシーンですね。ここはむしろ資料がたくさんあるのでごまかしがきかない。相当気合いを入れて描いています。幸宏さんのドラムなんて、通常のセットじゃないので、何度も何度も描き直しましたよ。音のでない漫画での腕の見せどころです。
――電柱さんの中では、YMO漫画は完全なフィクションとして描かれているんですか? それともドキュメンタリー的なものとして描かれているんですか?
電柱 それらの中間です。先ほど『創世記』を卒制で描いたとお話ししましたけど、じつはもうひとつ動機があって。
海外だと『ボヘミアン・ラプソディ』のような、史実をもとにした人気ミュージシャンの映画やドラマが多々あるじゃないですか。YMOもいつか、そういう類の作品が作られるじゃないかと思ったんです。で、漫画という形ですけど、誰よりも先にやりました(笑)。いずれにせよイメージとしてはあれらに近いですね。
©電柱治『イエローマジック狂奏記』より。1980年のワールドツアーの模様を再現した
――YMOは音楽史に残るグループですし、作られても、おかしくないですよね。
電柱 漫画にしたのは、親しみやすさもあって。YMOの研究本はいくつも出ていて、しかも詳細なものも多いです。でもリアルタイムで見ていたわけではないので、どうしてもイメージが沸かない部分もあるんです。かといって映像は情報量が多すぎてイメージが限定されすぎる面がある。なので映像と本の間くらいの感覚です。
とはいえ物語にすると、エンタメとして、どうしてもフィクションの部分は入ってきてしまうと思うんです。だからこそなるべく細かい部分まで丁寧に描きたいんです。
――当時のスタッフや関係者の取材も生きてきていますね。
電柱 せっかくですので参考にさせていただいています。それに加えSNSにはコメント欄があるので、当時を知る人たちからの「ファクトチェック」も入りますし(笑)。ネットはアップデートができる良さがあるので随時、加筆、修正しています。
――なるほど。SNSを主戦場にしているからこそ、ディテール細かく描けると。それにしてもYMOを描き続けて、もう5年ほどになるわけですよね。YMO以外を描きたい、なんて気持ちにはならないですか。
電柱 まったく! いま週2でライブ配信しながら描いているんですけど、配信中に当時の関係者の方から次々とご連絡をいただくんです。それがまた取材の場にもなっているんですけど、新しい情報を得るのが本当に面白くて。いやもう、描き足りないです。
――"YMO"に浸りまくって、三人への見方は変わりました?
電柱 やっぱり変わりましたね。すごく身近になったというか。もっと言えば、人間なんだなと思うようになりました。一見華やかに見えるけど、その裏で僕らと同じように人間関係で悩んだり、苦しんでいたこともあったわけで。ただ皆さん、それを原動力にして素晴らしい作品を作り上げた。YMOブレイク直後の坂本さんなんてイライラが募り、音楽を破壊するとばかりの勢いだった。だから漫画では、成功までのストーリーや音楽の素晴らしさを描くだけでなく、彼らの内にある激しい情念、エネルギーのようなものまで伝えたい。その部分はものすごく意識します。
――ちなみに細野晴臣さんは、電柱さんの漫画をご覧になってるんですか。
電柱 2023年にしりあがり寿先生が主催する「さるハゲロックフェスティバル」に糸井重里さんと細野さんのトークセッションがあったんですけど、会場にお邪魔して卒制で作った『創世記』の冊子版をおふたりにお渡ししました。だから多分、少しはご覧いただいているんじゃないかと思います。そのまた後にたまたまお会いして、アップデートした冊子をお渡ししたんですけど、その時はパラパラめくってくれて、特に幸宏さんの似顔絵を笑ってくださいましたね。
――それでは今後の目標を教えてください。
電柱 なんとか年内中にはYMOの「散会」までを描き切りたいと思っています。それを来年以降、加筆、修正して、最終的には何らかの形で「本」にできたらと思ってます。YMOは、もはやただ大好きなミュージシャンというだけでなく、僕にとって人生を大きく変えてくれた存在。いまやYMOを描くのは「ライフワーク」です。この先もまだまだ追いかけ続けたいですね。
●電柱治 Osamu DENCHU
1997年生まれ 愛知県出身
東京大学大学院に在籍しながら京都精華大学の非常勤講師を勤める。東京工芸大学芸術学部での卒業制作で、YMOの結成からブレイク前夜までを描いた漫画『YMO創世記』を執筆。その後、Instagram、YouTubeで続編となる『YMO遊演記』『イエロー・マジック抑圧記』などを発表。
現在、毎週火曜・日曜にYouTubeで漫画を描くライヴ配信中。
公式Instagram【@denchu_osamu】
公式YouTube『電柱治のYMOマニアch』
取材・文/大野智己
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