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フェイスブック社の会長兼CEO、マーク・ザッカーバーグが同社を「メタバース企業に移行する」と発表したことで一気に注目されたキーワード"メタバース"。その意味と最新情報を専門家に聞いた!

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■『あつ森』もメタバースだ!

「メタバース」という言葉が急上昇ワードになり、バズワードとなった。最大の理由は、フェイスブック社がメタバース事業に本格的に取り組み、年間1兆円以上を投資し、開発のためにヨーロッパで1万人の人材を採用すると発表、さらに社名をメタバースに関連するものに変更する計画があると報じられたからだ。

しかし漠然と「仮想空間だろ」と思っている人も多いはず。そこで、ふたりの専門家にメタバースの意味とフェイスブックの狙いについて聞いた。

「メタバースは日本語でいうと『共有型仮想社会』。アバターを使って自分が仮想空間で自由に社会生活をするということです。ですから、『あつまれどうぶつの森』や『フォートナイト』などのゲームも広い意味のメタバースといえます」

そう語るのはITジャーナリストの三上 洋(みかみ・よう)氏だ。

「では、なぜ今、注目されているのかというとVR機器の急激な進化があります。

例えば『オキュラスクエスト2』というパソコンなしで使えるワイヤレスの高性能VRゴーグルが低価格(約3万7000円)で買えるようになり、仮想空間を気軽に楽しめるようになりました(2020年10月発売)。

そのため、多くの企業が仮想空間を使ったビジネスに参入し始めています。現在、仮想空間で一番人気があるのはVRチャットです。フェイスブックは『ホライゾンワークルーム』というVR会議室をつくりました。また、日本のKDDIも街を自由に動き回れる『バーチャル渋谷』をオープンしています」

一気にバズワードになった、仮想空間「メタバース」の基礎知識

2019年9月に行なわれたメタバース「ホライゾン」の発表会から約2年後の2021年8月に、ザッカーバーグはオキュラスクエスト2を使用するVR会議室「ホライゾンワークルーム」をリリースした

一気にバズワードになった、仮想空間「メタバース」の基礎知識

VRのメタバースでは、どんなことができるのか?

「今のウェブ会議は、パソコンの画面上に参加者の顔が並ぶだけですが、VR会議室の『ホライゾンワークルーム』は、ひとつの仮想空間の中にみんなが座っていて、アバター同士で会話をします。面白いのは右に座っている人が話すと右側から声が聞こえてきたり、遠くにいる人は声が小さく聞こえたりすることです。

ですから、会議中に隣の人とヒソヒソ話もできるのです。

また、オキュラスクエスト2にはゴーグルの外側にカメラがついていて、ゴーグルをした状態で自分の周りの状況を認識できる。例えばゴーグルをつけたまま手を動かすと、仮想空間のアバターの手も動く。会議で手ぶりをつけて話すことができるんです。

さらに、仮想空間の中でキーボードを打つことができます。ゴーグルをつけていても、外側のカメラがキーボードと指を認識するので、仮想空間の中でも議事録を作ることができるのです」

VRチャットは会議だけにとどまらない。

「今、VRチャットの世界はイベントがたくさんあり、アーティストがライブをやったり、ダンスパフォーマンスを見せたりしています。ライブ会場では右からも左から音が聞こえる。隣の人に『このアーティストいいね』とヒソヒソ話もできる。コロナ禍のライブ配信は2次元のパソコンの世界で見ているだけでしたが、VRチャットのライブは本当にその場にいるような臨場感が味わえます」

メタバースの最先端は、ここまできていたのだ。

■悪評を少しでも下げたいFB

では、メタバース事業を本格化させようとしているフェイスブックの狙いとは何か?

「フェイスブックはGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の中でもSNSの広告収益依存が高い企業、年間の売り上げ約9兆円のうち約98%が広告収入です。そんななか、フェイスブックのユーザー数は頭打ちで下がっていくだろうといわれています。

また、今のフェイスブックのメイン事業であるインスタグラムも若者に人気があるといわれていましたが、アメリカの10代のインスタ支持率は下がりつつあります。現在は世界的にティックトックやスナップチャットなどの短い動画の人気が高まっており、フェイスブックは将来に危機感を持っているのでしょう。そこで、早々にメタバースの世界にシフトしようというのがザッカーバーグの考えだと思います」 

理由はそれだけではない。ITジャーナリストの尾原和啓(おばら・かずひろ)氏が解説する。

「今、フェイスブックはアメリカでめちゃくちゃ叩かれています。それは、フェイスブックには『いいね!』ボタンがあり、『いいね!』をたくさんもらいたいという気持ちが中毒性を生むのではないか。

そして、有害になるのを知っていながら利益を優先していたのではないかというものです。

そこで、フェイスブックは次のメインのサービスとなるメタバースに力を入れ、社名もメタバースに関連するものに変えることで、悪評を少しでも下げたいのではないかと個人的には思っています」

ではメタバースには問題点はないのか。尾原氏が続ける。

「人間は『いいね』『カッコいい』など他人から注目されたいと思う生き物です。そこでメタバースの空間でもフェイスブックと同じように中毒性のあるシステムを構築してしまうと問題になるでしょう」

前出の三上氏も同じような意見だ。

「メタバースは没入型の空間なので、依存症になりやすいのではないかと心配している人もいます」

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、決算報告後に「今後10年間でメタバースは10億人に利用され、数千億ドル(数十兆円)規模の市場を生み出す可能性がある」と述べている。

メタバースは、人に優しい次世代のソーシャルメディアになれるのだろうか。今後もこのキーワードには要注目だ。

取材・文/村上隆保 イラスト/はまちゃん 写真/時事通信社