明治安田J1リーグにおいて4月は1勝3敗と苦境に直面していた浦和レッズ。しかし24日のYBCルヴァンカップでJ3のガイナーレ鳥取を5-2で撃破。
武田英寿やエカニット・パンヤらここまで出番に恵まれない選手たちも活躍し、ようやく光明が見えてきた印象だった。

 こうした中、迎えた28日の名古屋グランパス戦。浦和としてはリーグ3試合ぶりの勝利が求められた。

 ペア・マティアス・ヘグモ監督は鳥取戦で途中出場した安居海渡を左インサイドハーフに先発起用した。左サイドでフリーマン的に動く中島翔哉をサポートさせつつ、攻守両面でダイナミズムを生み出す役割に期待。その安居がいきなり24分に一瞬の隙を突いて先制点を挙げることに成功し、チームとしても大いに弾みがついたと言える。


 アグレッシブな姿勢を押し出す仲間に勇気をもらい、徐々に本来のリズムをつかんでいったのが、右FWで先発した前田直輝だ。今季から浦和の一員になったが、古巣である名古屋との対戦は初めて。永井謙佑や稲垣祥など慣れ親しんだ仲間たちと対峙するとなれば、やはり特別な感情が湧いてくるのも当然だろう。

「正直、ちょっと空回りしたところありました(苦笑)。相手がマンツーマンでコンパクトにタイトに来たイメージがあって、いつも通り、余裕を持ってプレーできればよかったんですけど、少なからず緊張まではいかないものの、ずっと楽しみにして、ソワソワしていた部分もあった。それが自分の甘さなのかなと思います」と本人も普段とかけ離れた入りになってしまったことを反省。
本来のドリブル突破や局面打開を積極的に出そうと士気を高めていたに違いない。

 それを具現化したのが、68分の大仕事だった。アレクサンダー・ショルツが奪ったボールをサミュエル・グスタフソンがキープし、前を走る伊藤敦樹にパスが出た瞬間、右サイドでフリーになっていた前田は仕掛ける気満々だった。そしてボールを受けると一目散にペナルティエリア内でドリブルを見せ、稲垣祥のファウルを誘った。これでPKを獲得し、チアゴ・サンタナがゴール。この2点目が決勝点となり、浦和は2-1で勝利。
今季リーグ4勝目を挙げたのである。

「数字に残らないのがちょっと悲しいですけど、あれが大仕事と言ってもらえているのであればうれしいですね。(決めた)チアゴはいつも『ありがとう』と言ってくれるんです。チアゴが今季決めているPKの3点とも僕が取ったPKなので(笑)。『あなたがエースなんだから、もちろんだよ』と彼には話していますけど」と前田本人はチアゴに対する大いなるリスペクトを口にした。

 やはりチームとしてもエースFWの得点数が伸びた方が勢いに乗れる。
前田の気配りを有難く感じているはずだ。

 前田は今、完全に”浦和の男”となり、チームを勝たせることのできる選手になりつつある。

「僕はもう浦和の一員なので、浦和の勝利のためにやっています。浦和にしっかり染まっていきたい」と本人も今回の古巣対決を経て、自分の意識を高めた様子だ。

 切れ味鋭い29歳のレフティーの存在価値を痛感している1人が、右サイドで縦関係を形成している右SB石原広教だろう。

「直輝君は鳥取戦の時もそうですけど、攻撃でパワーを発揮して、ああやってPKを取ってくれる選手。
僕としては『戻らなくていいから、前にいて攻撃で結果を残してほしい』と言っていますけど、直輝君も頑張れる選手なので、守備に戻ってきてくれます。今年はキャンプからずっと一緒にいて、お互いに遠慮することなくいろいろと言い合っていますし、先輩なのにすごくコミュニケーションを取ってくれるので、いい関係ができています」

 石原が前向きに語る通り、右サイドの連携面が試合を重ねる毎にスムーズになっている印象は少なくない。彼らが活性化はすれば、右インサイドハーフの伊藤がもっと高い位置に侵入できるだろうし、グスタフソンのシュートチャンスも増えるはず。そしてヘグモ監督の目指すサッカーに近づけることができれば理想的だ。前田直輝という人材は現在の浦和に必要不可欠だと言っていいだろう。

「だけど、自分としてはもっともっとゴールに直結するプレーをしたいイメージはあります。
チームとしても決定機を増やし、ゴールを取れるようにしたい」と背番号38は語気を強めたが、確かにアタッカーである以上、自身の得点も増やすことは重要なタスクである。

 3月17日の湘南ベルマーレ戦で今季初ゴールを奪って以来、彼には歓喜の瞬間が訪れていない。そこはやはり物足りないというしかない。名古屋時代の2019年に記録したシーズン9点を上回るべく、ここからゴールを量産していくことが重要だ。そうすれば、自ずと浦和の戦績も順位も上がる。前田のやるべきことは明確なのだ。

 5月の浦和は直近の川崎フロンターレ、横浜F・マリノス戦を筆頭に7試合の超過密日程。そこをうまく乗り切れば、もっと順位を上げられる。「自分はいつも60~70分しか出ていないので、コンディションは大丈夫」と言い切る右のキーマンのパフォーマンスが今後のカギになるのは間違いなさそうだ。

取材・文=元川悦子