「チームメイトと何かを勝ち取るためにここに来た」。苦しい時期を乗り越えたFWヴァレール・ジェルマンが、魂の叫びのようなJリーグ初得点を決めた。


 サンフレッチェ広島は17日、2025明治安田J1リーグ第17節で東京ヴェルディをホームに迎えて2-1で勝利した。ジェルマンは68分にFW前田直輝との交代で途中出場し、ホームサポーターの声援の中、負傷離脱から復帰を果たした。

「ピッチに入っていく時は本当にワクワクしていたし、特にホームの試合でのサポーターの後押しはすごく熱いものを感じるので、彼らの目の前で何かを残したいという気持ちもあった」

 35歳のフランス出身FWは4月12日に行われたJ1第10節のファジアーノ岡山戦で前半に負傷交代。そのまま約1カ月の戦線離脱を強いられ、今節は7試合ぶりにピッチに戻ってきた。

「自分のキャリアの中で筋肉系のケガをしたのが初めてだったので、どうやってそこから復帰できるのかさえも想像がつかない中で、いろんな人に助けていただいた。自分だけじゃなくて、やっぱりどの選手もチームの力になれていないと感じること、ピッチに立てないことはうれしいことじゃないので、なんとか早く戻りたい気持ちがあった」

 広島に移籍して苦しい時期が続いた。3月5日に行われたAFCチャンピオンズリーグ2(ACL2)準々決勝・第1戦のライオン・シティ・セーラーズ戦では、移籍後初出場で初ゴールも決めて鮮烈デビューを飾った。だが、前所属時代の出場停止処分が未消化だったため、のちに出場資格がなかったことが発覚。クラブの確認不足による規定違反により第1戦は没取試合となり、その影響もあって広島はACL2敗退を喫していた。

「サンフレッチェに来てからいろんなことが起きて、妻とも『ここに来ていいことないね』と話していて、ネガティブなサイクルに陥りそうにもなった。でもそこはモチベーションを保って、悪いことばかり考えるのではなくて、いいことを考えて、なんとかこの国でという気持ちでいた。生活は本当に気に入ってるので、『あとはサッカーのところで結果を出すだけだね』という話もしていた」

 ただ、「悪いこと」もポジティブに捉えて前を向いた。
オーストラリアのマッカーサーFCに所属していた昨シーズンは、昨年7月末からカップ戦を戦い、今年2月末に広島へ移籍する前は同月9日までリーグ戦にも出場。国をまたぎながら稼働を続けていたため、離脱中も飛躍のための準備だと切り替えた。

「オーストラリア時代を含めると、ずっと長期のオフがない中で日本に移籍してきたので、プラスに捉えて、『もしかしたら自分がここからさらに活躍できるためのいい期間なんじゃないかな』と感じられるような時間を過ごさないといけないと思っていた。それは、これから見てみないとわからないけど、そうであったと言えるような時間にしたい」

 その活躍のときは、復帰戦ではやくも訪れた。87分、MF菅大輝の左CKでニアにいたジェルマンはボールが頭上を越えて相手の厳しいマークが緩むと、すぐさまセカンドボールを狙ってチャンスに備えた。

「ボールが絶対に落ちてくるかはわからないけど、その時のために自分としてはステップバックすることで自分のプレースペースをしっかりと作って備えるという形で動いていた」。優雅な動きでフリーになると、ファーで競り勝ったDF荒木隼人からの落としを右足で振り抜いた。

「そこまでコースを狙ったわけではないけど、あそこで1番大事なのはボールが落ちてくることを予測することで、隼人が常に勝ってくれるのはわかっていたので、こぼれてきた時にしっかりと枠にボールを飛ばすことを意識していた」と丁寧かつ豪快な一撃でゴールネットを揺らした。

 復帰戦でチームを救う同点弾。待望のJリーグ初得点で逆転への流れを作った。得点後に感情を解き放つように叫んだジェルマンは試合後、「やっと取れたなと思いました」と安堵と喜びを口にした。

「自分が日本に来てからは難しい状況が続いて、ケガをして4週間ピッチから離れるのも自分のキャリアにとって初めての出来事だったので相当苦しみました。
でも、メディカルスタッフのみなさんにも助けてもらい、自分をこうやってピッチに戻してもらえた。そこで結果を出せたのは自分にとってもすごくうれしかったし、チームにとっても重要な時間帯で点が取れた。そのあと、こういう勝ち方ができたのは、流れに乗っていくためにもすごく重要な勝ちだったと思う」

 ジェルマンの同点ゴールで勢いづいた広島は、2分後の89分に菅のFKのこぼれ球をMF川辺駿が叩き込んで勝ち越しに成功。ホームの大歓声も受けて、土壇場の逆転劇で勝利を収めて4連勝を飾った。

 苦しい時期を乗り越えて再びピッチでチームの力になる日々が始まった。「自分としてはチームの力になりたいし、チームメイトたちと何かをともに勝ち得るためにここに来たので、それを1つひとつ形にしていきたい」。笑顔の復帰を果たしたジェルマンは穏やかな口調で話したが、その言葉には強い決意がこもっていた。

取材・文=湊昂大
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