日刊SPA!で反響の大きかった2023年の記事をジャンル別に発表してきたが、今回は総合トップ10。初回とランキング発表時の反響をあわせて集計、本当にスゴかった記事を発表する。
第9位はこちら!(集計期間は2023年1月~2024年3月。初公開2023年8月27日 記事は取材時の状況) *  *  *

筆者(田中謙伍)はAmazon日本法人に新卒入社し、現在はAmazonで商品を出品する企業のコンサルティング会社を経営している。

Amazon日本法人在籍中に副業でAmazon内で商品を出品し3億円を稼ぎ、現在はAmazon内でヒットする商品の成功要因を分析できる立場を活かし、日刊SPA!では「ヒットする商品の背景」についてお伝えしていきたい。

今回は、日本で急成長している海外ECサイト「Qoo10」と、苦境に陥っている「楽天市場」を比較してみたい。浮かび上がってきたのは、あまりに好対照で残酷な真実だった。

“楽天離れ”が加速…「若者から圧倒的に支持される通販サイト」...の画像はこちら >>

若い女性から圧倒的な支持を得ている「Qoo10」

Qoo10はアメリカに本社を置くグローバルEC企業「eBay(イーベイ)」が、運営する総合ECモールだ。日本には2010年に進出し、2023年で14年目を迎えている。


日本では国内EC市場の年成長率の平均が10%と言われているが、Qoo10は2021年に約30%の成長を遂げており、まさに注目のECサイトと言ってよいだろう。

そんなQoo10で最も売れるカテゴリは「ビューティー・コスメ」。その次に「レディースファッション」「食品」が続いている。なかでも価格が安いものや、日本では販売していない韓国コスメなどが人気となっている。

ナイル株式会社の調査によると、コスメやレディースファッションが主に売れていることから、女性から多くの支持を得ていることがわかる(※1)。ユーザー層の女性比率はなんと71%で、そのうち10代から30代までのユーザーが約8割も占めている(※2)。


課題はあるが、勢いもある

もちろん勢いづいているQoo10にも課題はある。若者への年齢層の偏りはもちろん、コスメとファッションだけが目立って伸びており、ほかの分野については、まだまだ楽天やAmazonに比べてシェアが取れていない点だ。

また、割引クーポンが発行されすぎて、「カートに入れた商品をまとめて確認しないと、いくら割引になるかわかりにくい」という声もある。その点ではユーザーの視認性に力を入れたAmazonに軍配があがるだろう。

しかし、まだいくつか課題があるとはいえ、成長率で見ればQoo10がいまもっとも勢いのあるECサイトということに異論のある人はいないだろう。

Qoo10の勢いに対して「割を食らっているECサイト」がある。それが楽天市場だ。


楽天の将来が危うい理由

Qoo10の台頭で、楽天の将来が危ぶまれているという指摘がある。

「Appliv TOPICS」の調査によると、Amazonが比較的幅広いユーザー層から利用されている一方、楽天やYahoo!ショッピングは30~50代がボリュームゾーンになっていることがわかる(※3)。

ちなみにQoo10は、10~30代の利用者層がやはり圧倒的に多い。つまり、楽天は今現在30~50代に利用されていても、10~20年後はその地位がかなり危うくなっている……と予想できる。

“お祭り状態”が自然発生する土壌が

ここからは、Qoo10が急拡大した要因を探っていきたい。

Qoo10では、若いユーザーの購買動機を促しやすい韓国コスメがいち早く販売されている。これが楽天を含めた他のECモールとの差別化につながっている。

また、楽天に比べてTikTokやTwitterなどのSNSでの集客施策に力を入れており、メガ割期間の直前には、一般ユーザーからインフルエンサーにいたるまで多くの人々が、「メガ割オススメ品」「メガ割で絶対購入するべきもの」などのタイトルやハッシュタグを付けた投稿をしている。


いわばSNS上は“お祭り状態”といっていいほどの盛り上がりを見せ、これがそのままプロモーションに繋がっているのだ。この口コミ文化は、インフルエンサーやブロガーの囲い込みをせずにできた自然発生的なものである。ユーザーにとっての信頼性が高く、Z世代のユーザーはSNS上の口コミを参考に商品を購入しているのだ。

楽天市場のサイトデザインは「わかりにくい」

では、楽天市場で同様のことをした場合、同じように“祭り”が起きるだろうか。答えは「NO」だ。

インフルエンサーが「楽天スーパーセールでこのコスメが安い!」と伝えても、「単にポイントで還元させるだけなのでは?」といったイメージが若者間で蔓延してしまっているようなのだ。また、シンプルなものを好むZ世代からは楽天市場のサイトデザインが「わかりにくい」という声もよく聞く。


Qoo10のメガ割は、ユーザーだけでなく出品者にとっても大きなメリットがある。

まず、 メガ割期間に参加することで、アカウントごとに数百万円の売上を達成できる点だ。特に売れ筋価格帯である1000~3000円程度の商品を多く販売すれば、売上を大幅に伸ばすことができる。

さらに嬉しいサポートもある。たとえば20%OFFの商品を出品した場合、Qoo10が10%を担保し、さらにQoo10側の社員がメガ割の作業を代行してくれるのだ。なおかつ、手数料は商品が売れた時だけにしかかからない。


どちらに出品すべきかは明白…

一方、楽天市場への出店は、一番低価格な出店プランである「がんばれ!プラン」でも年間30万円の固定費がかかる。

商品が売れる売れないにかかわらず30万円がかかる楽天市場に対して、商品が売れなければ1円もかからないQoo10。どちらに出品すべきかは明白だろう。

「同様の施策を楽天も行えばよいのでは?」と思う方も少なくないはず。だが、楽天が真似することは難しい。

というのも、プロモーション、広告枠の利用には高額な広告費用が必要となるからだ。たとえばトップページのメイン下部への商品露出の場合、40万円以上の広告費が必要とも言われている。

「若者を取り込む新陳代謝」が起こせていない…

Qoo10が得意とするインフルエンサーマーケティング事業を楽天が行っていないわけではない。いま楽天が新たに力を入れているのが「楽天ROOM」というインフルエンサーにお気に入りの商品を発信してもらうプラットフォームだ。

しかし、この「楽天ROOM」にはひとつ問題がある。楽天ROOMに投稿するインフルエンサーの年齢はQoo10とは違い、30代以上が多い。結果、インフルエンサー施策を行っているにも関わらず、楽天は若者を取り込む新陳代謝が起こせていないのだ。

また、楽天市場ではQoo10と違い、出店している企業が10~15年も変わらず、若年層向けの商品ラインナップが少ないという意見もある。そもそも商品を検索した際に長年出店している店舗が上位表示されやすい仕組みになっているのだ。こうなると若者向け商品を取り扱うメーカーの新規参入はかなり難しいだろう。こうした古参の店舗はメルマガでリピーターをつかんでいるため、年々歳を重ねていく既存顧客相手の商売をしてしまう。

このように、楽天は若返り施策に成功していないと結論づけられる。無論、「30年後のQoo10」が現在の楽天のようになっていてもおかしくないわけだが。

※1 「Appliv TOPICS」の調査「オンラインでよく購入する商品ジャンル」参照
※2 ※3 「ECモール 利用男女比率」参照

<TEXT/田中謙伍>

【田中謙伍】
EC・D2Cコンサルタント、Amazon研究家、株式会社GROOVE CEO。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社、出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、同社大阪支社の立ち上げを経験。マーケティングマネージャーとしてAmazonスポンサープロダクト広告の立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。Youtubeチャンネル「たなけんのEC大学」を運営。紀州漆器(山家漆器店)など地方の伝統工芸の再生や、老舗刃物メーカー(貝印)のEC進出支援にも積極的に取り組む。幼少期からの鉄道好きの延長で月10日以上は日本全国を旅している