新年度を迎える直前、人事担当者を悩ませる入社前逃亡。少子高齢化の進行により、売り手市場と化した就職戦線において、各企業は初任給の大幅アップを図るなど、新卒人材の確保に必死だが、そんな企業の苦労を知ってか知らずか、今年も4月に入社予定だった学生たちが内定辞退すると知ったケースが続出している。

彼らはなぜ入社前なのに“逃亡”するのか。本稿では、実際に入社前逃亡した若者を取材。その声を聞いてみた。

「会社の歯車はイヤだ」と内定辞退

入社直前の3月に内定辞退した22歳男性の言い分「会社選びは、...の画像はこちら >>
 就活において企業から学生に送られてくる「お祈りメール」と呼ばれる不採用通知。それを模して、会社に内定辞退メールを送り、Xで〈3月に内定辞退メール出される気持ちは? クソ企業が〉という攻撃的な投稿をしていたのは、旧帝大に通う及川翔さん(仮名・22歳)。

 高学歴に見合う大手企業から内定を獲得していたにもかかわらず、卒業直前の3月に辞退。卒論を提出せずに“就職留年”という形で大学に残り、就活を再開したという。

「私が最初の就活を開始したのは大学2年生の終わりごろ。その後、約1年かけて大手メーカー3社、中小企業1社、不動産系2社から内定を獲得しました。そのなかで一番規模の大きい企業の内定式に参加したんですが、そしたら、年功序列の古い日本企業みたいなお堅い雰囲気で。会社の歯車として貴重な人生を消費されるのは耐えられないと思い、納得いくように就活をやり直したんです」

早くも、来年度の採用枠で内定ゲット

 及川さんはすでに、次年度の新卒採用枠で希望業界から内定を得ているという。

「会社選びは、同級生に知られても恥ずかしくないかどうかの『社格』を重要視してます。それに加え、すでに株式投資で資産が1000万円ぐらいはあるので、今の生活水準を落とさない程度の収入はマスト。具体的には、30歳で年収1000万円を目指せることが絶対条件でした」

 みな自らの価値観を強気に主張するが、振り回される企業は不憫でしかない。


「日本酒業界に身を捧げる」“入社前逃亡”を後悔しないワケ

 自分の夢のために“入社前逃亡”という選択をした若者もいる。

 ’24年に九州の大学を卒業した山﨑和也さん(仮名・25歳)は、2回留年しながらも酒蔵で日本酒造りの仕事に従事していたという。

「日本酒の仕事は続けたかったのですが、その酒蔵に正社員の採用枠がなくて諦めました。結局、大学3年生の終わりごろから就職活動を始めて、6月に観光タクシー会社から内定をもらいました。

 でも研修や内定者懇談会などなどに参加している間にも、日本酒関連の仕事に就きたいという思いは諦められなかった。そんなとき、知り合いの飲食店経営者から『オーナーとして日本酒居酒屋を立ち上げてみないか?』という話があったんです」

懐が寂しくとも…「悔いはない」

 ギリギリまで悩んだが、自分の夢を実現するため、入社1か月前に電話で内定辞退をした。

「両親には伝えたら心配されましたけど、『あなたの人生だから頑張りなさい』と背中を押してもらって、やっと決断できたという思いでした」

 大学卒業から1年。現在は居酒屋で働きながら、新店舗の立ち上げ準備にも追われているという。

「スタッフの面接を僕が行っているなかで、採用したのに入社辞退されたこともあって辞められる側の辛さも痛感しました。自分の選択に後悔はないですが、強いて言えばお給料面ですかね。タクシー会社に入社していたら、お財布がカツカツにならなかった(笑)。将来的に日本酒業界を変えられる人材になりたいというビジョンがあるので、そのためにキャリアと経験を積んでいきたいです」

 彼のような内定辞退であれば、のちに振り返っても後悔はないのかもしれない。

取材・文/週刊SPA!編集部

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