40歳を目前にしてタトゥーを入れた
――首の刺青にまず目が行きます。けいちゃん:最も直近に入れた、お気に入りのタトゥーです(笑)。いつもお願いしてるSKIN EVOLUTION(栃木県)の女性彫師・KONOMIさんは、身体をいかに魅力的に綺麗に見せるかまでを考えてくれる素敵なタトゥーアーティストです。このタトゥーも、首が長く見えて綺麗にフェイスラインが出るようデザインしてもらいました。
――刺青歴が長そうですね。
けいちゃん:いや、2022年1月に初めて入れました。当時、恋人と同棲していたのですが、体重が100kg近くありました。ちょうどその折、恋人が入院してしまって……。元気になって帰ってきたら、少しかっこいい自分で会いたいと思ったんです。それでダイエットをして、標準体重になって、それをクリアしたら整形をして……という目標達成の先に、憧れだったタトゥーがありました。
――もともと刺青に対する憧れがあったんですね。
けいちゃん:ありました。でも若いときは、「温泉にも行けなくなるなぁ」とか「もし子どもができたらタトゥーがネックになるかなぁ」と考えて、踏み出せなかったんです。でも40歳を目前にして、自分の人生の方向性も決まってきたし、入れる決心がつきました。タトゥーは私にとって、美意識なんですよね。
美意識が高かった母に影響を受ける

けいちゃん:母でしょうね。母は私を「美男子に育てたい」と思っていたようです。たとえば思春期になると、にきびができた際も、高級な化粧品を揃えてくれたり、「泥パック、やってみる?」と誘ってくれるなど、生活のなかに美容を意識させてくれた存在です。洋服もしばしば一緒に買いに行って、当時流行していた高価な商品も似合うと思えば買ってくれました。今思うと母はオアシスのような人でした。
厳格な父から“決められたレール”を強いられるも…
――その一方で、お父様は厳しい方だったとか。けいちゃん:はい、厳格な人だと思います。両親、そしてその両親もまた創価学会信者です。
父は決められたレールを正しく進んでほしいと考えていた節があり、姉はその期待通りに現在も教員をやっているはずですが、私は希望に沿うことができませんでした。
――堅実な性格のお父様とは、反りが合わないんですね。
けいちゃん:そうかもしれません。もちろん、父からの教えで現在も大切にしていることはあります。たとえば高校時代はバンドを結成していましたが、音楽が好きな父は活動を応援してくれていました。しかし学業不振になると、厳しく叱責されました。義務を果たしてから好きなことをやるというのは、叩き込まれたと思います。
一方で、特に大学時代に自由を謳歌していた私にとって、父の言うことが窮屈に思えたことも事実です。
就職を機に肩身の狭い実家から脱出

けいちゃん:社会人になってからですね。就活の時期になって、メイクに興味があった私は、親の助言を聞かずに外資系の化粧品会社などにチャレンジしていました。同時に服装や頭髪などの自由度にあこがれて、IT系の会社やクリエイティブ制作を売りにする業界もみていました。もっとも、親の手前、市役所の試験を受けたこともありますが、筆記試験では名前だけ書いてぼーっとする時間を過ごしました(笑)。
思い通りの結果に繋がらないなかで、父は「公務員がダメだったら、JICAの海外青年協力隊に行け」と言い出し、勝手に説明会の予約をしていたんです。もちろんJICAの活動は素晴らしいと今では思いますが、国際協力などは親から強要されてやるものではないですよね(笑)。当時は、自分の就活がうまくいかない苛立ちも相まって、「冗談じゃない」と思っていましたね。
結局、リクルートの子会社のIT技術職に就けたのですが、そのタイミングで家を出ることにしました。その会社は私服通勤がOKでしたが、父は「よそ様に恥ずかしいからスーツで行け」と。きちんとレールに乗った姉と比べて、私は一応就職はしたものの、父が望むような社会人になれていないので、肩身が狭くて。毎日が窮屈になって、置き手紙をして出ていくことにしました。
母の誕生日に送った花も送り返されて…
――お話を伺っていると、少しのボタンの掛け違いのようにも感じますが……。けいちゃん:そうなのかもしれません。けれども、それ以来、姉の結婚式を除いては、顔を合わせていないんです。式でも父とは会話をしませんでしたし。母は心配して連絡をくれていましたが、父がそれを快く思わないようなので、夫婦が仲良くいてほしいと思って今は連絡していません。毎年、母の誕生日に花を送っていたのですが、父から送り返されたことがあり、それ以降はやめています。
祖母が亡くなったことも後から聞きましたし、家を出た当初は時間が解決すると思っていましたが、意外と溝が深いのを感じます。いずれ会えたらいいなとは思っているのですが。
――時間軸としては、家を出たあと、現在の姿になったんですよね。
けいちゃん:そうです。驚くかもしれませんね(笑)。お話した通り、美容には以前から関心があり、一部ネットで顔を出して褒められることが多かったんですよね。リアルで会う友人から「肌がきれい」と言ってもらえることが多いのも自慢でした。
しかし、年齢には勝てないと感じて、ダイエット成功のあとは整形をしました。二重形成、糸リフト3回、顔周り脂肪吸引、顎ヒアルロン酸注入、涙袋形成、エラボトックス注入、貴族フィラー、ヒゲ脱毛……いわゆる顔面課金ですね。総額で100万円ほどです。
美容においては、当然ヘアもメイクも大切なわけですが、Cobaco(北千住)というお店の桂木紗都美さんという方のメイクアップに全幅の信頼を寄せています。美を追求するとき、魅力を打ち出してくれるメイクアップアーティストの存在はありがたいですね。
これからもタトゥーを増やしていきたい

けいちゃん:このまま美を保ち続けて、“奇跡の40代一般人”を目指したいですね。
タトゥーは“暗い過去を背負い込むもの”としての側面があるのかもしれませんが、私の場合は、徹底的に美しいものを求めた結果なんですよね。もちろん、現在の日本においてマイノリティであり、褒められないものであることも理解しています。偏見を持たれることは承知のうえで、それでも美しいと思ったものを身体に刻み続けていこうと考えています。
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親が望む姿になれないことに悩む子どもは多い。傍目にみてどんなに微細だとしても、家族を崩壊させる亀裂はある。キラキラけいちゃんが“キラキラ”にかける熱意の裏に、少しの悲しみが見え隠れする。刺青に身を包み、たとえ現代日本社会に望まれる姿にならなくても、自分の美を貫く。その生き様に美への貪欲さをみた。
<取材・文/黒島暁生>










【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki