トランプ大統領による相互関税導入宣言によって、いま世界は震撼している。90日の停止処置をしたものの、いまだに経済市場は株価の乱高下などの混乱が続いている。
相互関係24%を提示された日本も対応を協議するため、4月14日に衆議院予算委員会で集中審議が行われた。
「またトラ」とも言われているトランプ政権に日本はどのように対応していくべきなのか? 高校チュータイ外交官として知られ、『13歳からの国際情勢』を上梓した島根玲子氏に、緊急提言してもらった。

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(本記事は、『13歳からの国際情勢』より一部を抜粋し、再編集しています)

2025年に幕を開けた「またトラ」。いったいどんな4年間になる?

「今、アメリカが大きく分断しています」という島根氏。

 2024年に行われた大統領選挙では、歴史的接戦という事前の予想とは裏腹に、結果はトランプ大統領が激戦州のすべてで勝利し、大統領の座に返り咲いた。

 アメリカ大統領は2期しかできないので、2期目に入ったトランプ大統領にとってはこれが最後。

 二度目のトランプ政権を意味する「またトラ」。この4年間はどんなものになるのだろうか?

「トランプ大統領は、その過激な発言から、『変わった人だ』と言われます。

 しかし、いくら変わった人であろうとも、どれだけ型破りな人であろうとも、彼は独裁者でもなんでもなく、民主的な選挙でアメリカ国民によって選ばれた大統領です。

 だから、彼は今のアメリカ国民の心を映し出す鏡です。

 トランプ大統領を再び当選させたのは、上記のような多様性を重視しすぎたことへの副作用ともいうべき現象なのです」(以下、すべて島根氏)

DEIを尊重しすぎたことの副作用が、「またトラ」を生んだ

「相互関税導入」がアメリカ国民の首を絞める?日本は“またトラ”にどう向き合う?「高校チュータイ」外交官が「アメリカの今」を徹底解説
※写真はイメージです(以下同)
 そもそも、アメリカの歴史をたどれば、ネイティブアメリカンが根付いていた土地に、ヨーロッパから白人が到着してアメリカが建国された。

 のちにアフリカ大陸から黒人奴隷(どれい)が連れてこられ、南米大陸からヒスパニック(ラテンアメリカ系市民の別称)が国境を越え移民として定住した。

 このように多様な人種がいる中で、平和に暮らすためになされた工夫が、多様性の尊重だ。
この考え方を、Diversity(ダイバーシティ/多様性)、Equality(イクオリティ/公平性)、Inclusion(インクルージョン/包括性)の頭文字を取って「DEI(ディー・イー・アイ)」と呼ぶ。

「アメリカ社会にDEIが広まった結果、少数派の人を傷つけないよういろいろな価値観が発展しました。

 LGBTQの人々など性自認に悩んでいる人に配慮して、性別を聞くことは良しとされませんし、ディズニープリンセスが白人女性ばかりであることも見直されました。

 このような配慮は『ポリティカルコレクトネス(政治的に正しい)』といわれ、日本語では略して『ポリコレ』とも呼ばれます。

『ポリコレ』は、多様なアメリカ社会を平和にまとめる工夫であり、人々の知恵の結集だともいえます。しかし、それを「やりすぎ」だと感じる人が多く出てきました。

 ポリコレが広がりすぎた結果、窮屈(きゅうくつ)に感じてしまう人が増えてきたのです。まさにトランプ大統領はそのひとりで、DEIに堂々と反対します。そして、アメリカ社会の多様性の行き過ぎに嫌気(いやけ)がさした人々は、こぞってトランプ大統領に共感しました。

 多様性を重視するのはいいけど、ポリコレばかり気にして生きていくのは嫌だ、昔の「古き良きアメリカ」に戻ろう、そう思った人々はこぞってトランプ大統領に投票しました。すなわち、多様性を尊重(そんちょう)しすぎたことの副作用が、トランプ氏を再び大統領の座に押し上げたのです」

そもそも関税とは何か

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関税イメージ
「わたしにとって、辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」トランプ大統領はこう豪語し、トランプ大統領は自らを「タリフマン(=関税男)」呼ぶくらい、関税が好きで、何かにつけて、「関税」を持ちだしてくる。

 まず、そもそも関税とは何か? 島根氏に教えてもらおう。

「関税とは、外国のモノを輸入するときに払わなければいけない税金のことです。
国によってどれくらいの関税をかけているかは異なりますし、自動車は○%、小麦は○%のように、品目によってもその率が違います。

 そもそもなぜ関税などかけるのでしょう。それは関税の目的は国内産業の保護のためです。

 たとえば、10ドルのモノに10%の関税がかかっていれば、そのモノは11ドルで売らなければ損してしまうので、値段が11ドルになります。このようにして、関税が高ければ高いほど、輸入品の値段は高くなります。

 一方、関税が高いと得をするのは国産品です。国内で作られる品に関税は課されないので、国産品は安い値段を維持できます。

 逆にいうと関税がない場合には外国からどんどん安いモノが入ってきて、国産品が売れなくなることも考えられます。そのため、関税をかけることで国内の産業を保護しようとするのです。

 アメリカ第一主義のトランプ大統領にとっては、アメリカ国内の産業を保護することが優先です。そのため、外国に対して関税をかけることが、アメリカ国内の産業にとって利益となると考えているのです」

 トランプ大統領はこのような理由から、外国に対していろんな理由をつけて「関税をかけるぞ」と発言している。

「関税攻撃」が逆にアメリカ国民の首を絞める可能性も!?

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物価上昇イメージ
 しかし、これには一定程度の効果はある。アメリカは人口も多く、経済的にも発展している国なので、モノを売る市場としては魅力的である。
そのため、今までのようにアメリカにモノを輸出できなくなるととても困るわけだ。

「とはいっても、むやみやたらに関税を引き上げることが、本当にアメリカ国民のためになるのか、わたしには疑問です。

 そもそも、関税とは誰が支払うのでしょう。関税を支払うのは「輸入する人」です。つまり、仮にメキシコからの輸入品に10%の関税をかけた場合、10%の関税を支払うのはメキシコ側ではなく、輸入するアメリカの会社です。そして余計にかかった分は、商品の値段に上乗せされます。

 つまり、関税が上がって最終的に困るのは、商品を買う消費者、アメリカ国民です。

 アメリカ国民が困っているのは物価高です。モノの値段が高く、生活に困っているのです。そうすると、モノの値段がさらに上がってしまうと余計困るのではないでしょうか。

 実際、このまま関税を引き上げた場合、物価高がより進み、アメリカのGDP(国内総生産)が減少してしまうという予測も多く出ています。

 果たして、相互関税などのトランプ大統領の関税攻撃が、アメリカ国民にどのような影響をもたらすのかは、冷静に見ていく必要がありそうです」

日本はトランプ、そしてアメリカとどう対峙するか?

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日本とアメリカの国旗
 そんなトランプが率いるアメリカと、日本はどのような関係を築けばいいのだろうか?日本にとってアメリカはいちばん大事な国。
アメリカにとっても、日本はとても大事な国で、日米同盟は最も重要な同盟のひとつです。なので、基本的には誰が大統領になっても日本との関係に大きな影響はありません。

 ただ、それがずっと続くとは限らないと、島根氏は警鐘を鳴らします。

「トランプ大統領は『日米同盟はアメリカの負担が多すぎる、日本ももっといろいろと負担するべきだ』と発言したこともあります。

 日本として大切なことは、アメリカとの同盟を大事にしつつ、アメリカに頼りきりになるのではなく、日本としてもしっかりやるべきことはやる、ということです」

 仮にアメリカ軍が日本からいなくなってしまったら、自分たちだけで日本を守らなくてはならなくなる。しかし、一人当たり国防費が5万円の日本が、自分の力だけで日本を守ることが、本当に可能だろうか。そこには単純に首を縦に振れないほどの疑問が残る。

 そんな日本に対して、最後に島根氏は以下のように提言してくれた。

「大事なことは、アメリカとしっかり手を組んで、日本も自分の役割をしっかり果たしていくということです。

 わたしたちの生活を守るためにも、アメリカとの関係はとても大事なのです」

文/島根玲子 構成/日刊SPA!編集部

【島根玲子(しまね・れいこ)】
1984年埼玉県生まれ。高校時代に2度の留年と2度の中退を経験。一念発起して大検を取得後、青山学院大学文学部に進学。
早稲田大学法科大学院を経て、2010年に司法試験および国家公務員Ⅰ種試験に合格。2011年に外務省入省後、スペイン駐在を経て、中南米外交やアジア外交に携わる。外交官として働く傍ら、国際情勢やキャリア設計についての講演活動も行う。著書に『高校チュータイ外交官のイチからわかる! 国際情勢』がある。
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