特殊清掃が必要な現場は、いち早く清掃に取り掛かったほうがいい。時間が経てば経つほど、臭いや体液がこびりついてしまったり、虫の被害が拡大してしまう可能性があるのだが、様々な大人の事情でなかなか作業に取りかかれないケースがまれにあるという。

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 都内を中心にさまざまな現場で特殊清掃を手がけるブルークリーン株式会社で働きながら、特殊清掃の実態を伝える登録者5万3000人以上のYouTubeチャンネル「特殊清掃チャンネル」を運営している鈴木亮太さんに詳しい話を聞いた。

3か月放置しなければならず作業が困難に

認知症の女性は、同居している夫の死に気づかず…特殊清掃業者が明かす「苦労した現場」
火災現場
 仕事の依頼が来てもすぐに取りかかれない現場も多くあるという。

「まず、孤独死などが起きたときの法的な順番としては、まずは警察が遺体を引き上げて身元の確認をします。誰が亡くなったのか。住んでいる本人が亡くなったことで間違っていないのか。それまでは現場を規制して警察以外は誰も入れないようにするんです。でも亡くなり方によっては事件性があるかを吟味するために、その期間が長期化してしまうんです」

 死後、数日間の場合は、遺体を遺族に見てもらい、本人で間違いないかを確認する。

「まれに腐食がひどくて原型をとどめていない場合があるんです。その場合は、DNA鑑定をしないといけません。まずは遺体を東京都監察医務院に運んでから鑑定をするのですが、混み合っている場合があり、DNA鑑定に3ヶ月くらいかかるときがある。その際にすぐに清掃に取り掛かれば早く終わります。しかし3か月放置することによって、清掃がめんどうになる場合があるのです。虫が寄ってきたり、臭いもでてくるので近隣の住民にも迷惑がかかってしまいます」

見積もりとズレが生じて赤字になってしまうケースも

認知症の女性は、同居している夫の死に気づかず…特殊清掃業者が明かす「苦労した現場」
放置された現場
 見積もりを取ったのに3か月後に清掃に入るとなると、最初に見積もった作業範囲よりも広く作業しなくてはならないこともある。

「臭いの成分とか体液の汚れって、空気に触れると凝固するんですよ。
それがだんだん層になって、取れにくくなっていく。そうなると見積もりの段階での薬剤よりも使用量が増えてしまって、想定より体液の除去がすすまないなど、色々と問題が出てくるんです。でも最初に見積もりをしてしまった以上、余分に請求をするわけにもいかない現場もあります。そうなると、こちらは若干赤字になったりするので……」

 最近は孤独死などで腐敗が進んだ状態で見つかる遺体が増えているという。

「DNA鑑定をしている最中に事件性があると判断された場合、遺留品や体液など全てが証拠になるので、清掃をしないでくださいと警察から指示されます。こちら側の意見としては、1秒でも早く清掃をして、親族とか依頼主の不安を取り除きたいという思いがあるのですが、なかなかうまくいかないことが多いです」

保険の審査中は作業に取りかかれず…

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作業中の現場
 また、「保険が絡んでくる案件も清掃に入れずヤキモキする」という。

「賃貸物件で最近増えてきたのが、孤独死が起きた時に支払われる保険というのがあるんです。入居されてる方が自宅で亡くなったら特殊清掃の上限がいくらまで、遺品整理の金額がいくらまで、原状回復工事がいくらまでなど、審査の項目が複雑なんです。そこで保険の審査期間は作業に当たれないという問題があります」

 遺族や不動産会社の方で先に費用を立て替えてくれる場合はいいのだが、金銭的な事情で保険が降りる範囲のみで作業してほしいとの依頼もある。

「手持ちの費用がないから保険の審査が終わってから作業を進めてほしいって言われることが多いです。保険が降りなかったらお金を払えないので、見積もりだけしてくれって依頼ですね。そうなると、何週間か経過してからの作業工程の予想をして見積もりを出すので、なかなか難しいところもあります」

認知症で夫の死に気づかず警察沙汰に

認知症の女性は、同居している夫の死に気づかず…特殊清掃業者が明かす「苦労した現場」
認知症で夫の死に気付かなかったケースも…
 また、イレギュラーなケースで清掃に入れないこともあるという。

「自分の旦那さんが自宅で死んだことに気づかなくて、しばらく遺体を放置してしまったケースがありました。そのおばあちゃんは認知症だったようですね。
腐敗臭がすごいということで警察が来てしまって、旦那さんが亡くなっていたことが発覚するんですが、現場検証があるから終わるまでホテルで暮らしてほしいとご家族の方に言われたようです」

 しかし、説得に時間がかかってしまったようで、1日2日で終わる作業が1か月ほどかかってしまったようだ。

「なぜそんなに時間がかかったのかというと、亡くなった旦那さんがお金の管理をしていていたので。夫婦でしっかりしている方の人が先に亡くなってしまったので、キャッシュカードがどこにあるとか、財布がどこにあるとか、何にもわからなかったんですよ。おばあちゃんの財布は巾着に入って洗濯機の隣に置いてあるって言っていて探すんですけど、どこにもないんですよね」

 結局、財布が入った巾着は押入れの奥から見つかったようだ。他にもスマホがスーパーのビニール袋に入っていたりと、管理がめちゃくちゃになっていた。

「おばあちゃんをホテル暮らしさせるのも一苦労でしたね。作業中にホテルから帰ってきちゃったりして、『あんたたち何勝手なことしてるの!』みたいに激昂されたりして。そういう時は再度ご家族の方を呼び出して連れて行ってもらったり、かなり大変でした」

ひとりで暮らす家族には定期的な連絡を

認知症の女性は、同居している夫の死に気づかず…特殊清掃業者が明かす「苦労した現場」
放置された現場
 近年は「老老介護」が増えてきて、このようなケースが少しずつ増えてきている。

「老老介護で、奥さんが先に亡くなって、追うような形で旦那さんがすぐに亡くなって、特殊清掃に入らなきゃいけなくなる現場も増えてきましたね。そういう現場もDNA鑑定が入ることがあるので、なかなか作業が進まないことがあります」

 なるべく遺体が腐敗せず、DNA鑑定をするような事態にならないようにするにはどうしたらいいのか。

「ひとりで離れて暮らす家族には定期的に電話をして声を聞くなど連絡をするのが大事ですよね。ちょっとでも様子がおかしいことがあったら病院に連れて行ったり、何かあったらすぐに気付けるような状態にしておくしかないです。
足を引きずっていたとか、元気がなかったとか、ちょっとした異変が孤独死につながることって多いので。訪問介護などのシステムが進んできているので、そのような行政サービスを利用するのもとても大事なことだと思います」

<取材・文/山崎尚哉>

【特殊清掃王すーさん】
(公社)日本ペストコントロール協会認証技能師。1992年、東京都大田区生まれ。地元の進学校を卒業後、様々な業種を経験し、孤独死・災害現場復旧のリーディングカンパニーである「ブルークリーン」の創業に参画。これまで官公庁から五つ星ホテルまで、さまざまな取引先から依頼を受け、現場作業を実施した経験を基に、YouTubeチャンネル「BLUE CLEAN【公式】」にて特殊清掃現場のリアルを配信中!趣味はプロレス観戦
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