新年度が始まったばかりで、ネットではすでに「新入社員だけど、もう会社辞めたい」という書き込みも見かける。
それを見て「去年入ってきた新入社員は3カ月も経たないうちに辞めましたね」とため息を漏らすのは、電子部品メーカーに勤める会田正樹さん(仮名・33歳)。社内ではグループリーダーを務める会田さんが、その新入社員と会ったのは昨年のことだった。
新卒(大卒)が1年で辞めてしまう率は11.9%(2018年10月、厚生労働省発表)。会田さんも、すぐ辞めた新人を何人か見てきたが、去年の新入社員・Y川(23歳)は特にすごかったという。
入社式に母親と…嫌な予感がした
「まず最初に驚いたのが、母親と一緒に入社式に来たことです。親同伴で来るなんてネットだけの噂かと思っていたので本当にいるのかよ……と、ドン引きを超えて、もう失笑でしたね。僕も一応、式で軽い挨拶をしたですが、式が終わるや否やその母親が僕のところに来て『どうかよろしくお願いします』と言ってきたんです。その必死になっている母親の横で、当の本人は我、関せず……みたいな顔をしていました」母親と入社式に来た男、それが会田さんとY川との出会いだった。最近は、入社式に親同伴OKの会社も増えているそうだから、全体に過保護化しているのかもしれない。

入社して数日で寝るとはいい度胸だなと思いましたが、まぁ最近まで学生だったし慣れるまで時間がかかるのかなと思い、後日Y川には『気を付けてね』と軽く注意したんです。Y川は『あ、すいません』とボソッと言うだけで反省の色がまるで感じられませんでしたけれどね。これがさとり世代か……とちょっとイラッとしながらも、僕もウルサイ上司と思われたくないので、その時はそれで終わったんです」
しかし、それで終わらなかった。次に報告を受けたのは提携している会社からだった。

さすがにY川も反省したのか、それからは寝ることがなくなったという。しかし……。
寝坊をきっかけに退職
「忘れもしません。あれは去年のW杯の日本vsポーランド戦。試合が夜の11時からだったので就業後、部下達に『サッカー見て遅刻するなよ~(笑)』と注意していたんです。僕はその日、仲の良い友人たちとスポーツバーで試合を見ていて、試合が終わったあと家に帰りました。帰って少し寝て出社するとY川の姿が見当たらない。その日、僕とY川は提携先の工場に出向する日で、提携先の送迎車が迎えに来ていたんです。送迎の運転手にも『Y川くんって子来ないね』と言われて……。『そうですね~』なんて言いながら、内心『アイツ、殺してやろうか……!』と思っていましたね」
結局、Y川から連絡が来たのは正午を過ぎてからだった。

Y川は『すみません。今から行きます』と言ったのですが、提携先の工場は車でしか来れないような場所。自力で来るのはさすがに無理なので『もうイイ。今日は休んでいいよ』と言って電話を切りました。それから、Y川の姿を見ることはありませんでしたね」
入社してわずか3カ月足らずで飛んだ新入社員。
「見た目がチャラ男みたいのだったらまだ対応もできるけれど、最近はY川みたいに見た目はオタクだけれど不真面目みたいな奴が多いので、どう注意していいか分からないんですよね。新人が研修期間を経て使えるようになるまで、会社は給料やら研修費用で約120万円を使うんですよ。どうせ飛ぶんだったら初日で飛んでくれたほうがまだ負担が少なくてマシですね……」
今後入ってくる新元号「令和」の新入社員達は、果たしてどのように育っていくのだろうか。〈取材・文/カワノアユミ〉
【カワノアユミ】
東京都出身。20代を歌舞伎町で過ごす、元キャバ嬢ライター。現在はタイと日本を往復し、夜の街やタイに住む人を取材する海外短期滞在ライターとしても活動中。アジアの日本人キャバクラに潜入就職した著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イーストプレス)が発売中。X(旧Twitter):@ayumikawano