人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。
しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、今回はハローワークでの仕事探しについて解説する。
「全然決まらない」ハローワークでの仕事探し。実は「地方の求人...の画像はこちら >>
日経新聞から「求人出しても9割空振り」と題したハローワーク経由での採用が決まりにくいという事実を取り上げた記事が出て話題になった。ハローワークでは仕事や採用が本当に決まりにくいのか? シニア転職支援の専門家が実態を語る。

2024年のハローワークを介した採用率は「11.6%」

『ハローワーク、求人出しても9割空振り 求職者とミスマッチ拡大』 これは2025年5月20日に掲載された日本経済新聞電子版のタイトルである。2024年のハローワークを介した採用率が11.6%と、9割近くが採用に至っていない過去最低水準だったことを報じた記事だ。

就職・転職という生活に深く関わる場面で使う公共施設であり、失業給付を受給するためにも足を運ぶ場所でもあるため、多くの人の関心も高かったようで、SNSなどインターネット上でも様々な意見を集めていた。その多くはハローワークを使った仕事探しに否定的なものだった。

では、実際にハローワークを使った仕事探しをすると、特に仕事探しが難しいシニアの場合、どのような結果になるのだろうか? 本当に採用されにくいのかを含めて、解説しよう。

求職者も最低でも「7割空振り」

さて、日経新聞の記事が取り上げたハローワークの状況は、求人、つまり企業が採用しようと思ってもスムーズにいかないという話だった。これは「求職者がスムーズに就職できていない」とも言い換えられる。

日経新聞が伝える「9割空振り」というのは、ハローワークの2024年の新規求人数334万4284件に占める就職件数38万9083件の割合である充足率11.6%とは反対に、就職していない割合の89.4%を指している。

同じように求職者のうちどれくらいが就職したのかを示す就職率は、就職件数38万9083件から新規求職申込件数148万4855件を割った26.2%となる。つまり、新規求職申込のうち「73.8%」は就職できていない。


これは新規求職申込件数から計算しているため、過去の申込者を含めれば、あるいは一人で何件も応募しているケースもあるはずなので、不採用の割合はもっと大きいことになる。つまり最低でも「7割空振り」、もしかすると「9割空振り」かもしれない。

物足りない?ハローワークでの仕事探し

「全然決まらない」ハローワークでの仕事探し。実は「地方の求人」には“レアな案件”が眠っていた
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実際にインターネット上でのハローワークの評判は厳しい内容が多い。これは、企業が無料で求人を出せることや、求人数が膨大でチェックが追いつかないことによって、ハローワークに掲載される求人に、ブラック企業的な「条件のよくない求人」や「怪しい求人」が混ざっていると言われるためだろう。

民間の人材紹介会社は、求人企業から紹介手数料をもらう。しかし、ハローワークは公共の職業紹介サービスなので企業が求人掲載する場合も無料であり、そのために、膨大な求人が掲載され、その分、”質の悪い求人”も含まれてしまう。

また、ハローワークのサービスに物足りなさを感じる求職者も多いようだ。

ハローワークでも一応、履歴書の書き方相談や面接の指導、求人企業への応募状況を教えたり、求人企業への質問の取次や面接日程の調整などをしてくれたりする。しかし、インターネットのみでの利用の場合はこうした支援は受けにくい。また、履歴書相談や面接練習を受けたくても、実施時間や申し込みなどが面倒で受けにくいとの声もある。

そもそも、仕事の紹介についても、ハローワークでは自身でパソコンによって求人を調べたものに、紹介状を発行してもらって応募するだけ。窓口では他の人の応募状況などを教えてくれるものの、サポートが手厚いわけではないとの声が多い。

私たちのシニア向け人材紹介サービスに登録したシニアからも、ハローワークについての話を聞くことがある。
しかし、その多くは「何件応募しても受からない」「連絡が来ない」と嘆く。ハローワーク以外のサービスを活用しても、年齢を重ねるほど就職は難しくなるのだが、ハローワークの支援が限定的であるためにこうした声が上がるようだ。

「応募してもだいたい何ヶ月か連絡がないまま、待たされる。ハローワークの担当者から電話で確認してもらっても、まだ選考中だとか、担当者が不在でわからないとしか返事がないし、ハローワークでもそれ以上のことをしてくれない」

「同時応募を3件に制限されたが、どの応募先でも1ヶ月くらい返事がないので、月に3社しか応募できない。どうせ苦戦するのだから30社くらい一気に応募したい」

「ハローワークの掲示板に出ていた65歳以上歓迎求人に応募しようとしたら、今50人くらい応募しているというので、応募している年齢層を聞いてみたら、半分以上が50代以下だというので驚いた」

こんな話を聞くことも珍しくない。

民間の紹介会社では業界や職種、新卒などの年代や対象者を絞って専門特化している会社も多いが、ハローワークの求人は幅広く膨大なため、専門性の面でも物足りなさを感じる人は少なくない。

私たちもシニアに特化した人材紹介サービスを提供しているが、ハローワークのシニア歓迎求人の実態は「シニア“も”歓迎」で、「シニア“のみ”歓迎」ではないため、若手と競合してしまうことにも注意が必要だ。

地方で膨大なハローワークの求人数

では、ハローワークを使った仕事探しにはメリットはないのだろうか?

もちろん、ハローワークにもメリットは多く、その最大のものは何と言っても「膨大な求人の量」だ。そして、その求人数は都市部だけでなく地方でも圧倒的。そのため、地方での仕事探しでのハローワークの効果は高い。

そして、その中には意外な”レアな求人”が載っていることも多い。

例えば、都市部に住む人が地方移住して農業に従事したいと思っても、一般的な転職サイトや人材紹介では限られた求人しか出てこないが、ハローワークで調べると、条件やエリアを限定しなければかなりの数の農業の求人が出てくる。
これは、無料で求人掲載できることで、小規模な事業所でも負担が少ないためだ。農業に限らず、畜産業や林業、水産業の求人もある。

同じ農林水産業でもリゾートホテル内の観光農園の仕事といった特殊なものや、草刈りのみの仕事、工事はしないので農業に分類されているが庭園の手入れの仕事なども見つかる。

学校で使用するIT機器のメンテナンスや準備、先生のサポートをする仕事や、スクールバスがある郊外の学校の添乗員の仕事、シニア向けのものでは警備の現場には出ない警備員の指導専門の仕事や、青いランプのパトロールカーで巡回する防犯の仕事など珍しい求人が出ている時がある。

ほかにも、役員や支店長の候補を募集する求人や法人やサービスの立ち上げメンバー募集など高いポジションを目指せる可能性のある求人も見つかることがあり、様々なチャンスがあることがわかる。

このように、ハローワークは地方での仕事探しでは特に積極的に活用したいサービスである。そのうえで、スピード感を求めたり手厚い支援を求める求職者や、ハローワークでなくても豊富に求人が集まる職種に就きたい求職者なら、民間の人材紹介会社も併せて使うととより効果的だろう。<文/中島康恵>

【中島康恵】
50代以上のシニアに特化した転職支援を提供する「シニアジョブ」代表取締役。大学在学中に仲間を募り、シニアジョブの前身となる会社を設立。2014年8月、シニアジョブ設立。当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、シニアの支援をライフワークとすることを誓う。シニアの転職・キャリアプラン、シニア採用等のテーマで連載・寄稿中
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