社会的弱者への意識が軽い市民活動家が多い
★相談者★ゴールデンパンダ(ペンネーム) 無職 54歳 女性在日、宗教二世、発達障害、子供の頃からの貧困、小5で自殺未遂、生活苦で窃盗、累犯で4回服役。現在、小菅ヒルズで控訴中です。
服役中の投稿活動で左翼市民運動に誘われるようになり、前回の出所後、あちこち関わるようになりました。
市民運動も結局、「作家の○○さん」「学者の○○さん」など偉い人の発信中心で、当事者置き去りなのが現状です。実刑でも執行猶予でも今後を考えると暗澹とします。
佐藤優の回答
貧困をはじめとする社会的弱者の問題に取り組む市民活動家にはさまざまなタイプの人がいます。比較的多いのがかつては革命を目指していたものの、それが非現実的であると悟って、少しでも社会的正義のために働きたいと思っている人です。こういう人たちは、意識の高い私たちが(左翼用語で「前衛」と言います)、社会的弱者の利益を体現して、いろいろやってあげるという上から目線で人に接する傾向があります。
また、経済的にある程度、余裕がないと活動できないので、あなたが「高学歴富裕層が多く、生活保護バッシングする人がいたり、在日韓国人問題意識も軽い人が多い」と感じるのは当然のことと思います。
そもそも社会的弱者への取り組みが行政や市民団体によって行われるのはスウェーデンをはじめとする欧州の文化です。対して、日本では家族がこの機能を果たします。その違いについて慶應義塾大学法学部の井手英策教授はこう述べています。
〈家族の原理を普遍主義的な、社会民主主義的な方向へとつなげていったスウェーデンがある。
他方で、家父長制的な、パターナリスティックな家族のイデオロギーに即して、社会を編成した国がある。それは全体主義を経験した日本だ。丸山眞男がするどく見抜いていたように、全体主義の土台にはコミュニティがあり、そのなかの閉鎖性、同調圧力は、たしかに全体主義の重要な基盤だった(丸山眞男『新装版現代政治の思想と行動』)。
ようは、いかなるかたちで現象化するかのちがいはあれども、社会が危機に直面したとき、人びとは「家族のように」助けあうことを志向するということである。〉(『富山は日本のスウェーデン 変革する保守王国の謎を解く』195~196頁)
東京拘置所のある葛飾区では、生活保護は1人月額15万円前後です。しかし、生活保護を受ける資格がある人のなかで約13%の人しかこの制度を活用していません。生活の困窮の問題は、まず家族で解決すべきだという文化がいまだ強いからです。
家族のサポートがない生活困窮者にとって、この国も社会もとても冷たいです。そのような状況で社会的弱者のために活動している活動家たちは重要な機能を果たしています。不愉快な思いをすることもあると思いますが、市民活動家の力を遠慮なく利用するのが現実的選択と思います。
★今週の教訓…… 「弱者にやってあげる」感覚の前衛が多いです

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―
【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数