「前走は落鉄していても強かったので、この馬が本命」「シスキンの産駒は信頼できる」
「この子は地方で好成績だったし展開も向きそうなので応援したい」


 東京競馬場で強い日差しが照りつける中、東京・阪神・函館各競馬場の予想にいそしんでいたのは “UMAJO”のひかぴさんだ。

「競馬が好きすぎて会社を退職」…全10場制覇した競馬歴3年“...の画像はこちら >>
 彼女の口から発せられる言葉は、とても競馬歴3年とは思えない。
ひかぴさんが初めて競馬を現地観戦したのは、2022年のヴィクトリアマイル。先頭でゴールを駆け抜けたソダシの純白で煌びやかな馬体に一目ぼれしたという。

 それから丸3年が経過し、JRAの全10競馬場をすでに踏破したという。この事実だけでも、彼女が競馬沼にドはまりしていることがわかるだろう。

ギャンブル嫌いの女性が「競馬にハマった」ワケ

 埼玉県で生まれ育ったひかぴさんは、それまで競馬には全く関心がなく、むしろギャンブルを毛嫌いしていたほど。しかし、ソダシと出会う数週間前に一緒に飲んでいた競馬好きの知人に誘われ、軽い気持ちで予想をしてみると、それが的中。数百円が数千円になって戻ってきた。

 その直後に現地で目撃したのが、ソダシが3つ目のG1タイトルを獲得したヴィクトリアマイルだった。

「学生時代は同人誌を出すなど、オタ活が趣味でした。社会人になってからは忙しくなって、趣味といえば美容とお酒くらい。まさか競馬にはまるなんて夢にも思っていませんでした」

 初めて現地でレースを観戦し、一瞬にして競馬に魅了されてしまったひかぴさんが、当時の心境を振り返る。

「競馬場の一体感がとにかくすごかったです。スタート時の静寂、お馬さんの足音、ファンの歓声……。
どれも鳥肌ものでした」

競馬のために退職することに

 その後、ひかぴさんは突拍子もない行動を取った。ソダシとの出会いから4ヶ月後、競馬に費やす時間を確保するため、勤めていた編集プロダクションを退職し独立。競馬沼にどっぷりはまっていくことを自ら決意したのだ。

 そして、ほぼ毎週の競馬場通いとともに始めたのが一口馬主だった。ひかぴさんが出資したのはサトノジャスミンの2022産駒。のちにゴージャスと命名されることになる白毛の牝馬だった。

「競馬が好きすぎて会社を退職」…全10場制覇した競馬歴3年“UMAJO”の「リアルな収支」とは
ひかぴさんが出資した「ゴージャス」
「競馬を始めて3ヶ月くらいで出資を決めました。SNSで白毛のお馬さんに出資できると知って、気付いたときにはポチっと申し込みを決めていましたね(笑)」

出資した馬がまさかのデビュー戦勝利!

 生まれて初めて買った馬券を的中させた“幸運の女神”ひかぴさんだが、その強運は一口馬主ライフでも発揮。なんと、初めて出資したゴージャスがデビュー戦を勝利したというから驚きだ。

「ゴージャスのデビュー戦は緊張のせいで、保存用の応援馬券しか買っていなくて……。他の馬券を買うのを忘れてしまったんです。せっかく勝ってくれたのに馬券の払い戻しはゼロでした(笑)。でもありがたいことに、口取りにも参加させていただいて、本当に幸せな一日だったのを覚えています」

 ちなみにゴージャスは、その後、4戦して5着が最高。1口の出資金6万円に対して、今のところ1万6000円ほどが戻ってきているが、維持費(エサ代など)やクラブの会費で毎月5000円近くがかかっており、黒字化へはまだ道半ばだ。


“元を取る”ためにはゴージャスがあと2~3勝する必要があるのだが、実はひかぴさん、すでに2頭目と3頭目にも出資済み。2歳馬と1歳馬に合計20万円以上を先行投資しているという。

 このように一口馬主ライフは現時点で大幅な赤字となっているが、出資馬の活躍次第では数年後に大幅黒字になっていてもおかしくないのが面白いところ。今後も毎年1頭ずつは出資をしていきたいという。

馬券の収支は…

「競馬が好きすぎて会社を退職」…全10場制覇した競馬歴3年“UMAJO”の「リアルな収支」とは
東京競馬場にて。今春の府中GⅠは、すべて現地観戦したようだ
 そんなひかぴさんの馬券ライフはというと……。競馬を知れば知るほど、苦戦しているようだ。

「1~2年目は結構調子が良くて、10万馬券もゲットしました。でも去年(2024年)は改めて計算してみたところ、ネット購入分だけで40万円くらいのマイナス……。現地分も含めるとかなりダメージを受けていました」

 ただ、ひかぴさんは手当たり次第馬券を買っているわけではなく、どれだけ負けても1日の損失は6000円までと決めているそう。取材日も収支をほぼ“トントン”で終わらせていた。

遠征費用が金銭的な負担に…

 今のところ、馬券も一口馬主もマイナス収支のひかぴさんだが、それ以上に金銭的な負担となっているのが全国への遠征費用。ひかぴさんが現在住んでいる東京都内から、全国の競馬場へ遠征するたびに、かなりの費用がかかっているようだ。

「北海道へは札幌・函館の現地観戦のほかに、牧場見学にも何回か行っています。でも日帰りで行くことが多いです。
宿泊するとしても、1泊8000円くらいのビジネスホテルまでに抑えています。京都や中京、新潟などの遠征は基本的に車で行くことが多いですが、阪神には夜行バスで行ったこともありました。(地方競馬の)盛岡にも夜行バスで行ったことがありますが、その時はさすがに疲労がすごくて、帰りは新幹線を利用しましたね(笑)」

 宿泊した際の食事は近くの居酒屋などでできるだけ安く済ませているそうだが、1年間に10数回も全国に遠征するとなると、お金の出どころも気になるところ……。

お金はどこから捻出している?

「ぶっちゃけどうやって捻出しているんですか?」と直球の質問を投げかけたところ、「競馬というモチベーションのお陰で、フリーになってから収入が会社員時代の2倍近くになりました(笑)」とのこと。
「(一口馬主としての)出資馬も毎年1頭ずつ増やしていて、『今年もいい子いないかな?』『他のクラブも見てみようかな?』と常に考えています。今後もさらに馬の推し活は捗りそうです」

 最後に、今後の目標を聞くと、「去年始めたYouTubeが放置されているので、もっと競馬コンテンツを増やせるように頑張りたいです。あとは将来的に引退馬の支援もしたいですし、競馬関連のお仕事もできればなと思っています」と展望を話してくれた。

 ひかぴさんにとって、競馬は人生のモチベーションそのものになりつつあるようだ。

取材・文/中川大河

【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。

編集部おすすめ