こんにちは、シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)です。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。

まだまだ暑さが続きます。休みの日はサンダルしか履きたくない方も多いでしょう。筆者もそうです。近年は夏が長くなり、天候も荒れるのでサンダルの需要が激増し、ひとことで「サンダル」とはくくれないほどの多種多様なサンダルが出回るようになりました。

昔ながらのビーチサンダルはもちろん、リカバリーサンダル、アウトドアサンダル、スニーカーサンダルなどなど。それぞれにはきちんと目的があり、歩行距離の限度もあります。足にいいサンダルと聞いたのに、意外と痛くて歩けないなどのトラブルは、用途をきちんと理解していないからです。サンダルの奥深い世界をご紹介します。

リカバリーサンダルでは長距離は歩けない

「すぐに足が疲れてしまう」サンダルの特徴とは?2万人の足を触...の画像はこちら >>
数年前から爆発的ブームになっているリカバリーサンダル。足と体の疲労をより早く回復させるためのサンダルですが、ふわふわな履き心地のイメージが先行して一日中歩きっぱなしで足が疲れてしまうことがあります。あくまで「疲労回復(リカバリー)」が目的なので、歩ける距離はせいぜい小一時間が限度です。リカバリーサンダルは足に直接当たるフットベッドという部分がかなり柔らかく設計されているので、関節に負担がかかりにくいのですが、足元がソフトということは、ぐらぐらと不安定と同義です。砂浜の上を裸足で何時間も歩くと疲れます。
これと同じことなのです。あくまでもアスリートが練習の合間や試合の移動時に履いて疲労を取り除く目的でつくられているので、誤解なきよう。ファッションとして取り入れるのも流行ですが、やはり長時間は歩けません。

ビーチサンダルは歩けないが実用的

「すぐに足が疲れてしまう」サンダルの特徴とは?2万人の足を触ったプロが教える4タイプの“限界距離”
パール社「ギョサン カリプソメンズ」。2200円。写真は販売サイトAmazonより
昭和からおなじみのビーチサンダル。100均でもおみやげ屋でもよく見かけます。スポンジとビニールの鼻緒で出来ているものは、当然ですがそこまで歩けるものではありません。より実用的なのが「ギョサン」と呼ばれる一体成型のビーチサンダル。ギョサン=漁業従事者用サンダルというだけあって、思いのほか滑りづらいのが特徴。ファッションではなく実用に振り切っているので、2~3年履き続けても鼻緒がすっぽ抜ける・ちぎれることもなく、耐久性は半端じゃありません。ただし、濡れた甲板の上とか、防波堤の上での「立ち仕事」には向いていますが、長時間歩くことは不可。漁業に携わるプロの方なら皮膚も厚いのですが、一般人が履くと靴ずれは避けられません。

若いころはビーサン、ギョサンでも余裕で歩けたのに……と思っても、実は人間の足は加齢とともに、足裏の脂肪層がどんどん減っていきます。当然足裏に響きますので、コンクリの上を歩き続けるのは無理です。
釣りやマリンスポーツ用に限定して履くのが無難でしょう。

アウトドアサンダルはひとつあると超便利

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サロモン「XA PRO 3D AMPHIB」。1万8700円。写真は公式HPより
サンダルなのにハイキングやキャンプ程度であれば一足でこなせるのがアウトドアサンダル。サロモンやHOKAが有名ですが、砂利道でもちょっとした川を渡るのにも安全。とにかく滑りづらくタフなつくりが特徴です。当然、長時間の歩行も問題ありません。筆者の知り合いには東南アジアの1か月ほどの旅行を、サロモンのアウトドアサンダル一足でこなした強者もいたほど。価格は1万~2万前後とサンダルの中では高価な部類に入りますが、実用という1点においては右に出る存在はありません。旅先の道路状況を一切考える必要もなく、濡れたところであっという間に乾きます。どのメーカーのアウトドアサンダルもつまさきに強力なバンパーがついているので、小石に蹴つまづいても平気。ソックスと合わせて履けば真冬以外のオールシーズンで履けるので、トータルで見るとコスパもよく、一足あると本当に重宝します。

歩くためならこれ一択、スニーカーサンダル

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キーン「ダブルケー450サンダル」。1万8150円。写真は公式HPより
スニーカーサンダルは文字通り、歩くためのサンダルです。この数年で各メーカーがこぞって開発に乗り出している、サンダル界隈ではもっともアツいカテゴリー。キーンのダブルケーがわかりやすいのですが、ウォーキングシューズのソールにアウトドアサンダルのアッパーを合体させ、まさに一日中歩いても疲れないモデル。
アウトドアサンダルとやや違うのが、どちらかというと舗装された道路向きということ。アウトドアサンダルも歩きやすいのですが、泥や山道などの不整地向きで、コンクリの上ではソールの消耗が早いのが欠点。それほどアウトドアに縁のない人でも、満員電車やキャリーケースが行き交う人混みの中では、むき出しの足ではケガをすることも多いはず。そこでアウトドアブランドが中心になって都会用の歩けるサンダルを開発したところ、大当たり。夏は日本だけでなく世界中が猛暑なので、靴なんか履いてられないという方には救世主的存在となりました。無印良品などでも数千円で飛ぶように売れているので、とっつきやすいのも大きなメリット。足やヒザにトラブルを抱えている方でもすいすい歩けます。

近年はアウトドアサンダル・スニーカーサンダルの勢いがすごいですが、実は水害対策にも有効です。スニーカーでの避難が推奨されていますが、秒を争う時に紐を結ぶスニーカーでは間に合わず、避難先でも濡れっぱなしの靴では落ち着かないものです。一瞬で履けて、かつ頑丈なサンダルなら水の中でもケガを気にせず、脱げることもなく安全に避難ができます。サンダルはもはや暑さ対策だけの存在ではありません。サンダルの用途をよく考えて一足所持しておくとよいかと思います。


【シューフィッター佐藤靖青】
イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。YouTube『足と靴のスペシャリスト』。靴のブログを毎日書いてます『シューフィッター佐藤靖青(旧・こまつ)@毎日靴ブログ』
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