結婚前の遊び心で手を出したマッチングアプリ。
新婦が目指したこだわりの披露宴
輸入車ディーラーに勤めるイケメンの光人さん(仮名・29歳)は、看護師の涼子さん(仮名・24歳)と1年ほど交際し、晴れて結婚披露宴を挙げることになりました。涼子さんの希望もあり、場所は海沿いのホテルをチョイス。本番までの間、案内状の作成や趣向を凝らしたおもてなしなど、二人は毎晩夜遅くまで準備をしたと言います。
「僕はどちらかと言うとめんどくさがり屋な方で、あんまり細かいことを考えるのは苦手なんですけど、涼子は僕とはちがい、何に対してもアイデア満載な女性でこだわりがとても強いんですよ。ましてや、一生に一度の晴れ舞台でしょ? もう彼女の張り切り度合いは半端ないんです。もちろん僕もお手伝いはしていますけどね!」
完璧な披露宴だったはずが…
どことなく自慢げに語ってくれた光人さん。涼子さんには絶大な信頼を置いているそうです。特に涼子さんは花が大好きで、花屋に勤めている友人にいろいろなアドバイスをもらい、ホテルには頼らずに、自分たちオリジナルの会場演出をたくらんでいたそうです。準備万端で臨んだ披露宴。涼子さんが特に力を入れた鮮やかな色の花が、会場の至る所に飾られています。薄暗かった会場の一部が一際明るくライティングされ、光人さんと涼子さんはゆっくりと入場し、披露宴がスタートしました。
ところが、ベテラン司会者の流暢なスピーチの間、何気に会場を見渡していた光人さんは、「一瞬目を疑った」と言います。新婦側の円卓に座っている水色のドレスを着た女性に強烈な見覚えがあったのです。よく見ると、向こうも時々、光人さんに視線を送っているように感じたそうです。
えっ?まさかあの時の…!
しかし、全くだれだったか思い出せません。光人さんは、何か気のせいだと自分に言い聞かせて、来賓の祝辞に耳を傾けていました。ただ、なんとなく嫌な予感は払拭できず、ありがたいスピーチはうわの空といった感じで、せっかくの披露宴に集中できずにいたそうです。光人さんの上司による祝辞で「最近ではマッチングアプリで結婚するケースもあるなか、光人くんと涼子さんは、まるでドラマのような出会いで……」というメッセージが耳に入った瞬間、その“マッチングアプリ”というワードで一気に記憶がよみがえった光人さん。
「思い出したんです、その水色のドレスをきた女性のことを。涼子と出会う前に、一度試してみたかったマッチングアプリで、興味本位に適当なプロフを書いて登録したらすぐに反応があった女性だったんです。何度かデートもしましたし、関係も持ちました。ただ、涼子に出会ってからは一方的にブロックしたんです」
光人さんは、心臓がバクバクして変な汗も出始めたとき、その女性が座っているテーブルは主に涼子さんの同僚や仕事関係の面々が集められていたことを思い出します。
一瞬「終わった」と思った

次の瞬間、光人さんは目を疑う光景に遭遇します。
「あ、もう終わったと思いました。その女性が僕たちの横にあるマイクの位置までゆっくりと歩いてくる短い間に、いろんな事が頭をよぎりました……。暴露されるんじゃないか、何か危害を加えられるんじゃないかとか、あの時の心臓の動悸はいまだに忘れられません」
「イケメンだから見張っておかないと」
その女性は、雛壇の新郎・新婦の前で一瞬立ち止まり、笑顔で軽く会釈をしてからマイクスタンドの場所までゆっくりと歩いていきました。光人さんはその時、覚悟を決めたと言います。「光人さん、涼子さん、この度はご結婚おめでとうございます。(中略)涼子! 光人さんはイケメンだから見張っておかないとダメだよ。末長くお幸せに!」
その女性の祝辞が終わり、涼子さんだけが大きな拍手を送るなか、光人さんは呆然と前を向いたまましばらくボーッとしていたと言います。その後、滞りなく披露宴は終了し、光人さんと涼子さんは新居で新婚生活をスタートさせます。
自業自得のビクビクした新婚生活

涼子さん曰く、その女性は職場でも仲の良い部類に入る同僚で、結婚の話が出た時に自ら「絶対、同僚代表で呼んでネ!」と言われ、涼子さんも特に招待プランはまだなかったので、招待を約束したそうです。
「披露宴は何とか無事に終えることができたんですが、なんとなくその女性の執念じみた行動がとても気になるんです。いつか家に遊びにくるんじゃないかとか……」
今さらどうすることもできない状況は十分承知な光人さん。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営