しかし、華やかなキャリアの裏には、休業中に浴びた痛烈な偏見と差別の嵐が。かつては睡眠導入剤やカミソリを肌身離さず持ち歩き、心の闇と闘った日々もあったという。
そんな美音さんが、過去に受けた深い傷、世間の冷たい視線、そしてこれまであまり語られることのなかった恋愛経験の真実を勇気を持って赤裸々に語ってくれた。
読み方を間違われる芸名の由来

音市美音(以下、音市):そうですね、ほとんど「おといち みおん」と読まれます。
――タレントやセクシー女優など、表に出る仕事をしていると、読みにくい名前は広まりにくいし、ちょっと不利じゃないですか。なぜ「おいち みお」という読み方にしたんですか?
音市:事務所に入って、芸名を決めるときに「苗字と名前がちゃんとある芸名がいい」と言われました。下の名前「みお」は、昔から響きがかわいいなと思っていて、生まれ変わったらこの名前がいいなって(笑)。
――語感がかわいいですよね。
音市:それと、ひらがな表記にしたとき「みお」って字面もかわいいじゃないですか。あとは、竹内結子さん主演の映画『いま、会いにゆきます』の役名「みお」という名前に影響を受けたんです。
――苗字も「おといち」ではなく「おいち」と読むんですよね。
音市:苗字を決めるのが難しかったんですけど、デビュー時に担当していたプロデューサーさんが決めてくれたんです。
――なるほど。
音市:読みづらいけど、漢字を一度見たら印象に残る名前なんです。
――実際、会う人はほとんど読み方を間違えますか?
音市:はい、ほぼ間違えますけど、もう慣れちゃいました(笑)。
セクシー女優としてのデビューとそのきっかけ
――音市さんはデビュー、引退、復活を繰り返している変わった経歴をお持ちですが、そもそもセクシー女優になったきっかけは何だったんですか?
音市:デビューのきっかけはスカウトです。街を歩いていたら声をかけられて、当時所属していた事務所に面接に行きました。私も若かったので芸能の仕事に興味があったし、その事務所はセクシー女優も所属していると正直に話してくれたし、嘘や騙しのない事務所だなと感じたんです。
――抵抗はなかったですか?
音市:正直、業界のことを知らなかったんです。でも、メーカーに専属女優として契約できる“単体女優”なので、契約条件も良いと説明されました。当時はガリガリに痩せていたので、グラビアモデルは自分には無理だと思っていたんです。3ヶ月くらい悩みましたけど、いいお話をいただいたので、将来につなげられたらいいなと思ったし、事務所のサポートや丁寧な説明のおかげで、「チャレンジしてみようかな」と思いデビューを決めました。
――知識がなかった中で、人前で性行為をすることに抵抗はありましたか?
音市:抵抗はすごくありました(笑)。当時は経験人数が付き合った2人だけで、彼氏以外の男性としたことがなかったんです。多くの女性がそうだと思うんですけど、偏見もありました。学生時代に付き合っていた彼氏が持っていて、パッケージ写真を見ただけで泣いたりしてましたよ(笑)。でも、販売サイトを見たら「こんなにキレイな女性が出ているんだ!」って思い、少しずつイメージが変わっていきました。それでも、最初の現場で初対面の男優さんとの撮影は不安でいっぱいでしたね。
初デビューとSNSでの誹謗中傷、そして1回目の引退

音市:デビューしたので、宣伝用にブログを始めたんですが、コメント欄に悲しいコメントや誹謗中傷が来ることがあったんです。
――2011年当時のブログにも、現在のような誹謗中傷コメントがあったんですか?
音市:裸の仕事なので、普段は言われない細かい見た目のマイナスコメントとか、自分が気づかないような部分を指摘されたりするんです。基本的に人の意見を気にする方なので傷つきましたね。それまで普通に生きてきたので、そういう誹謗中傷に晒されることはなかったじゃないですか。しかも、文字なので100個の嬉しいコメントがあっても、1個の悪口が気になって落ち込んでしまうんです。なので、デビュー当初は苦しかったですね。
――SNSの誹謗中傷は社会問題です。
音市:楽しく活動して、私自身を知ってもらいたいと思いブログをやっていたんですけど、こういうひどいコメントも来るんだって思いました。ある程度の覚悟はあったんですけど、いざ自分の身に起こると「あぁ~」って落ち込みましたね。
――それも初回の引退の原因ですか?
音市:半年間で6本撮影して、自分の中では「十分やったな」って満足感もあったんです。メーカーからは契約更新の話もあったんですけど、誹謗中傷のメンタル的な負担や生活スタイルを考えて、一度きっぱり辞めたいと決めたんです。
――コメントを読んで、かなり病みましたか?
音市:今思えば、誹謗中傷のコメントはそれほど多くなかったんですけど、元々がネガティブ思考なんです。最初は頑張って「気にしないようにしよう」「言いたい人は言えばいい」って考えるようにしてたけど、ストレスにはなってましたね。
――現在もSNSでの誹謗中傷は問題になっていますけど、10~15年前からそういう人がいたんですね。はけ口として使われていた感じですか?
音市:真相はわからないですけど、評価を下げようとしたり、蹴落とすようなコメントもありました。
――当時は開示請求のやり方も一般的ではなかったですからね。
音市:耐えるしかなかったです。でも、不特定多数の方が読むものは、気を遣って書かないといけないって学びました。
セクシー女優引退後の生活と周囲の反応
――最初のデビュー時は他にも仕事をしていたんですか?
音市:社会人でした。撮影は月1回だったので、休みの日に撮影を入れていたんです。
――職場でセクシー女優とバレませんでしたか?
音市:何人かには気づかれました。職場で鎌をかけられるような質問をされたりするんです。
――そういう対応をする人もいるんですか?
音市:相手も探りつつ「Hなことは好きなんですか?」「Hなことに興味があるの?」とか聞くんです(笑)。
――完全にセクハラです。
音市:でも、男性ばかりではなくて女性からも聞かれたことはあるんです。
――音市さんはどう返すんですか?
音市:販売されている作品の写真と見比べたら分かるし、嘘をつく必要もないし、自信を持ってやっていたことだったので、「セクシー女優をやってます」と認めちゃうこともありました。反応は人によって違って、「すごいね」「ファンでした」って言ってくれる人もいれば、偏見や嫌悪感を示す人ももちろんいましたよ。でも、働きづらくなったり、職場の雰囲気が悪くなると辞めることもありました。男性は「すごいね」ってポジティブに反応してくれる人が多かったんですが、女性のなかには嫌悪感を示す人が多かったですね。
2回目のデビューと復帰のきっかけ

音市:今の事務所のマネージャーや社長と会う機会があり、食事を一緒にしていたら、業界の面白さやファンとのイベントの楽しさを思い出したんです。「またファンの人に会いたい」「もう一度やってみたい」って気持ちが強くなって復帰しました。
――イヤな思い出より、楽しかった思い出が上回ったんですね?
音市:はい、1回目の引退から数年経ってSNSもやってなかったので、純粋に「ファンのみなさんとの楽しかった思い出をもう一度」って思い、ファンの人に会いたいという気持ちが上回ったんです。
――1回目の引退後の日常生活で、セクシー女優をやっていたことの弊害はありましたか?
音市:日常生活で「音市美音さんですか?」とか声をかけられることはなかったし、「私なんて誰も知らないでしょ」って思っていたので、普通に生きていました。でも、一番気にするのは職場でした。引退後、2年間くらいは「気づかれないかな」って心配していました。職場や恋愛でイヤなことが重なって、精神的に落ち込んでました。
――「音市美音」の活動の影響ですか?
音市:恋愛でも付き合ってからセクシー女優だったことがバレるのはイヤだったので、付き合う前からカミングアウトしていました。それを受け入れてくれる人もいましたし、「無理だ」と言われたこともありましたね。仲が良かった女性の友達からも、セクシー女優だったことを知られた瞬間「セクシー女優をやっていたんだ。ごめん無理。友達をやめる」って言われ、連絡が途絶えたこともありました。
――どうしてそこまで避けるんですかね?
音市:今でも「セクシー女優だったの?」って言われることもありますし、それを知ると距離を置かれることもあるんです。嫌悪感を抱く人がいることを分かっていながら、セクシー女優をやっていたので、そういう考え方も理解はできるし受け止める覚悟もあるんです。
――思い出しましたか……。そちらの話は落ち着いてから聞きます。そんな気持ちを抱えながらも再デビューしたのは、先ほども言っていましたが「ファンとの楽しい思い出」なんですか?
音市:2回目の復帰は精神的にも不安定でしたけど「変わらなきゃ」「楽しく生きたい」って気持ちが少しずつ出てきました。メーカーのキャンペーンガールもしていたので、ファンから受け入れられたのが嬉しかったです。
――撮影も楽しくできましたか?
音市:撮影現場にも慣れていて、楽しく撮影できたし、自由にできた部分もありました。イベントは一度しか開催できなかったけど、ファンの方から「待ってたよ」と声をかけてもらえたことが本当に嬉しかったです。自己肯定感の低い私にとって、その言葉は大きな励みになり、ファンのみんなのために頑張ろうという気持ちが芽生えました。
――デビュー時は気にしていたSNSはどうでしたか?
音市:ツイッター(現・X)を使っていたけど、悲しい思いはしなかったです。アンチや中傷にも強くなったし、レビューで落ち込むことも減りました。でも……。
――先ほど話そうとしたことですか?
セクシー女優復帰の周囲への影響と精神的な葛藤
音市:直接、私に対する攻撃ではなくて、友人や身近な人たちに対しての誹謗中傷があったんです。友達が務める職場で友達が「セクシー女優の友達」「お前もセクシー女優だろ」とイジメられたんです。私自身が言われるなら覚悟がありますけど、友達が巻き込まれるのは本当に辛くて、罪悪感でいっぱいでした。それが精神的に一番キツかったです。
――どうしてそのことを知ったんですか?
音市:誹謗中傷を受けている友達から相談されたんです。
――どうして音市さんとは関係のない職場の人が知っていたんですか?
音市:友達の職場の人と会ったことがあるんです。
――それだけの理由でイジメですか!? セクシー女優が友達というだけでイジメる世界があるんですね。
音市:私も驚きました。非難するなら、直接私に言えばいいのにって思いました。その友達に対して何もできない辛さと罪悪感でいっぱいでしたね。同時期にいろいろと重なったので精神的に不安定になり、自分自身を否定して、食事も喉を通らないようになりました。そこで、メンタルクリニックに通い始め、睡眠導入剤も飲んだんですけど寝られず、「私なんていない方がいいんだ」などと考えてばかりいました。一瞬でもこの苦しさから逃れたくて、リストカットもしました。
――かなり追い込まれましたね。
音市:常に睡眠導入剤とカミソリを持っていないと動悸がしてしまい、仕事中もトイレでリストカットをしないと生きていけないほどでした。カミソリを忘れたときには、わざわざ買いに行くこともありました。
――それは本当に辛かったですね。どうやって乗り越えたんですか?
音市:今のマネージャーや事務所の社長が支えてくれたんです。「私の方がどうして変わらないといけないんだ」っていう憤りもありましたが、生きるんだったら楽しく生きたいという気持ちも芽生えて、やり残したことをやりたい、夢を叶えたいって思えたんです。それが写真集のクラウドファンディングや今回の写真展開催につながっているんです。
2回目の引退と現在の新たな挑戦

音市:一度、落ち込んだことで自分のやりたいことが明確に見えてきました。コロナ禍の時に働いていた飲食店が影響を受けたんです。そこで、次の人生で「何をしたいか」「何ができるか」って考えたら、ファンの人がずっと支えてくれていたことを思い出し、誰もが辛い時期に、少しでもみなさんの笑顔のお役に立てたらいいなと思い、バーイベントをスタートしました。いつか自分で飲食店をやってみたいという夢にもつながるし、勉強もできるので現在も定期的に開催しているんですよ。コロナ禍で「人生何が起こるかわからない」って強く感じました。それまではお金を好きなことに使ってたけど、人として成長したい、人として役に立ちたい、自分に自信を持ちたいって思うようになり、今は楽しく生きています。
――2回目の引退はやりきった感じですか?
音市:はい、2回目は「これで最後」って気持ちでやったので、満足してます。これまで出した作品数は多くはないけど、自分の中ではやり切りました。
――引退しても、いまだに事務所に所属している理由はあるんですか?
音市:撮影会や他の女優さんとのコラボイベントをやれるんです。現役時代は他の女優さんと交流がなかったので新鮮で楽しいですね。
――いまもどこかの職場で働いているんですか?
音市:はい、働いています。
――職場で何か言われたりしますか?
音市:昔ほどじゃないけど、半年くらい働くと鎌をかけられたり、態度が変わったりすることがあります。現役女優じゃなくても、過去の作品などがネットで出てくるってだけでイヤな気持ちになる人もいるみたいで、職場の雰囲気が悪くなると辞める選択をしてます。それは、自分のためでもあり、周りに影響しないためでもあります。
――腫れ物扱いみたいな感じですか?
音市:そうですね。最近だと、年齢が上の人が多い職場だったから直接的な冷やかしはなかったんですけど、話す回数が減ったり、距離を置かれたりする雰囲気は感じました。
――世間のみなさんはどこでそういう情報を得るんですかね?
音市:たまに自分の名前をSNSで検索すると、「〇〇駅で見かけた」とか「電車にいた」なんて書き込みがあるんです。私は全然気づかないんですけど、やっぱり見ている人は見ているんですね。最近はネットを見ている時間が長いので、分かる人には分かるんでしょうね。
プライベートの恋愛とセクシー女優への偏見
――最後に読者が一番気になる恋愛話ですが、セクシー女優だったことに対して何か言われたことはありますか?
音市:ありますよ。過去の自分も受け入れてくれる人がよかったので、付き合う前には「セクシー女優だった」と正直に話すようにしていたんですが、「尊敬するけど付き合えない」と言われたり、付き合ってからイチャイチャしている最中に「やっぱりプロだね」「テクニックがあるね」と言われたりし、傷つきました。実際は10数本しか作品に出てないのに(笑)。
――それはすごい偏見ですね。
音市:そういう発言や卑猥な目で見られるのがわかると、恋愛が楽しめなくなっちゃいますよね。それにイチャイチャ最中もセーブしちゃうじゃないですか(笑)。そういった人は本当にイヤになりましたね。肉体が目当てで付き合ったのかなって思えちゃうし。どうしても「セクシー女優だったからHが好きでしょ」みたいな偏見もあるんですが、プライベートは違いますからね(笑)。知らない人ならまだしも彼氏に言われるとショックですね。今は恋愛で傷つくのも怖いから、慎重になってます。
――確かに、恋愛は友達や職場とはまた違う人間関係ですよね。
音市:そうなんです。特にこれから新しい関係を築く人となると、私がセクシー女優だったことを伝える怖さがありますし、「元女優だからHをしたいだけ?」って考えもよぎって不安にもなります。だから、恋愛は一番慎重になります。
――そういった様々な経験をしてきても、業界に身を置いていることには満足ですか? 後悔ですか?
音市:反省しなければいけないことはありましたが、後悔はないです。辛い経験やトラウマもあったけど、覚悟を持って始めたことだし、全部受け止めています。その中で成長できたし、素敵な出会いもありました。今は写真展やバーイベントを通して大好きなファンの人に笑顔を届けられて楽しく過ごしてます。辛かったことは経験としてこれから生かしたいし、もっと楽しいことや大変なことも経験して、成長していきたいです。セクシー女優をやって良かったって思っています!
【音市美音】
X:@archeoichi
<取材・文・撮影/神楽坂文人(X:@kagurazakabunji)>
【神楽坂文人】
世界一セクシー女優を取材しているカメラマン、ライター、インタビュアー。元成人誌編集者のため、最後の砦として活躍中。年間イベント取材数300本超え! 年間インタビュー数200本超え! バイクで都内を駆け巡り1日で複数の仕事を受けている。X(旧Twitter):@kagurazakabunji