―[貧困東大生・布施川天馬]―

 みなさんは『8番出口』をご存じでしょうか?
 コタケクリエイトが製作したホラーウォーキングシミュレーターゲームで、インディーズながら大反響を呼びました。

 ありとあらゆるYouTuberがこぞって動画のネタに取り上げた上に、独特なゲームシステムは「8番ライク」と呼ばれるジャンルを確立したほど。


 伝説的な大ヒットを飛ばした『8番出口』は、二宮和也氏を主演として実写映画となりました。

 今年の8月に封切りとなった同作は、公開3日で興行収入9.5億超えと好調なようで、原作ゲームファンとしてはうれしい限りです。

 そんな私も、公開初日に『8番出口』を観てきました。個人的には期待していた以上に面白かったので大満足ですが、「エンタメとしての面白さ」以上に、学び取れるメッセージがありました。

 熱を帯びる受験戦争で失敗を許されない環境に置かれた今の学生こそ、この映画を観るべき。今回は、『8番出口』から現代社会を生き抜くために必要な能力を学びます。

大ヒット中の映画『8番出口』のシンプルなルールが示す本質とは...の画像はこちら >>

カギはレジリエンス

「レジリエンス」という言葉があります。

 もともと物理学で「弾力性」という意味ですが、昨今では転じて「失敗や挫折を乗り越えて、回復・適応する力」を指すようになりました。

 例えば、担当プロジェクトの大幅遅延が確定したとします。担当者であるあなたの責任追及は必至で、関係各所から鬼のような突き上げを喰らっている。

「失敗してしまった」と認識したあなたは、きっと大きく落ち込むことでしょう。もしかしたら、体調を崩してしまうかもしれません。

 ですが、友人知人の励ましや、へこたれない負けん気、精神力などを支えに「ここで終わってなるものか」と再起し、失敗を取り返すために遅延の原因分析と対策策定を急ぐことも、きっとできるはず。


 なぜならば、失敗は確かに失敗ですが、たった一度のミスで終わってしまうほど、人生はやわな道ではないからです。

 こうして立ち直ったあなたは、チームメンバーと協力しつつ、顧客や上司に現状報告と今後の対応プランを説明して信頼の回復を図り、納期調整の交渉までつつがなく終えることができました。

 これこそが、「レジリエンス」。すなわち、「一度挫折しても、それを乗り越えて回復・適応する力」を指します。

 冒頭で映画の話をしていた私が、なぜいきなり「レジリエンス」の話をしたのか? それは、「『8番出口』が描き出す人の強さ」こそが、「レジリエンス」そのものだからです。

『8番出口』のシンプルなルールが示す本質

 ゲーム『8番出口』のルールは非常にシンプルです。

 一本の短い廊下を歩いて抜けるだけですが、この時、廊下内に「異変」が発生することがあります。仮に「異変」が起きたなら、来た道を引き返さなくてはなりません。

 異変がなければ、前進する。異変があれば、引き返す。

 そして、「正解」を引き続けた先に存在する「8番出口」から、外に出ること。

 たったこれだけのルールが人々を惹きつけたのは、その奥深さにあるでしょう。巧妙かつユニークな異変を見つけ出す楽しみはもちろんのこと、真価は「異変がない時」にあります。


「ある」を示すのは簡単です。ひとつ例を引っ張ってくればいい。ですが、「ない」は証明できません。異変のない通路の中で、プレイヤーたちは常に「本当に異変がない」のか、「異変を見逃しているだけ」なのか、究極の二択を迫られます。

 つまり、『8番出口』の本質は、自分を信じる心なのです。常に不確かな状況の中で、自分の決断だけを信じて、進退を決める。

 ゲームだからよいですが、映画のように実際に入り込んだらと考えると、うすら寒いものがあります。仮に間違えてしまったら、「0番出口」からやり直しになるからです。

 一方で、このルールは非常に良心的でもあります。何度間違えても、ゲームオーバーにならないためです。異変を見逃しても、異変に取り込まれても、異変に襲われても、何があっても「0番出口」で目が覚める。

 プレイヤーは、何度失敗したとしても、心が折れさえしなければ、いくらでも出口を目指して挑戦できます。


 映画でも、例の廊下には原作ゲームとほとんど同じルールが適用されていました。やはり、間違い探しを仕損じても、ただ出発点に戻るのみ。

「賽の河原」と違うのは、出口へ向かう意思を邪魔する第三者が存在しないことです。つまり、「8番出口」は、諦めない心さえあれば、必ず外にたどり着けるようになっている。

現代社会で生きる必須スキルを学べる

 現代社会では、極度に失敗が恐れられています。私が普段授業や講演で出入りする学校や塾などでも、挑戦したがらない生徒さんが増えているように見える。

 どこか、加点法ではなく減点法で物事を見ている子が増えたように感じます。「○○ができた」ではなく「○○もできない」と、欠けたところばかりが目に付いてしまうのでしょう。

 だからこそ、今の学生には『8番出口』からレジリエンスと諦めない心を学び取ってほしい。小勇にはやって無謀な挑戦をしても意味はありませんが、自らの可能性を信じて体の底から大勇を絞り出してこそ、見える目標や景色があるはずです。

 ですが、大きな目標を持てば、どうしても失敗に直面する機会は増えてしまう。立ち直りの速さは、生きる上での必須スキルです。


 生まれてから死ぬまで、一度も失敗しない人なんていません。不可避の失敗を恐れるのではなく、そこから立ち直る覚悟を決めておく。

 言葉でいうのは簡単ですが、実際は難しいですよね。そういったときに、創作のキャラクターたちがどのように心を変化させて、自らを奮い立たせるかが参考になります。

 謎の無限ループに迷い込んだ男は、果たして脱出できるのでしょうか。

 迷う男の運命が気になった方は、ぜひ劇場に向かってみてください。

<文/布施川天馬>

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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