―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「唐揚げ弁当と付け合わせスパ」。
果たして、お味はいかに?

『孤独のグルメ』原作者が弁当の“付け合わせスパゲティ”に夢中...の画像はこちら >>

孤独のファイナル弁当 vol.35「唐揚げ弁当と付け合わせスパ」

 埼玉のある工場が年に一度、主に地元の人たちを招いてお祭りをする。焼きそばや焼き鳥、かき氷の屋台が並び、大勢の家族連れがやって来て、講堂ではクラシックやオペラ歌手の演奏も行われる。そこに『孤独のグルメ』の音楽制作バンド・スクリーントーンズで呼ばれて演奏した。3回目。

 いつものライヴと違って手作り感が溢れていて、従業員さんたちもがんばっていて、僕たちも楽しい。

 楽屋にはいつものようにお弁当が用意されていた。

 バンドメンバーの一人が家族を連れて来ていて、4年生の息子さんが、午前中に早くも弁当を開き、

「母ちゃん、スパゲティもらっていい?」

 と言っている。お母さんは、

「いいよ。でもちゃんとごはんも食べるんだよ」

 と言って、自分の弁当から箸で付け合わせのスパゲティを全部息子さんの弁当箱に入れてあげていた。ほほ笑ましい。

 わかる。お弁当に入ってる「付け合わせのスパゲティ」、俺も好きだ。
全然ごはんに合わないんだけど、でも好きだ。なぜか、入っていると嬉しい。

 いつから日本のお弁当にしばしばケチャップ味のスパゲティが入るようになったんだろう。いつ頃、どこの誰が考案したのか。少なくとも男性は年齢を問わず好きなんじゃないだろうか。

 さてお昼を過ぎて、僕も弁当箱を開けた。うん、隅に入ってる。ニッコリ。

 今日のお弁当に入っているのには、玉ねぎも入っている。ここには見えないが、誰かの弁当のスパゲティにはハムのかけらも入っているのではないだろうか?と思わせるようなスパゲティぶりだ。

 これは絶対に箸で食べるスパゲティである。ここで「フォークはないの?」なんて言ったら、殴られる。
誰に。

「これはどのタイミングでどういうふうに食べればいいの?」なんて言ったらぶっ飛ばされる。だから誰に、なんで。

 このスパはそういうものではないのだ。おかずとかそういうものではない。あるだけで楽しくありがたい、ご祝儀のような食物と考えてもいい。と僕は思います。

 最初に食べてもいいし、取っておいて最後にそれだけ食べてもいい。途中で気分転換に食べるのもよいでしょう。

「あ、とーたんのスパゲティ、食べただろ!」

 と大人の声がして、見るとさっきの4年生が笑っている。母親のは断ってもらったが、父のは黙って食べたらしい。ハハハ。
今日はお祭りだし、そういうのもまた楽しい。メインのおかずは鶏の唐揚げでこれも子供が大好き。運動会や遠足のおかずはいつも唐揚げだった。お昼までしっとりしておいしいんだよね。

 オジサンは最初にスパゲティ全部食べちゃうんだ、4年生に狙われる前に。

『孤独のグルメ』原作者が弁当の“付け合わせスパゲティ”に夢中になったワケ…「ごはんに全然合わないんだけど、好きだ」/久住昌之
いつからか日本のお弁当の定番になった箸で食べる「付け合わせのスパゲティ」。メインで食べるごはんには合わなくても、あるだけで楽しい


―[連載『孤独のファイナル弁当』]―

【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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