「高野いないと生きていけない」
 そう言っていた女性は殺害された——。

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 昨年3月、東京・高田馬場の路上で動画配信中だった女性が、男に襲撃され、刺殺された事件。
殺人などの罪に問われた高野健一被告(44)の初公判が今年7月1日、東京地裁(井戸俊一裁判長)で開かれた。

 前編では、検察側の冒頭陳述をもとに、身の毛もよだつ残忍な犯行に至った経緯などを詳報する。

初公判で起訴内容を認めた高野被告の様子

「間違いありません。本当に申し訳ございませんでした」

 黒色のスーツに、紺色のネクタイ姿で入廷してきた高野被告。法廷中央にある証言席に立ち、目の前の裁判官らの方を向いて、はっきりと起訴内容を認めた。法廷を一瞥すると、傍聴席からの視線を気にするように顔を下にそむけた。

 勾留中だからか、送検時のニュース映像と比べて、一回りほど痩せ、白髪が目立っていた頭はスキンヘッドになっていた。淡々と進行する自身の裁判に、終始緊張でこわばった表情だった。

 そんな高野被告は、起訴状によると、2025年3月11日の午前9時50分頃、東京・高田馬場の路上で佐藤愛里さん(当時22歳)の顔面や首などを、ナイフ(刃体の長さ約12.4センチ)で刺して殺害。さらに、犯行に使用したナイフを含む2本を所持した、殺人と銃刀法違反で起訴されている。

生配信から始まった“推し”とのゆがんだ関係

 罪状認否のあと、検察側の冒頭陳述がはじまった。なぜ、佐藤さんが高野被告と知り合い、殺害されてしまったのか——。そこには“推し配信者”と一線を越えた、ゆがんだ関係が見えてきた。

 まず、二人の関係性について紐解く。
佐藤さんは山形県で出生した。2021年頃から、「最上あい」と名乗って、動画配信サイト「ふわっち」で活動していた。

<高野被告は、2021年12月頃から翌22年1月頃、「ふわっち」で佐藤さんの動画を見て好意を抱くようになった。高野被告は、佐藤さんに連絡を取り、LINEを交換して直接連絡を取るようになった>(検察側冒頭陳述の要旨・以下同)

 佐藤さんは「最上あい」という名で配信活動をしていた。その生配信を視聴し、好意を抱いた高野被告。その愛情を金銭換算するかのように、推しに貢ぎはじめた。

<高野被告はLINE上で「好き」とメッセージを度々送っていた。また、高野被告は合計約163万円の配信の「アイテム」を払った>

 この「アイテム」とは、視聴者がライブ配信者に贈る「投げ銭」のこと。配信者はその「アイテム」を金銭に換えることができ、獲得総数によって配信者はランクづけされている。

 過去に、佐藤さんは最上位の「プラチナプラス」になったこともあった。同ランクの配信者は、月に100万円の高収入の目安にもされているようだ。

<22年8月には、佐藤さんが当時勤務していた山形市内の飲食店に誘われ、初めて対面。
その後も訪れ、計4回にわたって合計約77万円の飲食代を支払っている>

「お金を貸して」直接送金へ発展した金銭トラブル

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事件後、現場付近には黒ずんだ血痕のようなものがあった 2025年3月14日/筆者撮影
 そんな、イチ視聴者だった高野被告との関係がいびつになりはじめたのは、初対面の1か月後の9月13日。佐藤さんから、LINEでこんなメッセージが送られてきた。

「申し訳ないんだけどさ、昨日日雇いバイト行った先に財布忘れちゃってまじ手持ちない状態だからちょいお金貸してほしいんよね。明日か明後日取りにいくときに返すから(土下座の絵文字)」(検察側書証より)

 これを皮切りに、高野被告は金銭を無心されるたびにATMに赴いては、現金を佐藤さん名義のゆうちょ銀行口座に振り込んでいた。

「携帯代金の支払いができない」「具合が悪くて吐血もして仕事を辞めてやり直したい」——。

 理由は様々だったが、計13回にわたり、254万4800円にも及んだ。

 配信サイトを介さずに、直接金銭のやり取りをするようになった高野被告。約255万円の大金は、貯金をはたくだけではなく、消費者金融に高野被告名義で借金をして工面したという。

民事訴訟でも返済されず…復讐心が殺意へ変わるまで

<22年11月には、高野被告は佐藤さんに返済するように求めた。翌23年1月には、3万円を返済してきたが、その後返済されることはなかった。同年8月には、高野被告は金銭の返還を求める民事訴訟を提起した>(検察側冒頭陳述の要旨・以下同)

 高野被告はついに法的手段をとって出たのだ。裁判所は、高野被告の主張を認容して、佐藤さんに金銭の返還を命じた。佐藤さんの預金口座も差し押さえたが、残高はわずか「161円」。当然だが、これまでの借金の総額に満たなかった……。


「お金を返してもらうのは諦めた。復讐だけしたい」。知人にこうLINEでメッセージを送った高野被告は、殺害計画に動きはじめる。

<翌24年12月、「Amazon」でナイフを1本購入した。本件犯行の凶器になった。翌25年2月には、同じくナイフを1本購入した>

 知人に再度、犯行をほのめかすように「あいつには苦しんで欲しい」とLINE。そんな高野被告は、佐藤さんの「明日山手線1周」というタイトルの生配信を視聴し、翌日の殺害を決意したとされる。

<犯行当日は、早朝に自宅を出て電車で東京に向かった。午前8時30分頃に配信を開始した佐藤さんは「高田馬場に向かう」旨、発言した。高野被告はその配信を視聴して、高田馬場の路上で待ち伏せし、本件犯行に及んだ>

 殺害の瞬間も生配信におさめられていた。

「おい!何やってんだよ!」(通行人の声)

 検察側は続けて「復讐だけしたい」と吐露していた高野被告は、犯行後に「血だらけの佐藤さんを撮影し配信」したと述べた。

「55か所」の刺し傷…法廷で明らかになった凄惨な犯行

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東京地方裁判所/筆者撮影
 高野被告は、自身よりも小柄な佐藤さんに容赦なくナイフを振りかざしたとされる。残忍性を裏づけるように、検察側は司法解剖の報告書を提出した。


 法廷にはその報告書が、傍聴席からも見える大型モニターに映された。頭部、後頚部、顔面などの各部位のイラストと、負傷部分が赤色で表現されていた。狂気じみた犯行を図表化したかのように、多数の赤色で傷が表現されたイラストの凄惨さに、筆者は思わず目をそらしてしまった。

 司法解剖で、佐藤さんは多数回もナイフで刺されたことによる「多発刺切創による出血性ショック」と断定。解剖の結果、合計「55か所」の創傷が判明した。すなわち、少なくとも55回はナイフで刺されたことになる。

 イラストの中でも際立っていたのは、首元の傷。一番深い9センチの傷で、動脈を切断しており、致命傷と認定されている。

 そんな惨い姿のイラストが映し出されていたが、高野被告は表情を変えることなく、口をへの字にして、自席の隣に設置された小型モニターを凝視していた。

大金で結ばれた関係が迎えた最悪の結末

 およそ20歳差の高野被告と佐藤さん。冷静に考えれば、佐藤さんが親世代にもなる自身に好意を寄せているわけはない。だが、大金で結ばれた両者の関係は簡単に切れなかった——。


 後編では、弁護側の主張と佐藤さんの実母の嘆きを記す。

文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
傍聴歴7年、傍聴総数1000件超。 都内某私立大の大学院に在籍中の現役大学院生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴をはじめ、有名事件から万引き事件など幅広く傍聴している。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行なっている。
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