「メジャーか、それともソフトバンクか」
 佐々木麟太郎が、野球人生最大の分岐点を迎えようとしている。米スタンフォード大で2年間プレーした佐々木は、今週末に開催されるMLBドラフトで、自身の名前が呼ばれる瞬間を待つことになる。


MLBドラフト目前、佐々木麟太郎が迎える人生最大の決断

 日本では昨秋のNPBドラフトでソフトバンクが交渉権を獲得した。つい先日には佐々木本人が福岡を訪れ、本拠地みずほPayPayドームやファーム施設を見学。進路を巡る決断に大きな注目が集まっている。
 現地アメリカでは、指名順位は5~10巡目あたりが有力視されている。つまり、決してトッププロスペクトと呼ばれるようなドラフト上位候補ではないのが現実だ。

 高校時代は「通算140本塁打」とされる数字が注目された。だが、スタンフォードで過ごした2年間は、単なるスラッガーから、メジャー球団が将来性を評価するプロスペクトへ成長する時間でもあった。

 スタンフォード大での1年目は52試合で打率.269、7本塁打、OPS.790。アメリカ野球への適応に苦しんだ印象は否めなかった。

 それでも2年目は16本塁打を記録。打率こそ大きく変わらなかったが、四球が増え出塁率は4割を超え、OPSも.952まで上昇。そして数字以上に評価されたのが、打席での内容である。

 ボール球を見極め、自分の打てるゾーンを待つ。
いわゆる選球眼に大きな成長が見られ、打者としての完成度は確実に高まった。

木製バットでも証明した“本物の長打力”

 その進化を強く印象付けたのが、全30球団のスカウトを前に打撃や守備、走力などを披露する「MLBドラフトコンバイン」だった。木製バットで計測した最高打球速度は115.4マイル、約186キロ。458フィート、約140mの特大アーチも放ち、高校時代の実績を裏付けるような長打力を示した。

 ドラフト直前にはMLB公式も佐々木を特集した。記事では、本人が「高校時代より今の方が、より優れたパワーヒッターになった」との認識を示していることも紹介されており、長打力への評価は依然として高い。

 一方で、評価が一本化されているわけではない。一塁を主戦場とする佐々木は、俊足や強肩を売りにするタイプではなく、打ってこそ価値が生まれる選手だ。そのため、球団によって評価が分かれるのも不思議ではない。

日本市場という「スター候補」の価値

 それでも、想定より高い順位で指名される可能性を完全には否定できない。その理由の一つが、日本市場という付加価値だ。

 もちろん、MLB球団がマーケティングだけでドラフト順位を決めることはない。ただ、実力評価が拮抗した選手同士なら話は変わる。将来的にメジャーでレギュラークラスへ成長した場合、日本企業とのスポンサー契約や放映権、グッズ販売などを含めた市場価値は決して小さくない。


 純粋な野球選手としての評価に加え、「日本を代表するスター候補」という付加価値が、最後の一押しになる可能性は十分ある。

 日本ではソフトバンクも静かに、そして着実に動いている。昨秋のNPBドラフトで交渉権を獲得して以降も接触を重ね、今回の福岡訪問では背番号1の提示を受けたとも報じられた。球団の本気度がうかがえる動きである。

ソフトバンク最大の課題は「将来のメジャー挑戦」?

 しかし、最大の論点は「将来のメジャー挑戦」だ。ソフトバンクはこれまで、ポスティングシステムによる移籍を原則として認めてこなかった。

 もし佐々木が「メジャー最優先」という考えなら、それだけで答えは出るかもしれない。それでもソフトバンクが有力候補として残っているのは、将来的なキャリア像についても話し合われていると考えるのが自然だからだ。

 もちろん、その内容は明らかになっていない。ただ、「一定の実績を積んだ後の挑戦」や「双方が納得できるタイミング」といった将来像まで提示できなければ、メジャー志向を持つとみられる佐々木の心を動かすのは簡単ではないだろう。その意味でも、MLBドラフトの結果は大きな判断材料になる。

ドラフト初日に名前が呼ばれるかが重要なワケ

 そして最大の焦点は、ドラフト初日に名前が呼ばれるかどうかだ。

 MLBドラフトは毎年20巡まで行われるが、メディアや球団の注目が最も集まるのは初日である。4巡目までに名前が呼ばれる選手は、それだけ早い段階から球団が獲得候補としてリストアップしていた証しでもある。


 もちろん、ドラフト順位だけで将来が決まるわけではない。どの球団に指名されるのか、どんな育成方針の下でプレーするのかも、その後のキャリアを左右する。

「どの球団が本気で評価したのか」が重要に?

 だから佐々木にとっても、「何巡目か」だけでなく「どの球団が、どれほど本気で評価しているのか」が重要になる。初日に指名されれば、メジャー球団が佐々木を「今、獲得すべき選手」と判断したことになる。

 逆に2日目まで残れば、評価が下がったというより、各球団が契約の見通しやチーム事情をより慎重に見極めた結果と考える方が自然だ。

 佐々木には「MLB入り」「ソフトバンク入り」「スタンフォード大復学」という3つの選択肢がある。一般的な大学生より、進路の幅が広いドラフト候補でもある。

MLBドラフトが左右する佐々木麟太郎の未来

 ソフトバンクにとっても、MLBドラフトの結果は無視できない。初日に名前が呼ばれれば、30球団の中に佐々木を高く評価する球団があったということになる。一方で2日目まで残れば、交渉の余地はまた違った形で見えてくるかもしれない。

 ドラフトはゴールではない。何巡目で指名されようと、その後の活躍で評価はいくらでも覆せる。

 それでも、初日に名前が呼ばれるかどうかは一つの分岐点になるだろう。
メジャー30球団が佐々木麟太郎という才能をどこまで高く評価し、どこまで本気で未来を託そうとしているのか。その答えが、そこに凝縮されている。

 メジャーか、ソフトバンクか、それともスタンフォード大に戻るのか。

 ドラフトの2日間は、一人のスラッガーの進路だけでなく、日本球界とメジャーの新たな関係を映し出す節目にもなりそうだ。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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