皇族数の確保に向けた皇室典範改正案は10日、衆院本会議で与党などの賛成多数により可決され、衆院を通過した。中道改革連合も賛成に回り、衆院野党第1党を含む幅広い賛同を得たことで、今国会での成立が見通されている。
単なる一般人の男を皇族にすることは国体の破壊である
週刊SPA!7月7日・14日合併号で、政府の皇室典範改正案要綱に苦言を呈しておいた。実際にできあがってきた法案は、輪をかけて酷かった。もはや、この法案を作成した者の、学歴詐称を疑うレベルだ。立法府の総意としてまとめられた案は二つ。第一案が、「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持すること」で、第二案が「旧皇族の養子による皇籍取得」。現行典範では皇族数が減るばかりである。
だから第一案では、皇族以外の方と結婚したら皇籍離脱しなければならない女性皇族が残れるようにし、皇族を減らさない。第二案は、悠仁殿下に男の子が生まれなかった場合、男性皇族がいなくなる。そこでGHQの圧力で皇籍を剥奪された旧皇族の子孫の方々に、本来の身分を取り戻していただこうとの話である。
そもそもが、悠仁殿下までの皇位継承は決まっているので、その次に備えようとの話である。
国民に人気があるから愛子さまに天皇になっていただこうとの話ではない。
単なる一般人の男を皇族にしたら、その時点で我が国の歴史に一度も先例が無い国体の破壊である。「愛子天皇」論の首謀者とも言うべき野田佳彦元首相は「なぜ配偶者が皇族になれないのか」などと軽く言ってくれたが、それが許されるなら日本の歴史は何だったのかとなる。
女性皇族だけ増やす設計をしてどうする
政府案は、「単なる一般人の男を皇族にしない」の一点だけは守った案になっている。すなわち、女性皇族は結婚後も、皇族の戸籍である皇統譜に残る。同時に、配偶者の戸籍にも名前が載る。配偶者の男性が皇統譜に載ることはない。このような細かい点で、制度が担保されている。この一点だけで「愛子天皇」論を煽りまくった連中の敗北だ。要するに、「戦争目的」を達させなかった。
問題は、それ以外の点だ。これが与党でも評判が悪い。
第一案。
こんなことは立法府の総意にも、その前段階の政府の提言にも無かった。突然、挿入された。
今は皇族が少なすぎるからわかりにくいが、皇族は多すぎても皇室は不安定になる。今後、悠仁殿下にも、皇籍取得される旧皇族の方々にも、女の子しか生まれなかったらどうするのか。
女性皇族ばかりが増える可能性も、十分にある。その方たちのご結婚相手が、一般人ばかりだったら? ただでさえ男性皇族が少なくて困っているのに、女性皇族だけ増やす設計をして、どうする?
「養子は15歳以上に限る」の根拠は「民法」
前号で指摘した第二案の「養子は15歳以上に限る」は、自民党の部会でも大問題になった。政府が「民法でそうなっている」などと間違った説明をしたので、「どこにそんなことが書いてある?」と部会の開会前から批判噴出だった。そこで官僚が出てきて、「政府の報告書でそうなっていた」などと事実誤認(もしくは意図的な噓)の説明を行った。異論噴出だったが、自民党執行部は議論を封殺して押し切った。陣笠(じんがさ)議員に法解釈の誤りを指摘されるような官僚に頼り切っていた、麻生太郎元首相と取り巻きの議員の責任は重い。
第一案の「残るのが原則で離脱が例外」もそうだが、第一案が原則で第二案が例外というのも、原則と例外の倒錯だ。
前号で、自民党一人の責任だと指摘したが、正確には、麻生元首相ら自民党の一部の責任者だけの責任である。連立与党の日本維新の会に根回しをしていないのだから、もちろん野党にも根回ししていない。
野党からは「どこからツッコミを入れて良いかわからない」と呆れられたが、「しかし、こんなデタラメな典範改正案でも通さない訳にはいかない。とにかく我慢だ」との声もあった。
去年の年末は自民党代議士と「高市さんは運がいい。内閣の命運を賭けなくても、歴史に残る偉業を達成できるのだから」と笑いあっていたが、この出来栄えでは……。
「麻生家は令和の藤原家」
そして、国会の停滞。維新と連立を結ぶ際に、協定書を結んだ。その中で最も重要な二つと位置付けられているのが、副首都法案と定数削減法案だ。副首都法案はともかく、定数削減は議員の政治生命や政党の盛衰に係わる。簡単ではないが、高市自民党はいとも簡単に与党だけで審議入り。これに全野党が反発。
そして「皇室典範だけでも審議を」と呼びかけても、本来ならば国会審議に堪えられないどころか、自民党の部会を通らないレベルだ。仕方が無いから、審議無しで通す方向性で調整している。
政府与党の、陣笠議員に法解釈の誤りを指摘される官僚と、その程度の官僚に頼り切っている政治家の、ここまでの無能とデタラメが許される理由は何か。マスコミを味方につけた野党第一党、特に野田佳彦よりはマシの一点だけだ。
その野田元首相、「麻生太郎は令和の藤原道長になろうとしている」などと言い出した。「知っている名前をあげているだけだろう。どこが道長だ」と呆れていたが、野田氏、本気のようで、選挙区でビラまで配って歩いている。野田氏、藤原道長が何なのか、わかっているのか。
それにしても、絶対多数を有する自民党の機能不全。無能な官僚に頼り切る無能な政治家の支配。どこから手をつければ良いのやら。
次の選挙が思いやられる。
―[言論ストロングスタイル]―
【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。
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