サイバー犯罪に劇変が起きている。無料AIを凶器に変え、ディープフェイクやなりすましで3~4年で10億円を荒稼ぎしたハッカーが激白。
そこから分かったのは、日本企業がカモにされ、一瞬で330万円を奪われた恐るべき電脳犯罪の舞台裏だった。

中華系の無料AIソフトはハッキングに有用

AIを悪用して「3年で10億円」稼いだ30代ハッカーの告白。...の画像はこちら >>
昨今、不正アクセスによる企業の情報漏えいが相次いでいる。その背後にはAIを悪用するハッカーの存在がある。

「高性能なLLM(大規模言語モデル)が普及し、専門知識がなくてもハッキングが容易になった」と話すのはハッカーのX氏(仮名・30代)だ。

「フィッシングメール作成から情報収集、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)の設置まで、AIが一連の作業を代行してくれる。それが有料版ではなく、中華系の無料AIソフトで可能なので、課金すらも必要なくなっています」

ボタン一つで一日10万通を送ることも容易だ。また詐欺の手口も巧妙になっている。

「LinkedInなどのビジネスツールから標的の経歴や企業情報を調査し、それをもとにAIでフィッシングメールを大量配信。返信してきた相手に偽の通話ツールをダウンロードさせ、ディープフェイク(AI合成映像・音声)で社長や担当者になりすまし、本人だと信じ込ませてお金を送金させる。私は、ディープフェイクの詐欺用ソフトをダークウェブで、100万~300万円で売っています」

ハッカーから狙われやすいのが、ワンマン社長の会社やスタートアップ企業だという。

「こういう企業は資金があるうえに、送金権限のある人間が限定されていて釣りやすいんです。また、パスワード推測の精度をLLMが大幅に向上させたので、以前よりもヒット率が高くなっている。実際に遊びで、某企業の日本法人をハックして社長になりすましたら、簡単に330万円を振り込んできました」

もちろんこれは犯罪行為だ。
多くのAIソフトでは反社会的な行為に繫がる応答は禁止されているが、「それもプロンプト(指示コード)を悪用することで潜り抜けられる」とX氏はうそぶく。

「たとえば『死体を埋める適切な深さは?』と聞いても拒否されますが、質問の仕方を工夫すると応答するようになります。そういうAIの倫理フィルターを外させる“ジェイルブレイク”が可能。モデルファイル自体を改変するジェイルブレイクは、ハッカー界隈では高い名誉です」

AI活用の収益は過去3~4年で約10億円に

また、X氏はAIを“グレーなビジネス”としても活用している。

「AIで企業のセキュリティの穴を自動探索して、脆弱性のある企業をリストアップ。実際に提示しながら、『セキュリティ対策をしませんか?』と営業して、一件あたり月15万円ほどでセキュリティコンサルタント契約をしています」

ほかに、企業用のローカルLLMも販売しているという。

「ChatGPTなど多くのAIは個人名や住所などにはマスキングしますが、それ以外の相談内容などは学習データとして取り込まれている可能性が高い。企業側もこのリスクに対抗するため、近年、ローカルLLMをオフィスに導入する動きが急速に広がり需要が増えてます」

そのようなAI活用の収益は、過去3~4年で約10億円にも上る。

「ダークウェブでの取引は、すべてクリプト(仮想通貨)で行っているので、痕跡は一切残らないようにしています。逮捕に備えたマニュアルも作成していて、私のパソコンに12時間ログインがなければ、自動的にデータが全消去される仕組みにしてます」

情報の流出被害に気づいたときには、もはやなすすべなし。誰もがAIハッカーの標的になりうるのだ。

日本企業が標的になりやすい理由

AIを悪用して「3年で10億円」稼いだ30代ハッカーの告白。社長になりすまし「330万円を一瞬で振り込ませた」手口
ワル知恵[AI活用]術
AIの登場で、詐欺師や攻撃者の手口は劇的に進化した。

「AI自体が詐欺をするのではなく、詐欺師がAIを使って『信用』を偽造できるようになった」――そう警鐘を鳴らすのは、企業向けセキュリティコンサルティングを手がけるLRM社の藤居朋之氏だ。

「攻撃者にとってAIは、無料で使える日本語教師、声優、映像編集者です。
従来の“拙い日本語”という見破りポイントが完全に通用しなくなり、音声も本人そっくりに再現できる。映像まで加工可能で、しかも低コスト。攻撃の精度が飛躍的に向上しています」

なりすましの手口も、もはや見破りようがないレベルに達しているという。

「社長を装ったメールで『緊急』『極秘』と称して経理担当者を個別チャットに誘導し、『他の社員には内密に』と密室状態をつくってから送金を指示する。テキストだけのやり取りはシステムで検知できず、従来の対策では防げない。実際に香港では、ウェブ会議でCFO本人になりすましたハッカーに数十億円を騙し取られた事例もあります」

“逆手口”の詐欺が流行している

近年、急増しているのが、“逆手口”を利用した詐欺だという。

「『なりすましが流行っているから対策ツールが必要』と言って偽のセキュリティ商材を売りつけ、逆にハッキングするケースもある。また、会社が認めていないAIサービスを社員が勝手に使って情報漏えいするケースも後を絶ちません。社内の正式な申請フォームや意思決定の仕組みが漏れた場合、そのルートを経由した攻撃には『正当な連絡だから大丈夫』という心理が働いてしまう」

なぜ日本企業ばかりが狙われるのか。藤居氏は「3つの致命的な弱点がある」と断言する。

「1つ目は、不自然な日本語が詐欺の防壁になっていたため、AIによって突破された際の免疫がまったくないこと。2つ目は業務の属人化と終身雇用で、長年同じ担当者に権限が集中しやすい構造。
そして3つ目は、IT・セキュリティへの投資が海外企業と比べて圧倒的に少なく、危機意識が薄い経営者が少なくないことです」

誰が狙われるかわからないAI時代、どう対処すべきか。藤居氏は「騙されないようにするのではなく、なりすましに遭っても被害を防ぐ仕組みづくりが重要」と語る。

「送金や情報提供の前に必ず別ルートで本人確認し、第三者によるチェックを義務化する。AIリテラシーを高めることも大切ですが、それ以上に、『重要な会議はできる限り対面で』『決裁の際の合言葉を決める』といった、人間による対策を組み合わせることが効果的です。技術で攻めてくる相手に、技術で対抗しようとしても限界があります」

デジタルへの過信こそが、最大の隙になる――肝に銘じておきたい。

【情報セキュリティコンサルタン 藤居朋之氏】
LRM執行役員。共著に『AI時代のセキュリティ教育 なぜサイバー攻撃から企業を守れないのか?』(クロスメディア・パブリッシング)
AIを悪用して「3年で10億円」稼いだ30代ハッカーの告白。社長になりすまし「330万円を一瞬で振り込ませた」手口
情報セキュリティコンサルタンの藤居朋之氏
※2026年7月21・28日合併号より

取材・文/週刊SPA!編集部

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