インバウンド需要に沸いている日本。観光地はもちろん、大きな都市ではどこに行っても外国人の姿が目に入ってきますが、日本に住み、インフレ&物価高の影響を大きく受けている日本人からすると「日本の何がそんなに良いのか?」と疑問に思ってしまいますよね。

そこで、すこし日本にゆかりのある外国人に「日本の印象」を聞くことで、我々が忘れかけていた日本の素晴らしさに改めて気づくことができるかもしれません。

「偶然、面白いものを見つけるのが好き」アメリカ人男性が日本の...の画像はこちら >>
米国カンザス州出身で、現在はユタ州在住のソフトウェアエンジニア、カールさん(31歳)。これまで3度日本を訪れています。地元では将棋クラブを立ち上げるほど日本文化に親しんでいますが、旅先で惹かれるのは、有名な観光地よりも何げない住宅街なのだとか。

予定を決めずに歩くからこそ出会える「日本の日常」に魅力を感じるといいます。今回はそんなカールさんに日本の印象を伺いました。

土砂降りの東京で「助けが必要ですか?」

カールさんが初めて日本を訪れたのは2013年。大学の日本語クラブの仲間たちと、クリスマス休暇を利用して約2週間滞在しました。

東京に到着したのは夜8時ごろ。外は土砂降りの雨で、地図を頼りにホテルを探したものの、なかなか見つけられなかったといいます。

「みんなで地図を見ながら話していたら、突然、一人の男性が現れたんです。とてもきれいな英語で『助けが必要ですか?』と声をかけてくれました。その人が地図を見てホテルの場所を教えてくれて、ようやくたどり着けました」

そんな親切な出会いから始まった、カールさんの初めての日本滞在。
その後は、定番の観光スポットを次々と巡るのではなく、気の向くままに街を歩くようになります。

「偶然、面白いものを見つけるのが好き」アメリカ人男性が日本の街歩きで気づいた“意外なこと”
何げない街の風景の向こうに、雪に覆われた富士山(カールさん提供)
「当時はあまりお金もなかったので、観光地にはほとんど行きませんでした。普通の住宅街を歩いて、偶然何かを見つけるのが好きでした」

民家のような書店で、日本語の本に「完敗」

「偶然、面白いものを見つけるのが好き」アメリカ人男性が日本の街歩きで気づいた“意外なこと”
旅の途中で歩いた、静かな路地裏の風景(カールさん提供)
印象に残っているのが、住宅街を歩いている途中で見つけた小さな店の数々です。気になる店があると、ふらりと中に入ってみたといいます。

「1階がお店で、上の階に店の人が住んでいるような建物がありました。店の奥にも生活するスペースがあるような、本当に家の一部がお店になっている感じです。外国人観光客が集まるエリアではあまり見かけませんでした」

日本の路地裏では見慣れた、住居と店舗が一体になった小さな商店ですが、カールさんが育ったアメリカでは、こうした店構えは一般的ではありません。

浅草周辺を歩いていた際には、昔の一般庶民の暮らしを紹介する博物館にも偶然立ち寄ったそうです。

「昔の人が使っていた器や服、日用品などが展示されていました。有名な美術品を見るというより、100年、200年前の普通の日本人がどんな暮らしをしていたのかが分かる場所で、とても面白かったです」

その後も歩き続け、今度は住宅の一角にあるような小さな書店を発見。何気なく中に入ってみたカールさん。

「店員さんも、外国人の僕が入ってきたので少し驚いたように見えました。しばらく本を眺めていたんですが、どれも僕の日本語力では読めなくて。
結局、敗北したような顔をして、そのまま店を出ました」

有名な場所を訪れること以上に、こうした偶然の出来事が記憶に残っているといいます。

「僕の場合、人が少ない場所に行ったときのほうが、楽しかった気がします」

2019年、2度目に東京を訪れた際にも、そのスタイルは変わりませんでした。

お腹が空いたため、たまたま見つけた小さな寿司店へ。ホテルから電車で10分ほど離れた場所だったそうですが、「どうやってその店を見つけたのか、もう覚えていない」と笑います。

「店内では店員と客たちが親しげに会話をしていて、常連同士のような雰囲気でした。そこに突然、アメリカ人の僕が一人で入っていったんです。でも、お店の人たちはとても親切でした」

食事を終えると、今度は電車に乗らず、30~45分ほどかけてホテルまで歩いて帰ったカールさん。

「基本的に、僕はそうやって歩きながら、何が見つかるのかわからないまま歩くのが好きなんです。たまに、すごくいい場所が見つかりますから」

「日本ではハンカチが必要」街歩きで気づいた意外なこと

日本人にとっては何気ない日常の風景にも、アメリカとの違いを感じることがあったそうです。

そのひとつが、意外にも「ハンカチ」でした。

「日本ではハンカチが必要だと思いました。僕が使った公共トイレには、ペーパータオルやハンドドライヤーがないところがあったんです。だから、手を洗ったあとに拭くものが必要でした」

日本ではハンカチを持ち歩く人も少なくありませんが、カールさんにとっては、実際に街を歩き、公共トイレを利用して初めて気づいた違いのひとつでした。


「偶然、面白いものを見つけるのが好き」アメリカ人男性が日本の街歩きで気づいた“意外なこと”
街歩きの途中で目にした、桜並木の続く歩道(カールさん提供)
そしてもうひとつ、街歩きの途中で目に留まったのが、日本の「公園」です。

「アメリカで公園というと、何本か木があって、芝生が広がっていて、子どもの遊具がある場所をイメージします。でも日本には、そういう公園だけではなく、小さな森のような場所もあれば、大きな池があって、鳥を眺めながらベンチで休める場所もあります」

カールさんが暮らしてきたアメリカでは、こうした多様なタイプの公園はあまり一般的ではないといいます。

有名な観光名所を目指すのではなく、気の向くままに街を歩く。だからこそ、ハンカチが必要になる公共トイレや、地元の人が何気なく過ごす公園といった、日本の日常にも目が向いたのかもしれません。

12年ぶりに感じた「日本旅行の変化」

その後、カールさんは昨年4月にも友人と日本を訪れ、鹿児島から東京へ向かいながら各地を巡りました。鈴鹿でF1レースを見る予定も入っていたため、それまでの旅とは違って日程がかなり決まっていたそうです。

「2週間でかなり長い距離を移動したので、ひとつの街にいられるのは1日か2日くらいでした。友人といっしょだったので、以前のように自分一人で好きなように歩き回ることもできませんでした」

3回の訪日の中では、「一番観光客らしい旅行だった」と振り返ります。

「偶然、面白いものを見つけるのが好き」アメリカ人男性が日本の街歩きで気づいた“意外なこと”
多くの観光客で賑わう、東京・浅草の浅草寺(カールさん提供)
そして、初訪日から約12年を経て、驚いたことがありました。外国人観光客と英語表記の多さです。

「2013年は、東京でも主要な場所からすこし離れると、英語がかなり少なかった印象があります。
でも今回は、鹿児島などを含めて、いろいろな場所で以前より英語を目にしました。正直、少し不思議な感じがしました」

初訪日のころには、英語メニューがない小さな飲食店に入り、自分の日本語だけを頼りに料理を注文したこともありました。駅では使える切符を間違えて改札で止められ、駅員からひと言、「Ginza Line only(これは銀座線用ですよ)」といわれた経験も。

今では外国人にとって、以前より日本を旅しやすい環境が整ってきたのでしょう。それでも、カールさんの日本旅行の楽しみ方は変わっていません。

目的地だけを目指すのではなく、ときには横道に入り、住宅街を歩いてみる。そこで、小さな店や公園など、その街で暮らす人たちにとっては当たり前の風景を見つける。

英語で進んだ取材の最後、カールさんは日本語に切り替え、「自分の日本語はあまり上手ではないです」と控えめに話してくれました。

けれど、こちらにはとても自然な日本語に聞こえました。初訪日のころは、覚えた日本語を頼りに小さな店へ入っていたカールさん。そんな彼が最後に日本語で話してくれたことが、筆者にはうれしく感じられました。

<取材・文/トロリオ牧(海外書き人クラブ/ユタ州在住ライター)>

【トロリオ牧(海外書き人クラブ)】
2001年渡米、ユタ州ウチナー民間大使。
スーパーの品出しやウェイトレス、保育士などを経て、米国政府職員として17年間勤務。パンデミックを機に生き方を見つめ直し、2023年に辞職。現在はラジオ出演や日本のWebメディアで執筆活動を行う。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員
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