夏の終わりから秋にかけて、「急に歯茎が腫れた」「歯磨きをすると出血が目立つ」と駆け込んでくるビジネスマンの方が増えます。夏休みで生活リズムが乱れたり、暑さで睡眠不足になったり、冷たい飲み物や甘いものを摂る機会が増えたりするためです。
猛暑を乗り越えた頃には、知らず知らずのうちに疲れがたまっている人も少なくありません。
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実は、こうした夏の疲れや生活習慣の乱れは、口の中の環境にも影響を及ぼします。特に注意したいのが「歯茎」です。歯周病は、痛みなどの自覚症状がないまま進行することも多く、「歯が痛くないから大丈夫」と思っているうちに、歯茎の炎症が進んでいるケースもあります。

では、なぜ夏の終わりから秋にかけて歯茎のトラブルが気になりやすくなるのでしょうか?

「歯磨きで血が出る」「口臭が気になる」“秋バテ”の時期に見逃せない歯周病8つのサイン
歯科医師の野尻真里
今回は、夏の疲れと歯茎の関係、そして今から始めたい歯周病対策について、歯科医師の立場から解説します。

「秋バテ」は口の中にも影響する?

夏の終わりになると、「なんとなく体がだるい」「疲れが抜けない」と感じる人も多いのではないでしょうか。厳しい暑さが続く夏は、知らず知らずのうちに体力を消耗します。さらに、暑さによる睡眠不足や食欲の低下、冷たい飲み物の摂りすぎ、冷房による温度差などが重なることで、秋になってから疲れが一気に表面化することがあります。

いわゆる「秋バテ」です。実は、こうした全身のコンディションの変化は、口の中にも無関係ではありません。

疲れがたまると、歯磨きがいつもより簡単になったり、睡眠不足やストレスによって生活リズムが乱れ、免疫力が低下することがあります。また、夏場は汗をかくことで体内の水分が失われやすく、口の中が乾燥しやすくなることもあります。

唾液には、口の中を洗い流したり、細菌の増殖を抑えたりする働きがあります。
そのため、唾液の量が減って口の中が乾燥すると、口内環境が変化しやすくなります。

さらに、歯周病は歯周病菌だけで決まるものではありません。歯垢(プラーク)の蓄積や歯磨きなどの口腔ケア、食生活、喫煙、ストレス、疲労など、さまざまな要因が複雑に関係しています。

つまり、「夏の疲れで突然、歯周病になる」という単純な話ではありません。しかし、夏の間に積み重なった疲労や生活習慣の乱れなどが、もともとあった歯茎の炎症を悪化させたり、口内環境の変化につながったりする可能性があるのです。

「最近、歯ぐきから血が出る」「歯ぐきが腫れている」「口臭が気になる」――。

もし秋になってこうした変化を感じているなら、それは単なる「夏の疲れ」と片付けず、自分の口の中を見直すきっかけにしてほしいと思います。

なぜ疲れると「歯茎」に変化が出やすいのか?

「歯磨きで血が出る」「口臭が気になる」“秋バテ”の時期に見逃せない歯周病8つのサイン
歯茎から出血が見られる
では、なぜ体が疲れているときに、歯茎の腫れや出血などが気になりやすくなるのでしょうか?

そもそも歯周病は、歯の表面に付着した歯垢(プラーク)に含まれる細菌が大きく関係しています。歯と歯茎の境目にプラークが蓄積すると、細菌によって歯ぐきに炎症が起こり、赤みや腫れ、出血などの症状が現れるようになります。歯周病は、単に「口の中の問題」だけに留まりません。

血管を通じて全身に菌が回り、「糖尿病の悪化」「心疾患や動脈硬化のリスク増大」「EDのリスク増大」など男性にとって見過ごせない健康リスクにも繋がります。ただし、歯周病の進行には、口の中の細菌だけでなく、生活習慣や全身の状態など、さまざまな要因が関係しています。

例えば、睡眠不足や強いストレスから、疲労がたまっていると、免疫力が低下し、歯周病菌の働きが優勢になってしまうことがあります。
また、忙しさやストレスから歯磨きが疎かになったり、間食が増えたり、食事の時間が不規則になったりすることもあるでしょう。

歯周病は、プラークなど口内の要因を中心に、喫煙やストレス、生活習慣、糖尿病などの全身疾患など、さまざまな要因が複雑に関係して発症・進行します。夏の疲れは、その原因そのものというより、歯周病が悪化しやすい環境を作る「きっかけ」の一つになり得る、と考えると分かりやすいでしょう。だからこそ、夏の終わりから秋にかけて「歯茎が腫れている」「歯磨きすると血が出る」「口臭が気になる」といった変化があったら、体の疲れだけのせいにせず、一度口の中にも目を向けてみてほしいのです。

「最近、歯茎が変かも」と思ったら要注意

「歯磨きで血が出る」「口臭が気になる」“秋バテ”の時期に見逃せない歯周病8つのサイン
歯茎が赤くなり炎症している
では、自分の歯茎が健康な状態なのか、どのように判断すればいいのでしょうか。

特に、次のような変化がある場合は注意が必要です。

①歯磨きをすると血が出る

「少し血が出るくらいなら大丈夫」と思っている人もいるかもしれません。しかし、健康な歯茎は、通常、歯磨きをしただけで出血することはありません。患者さんの中には、出血することは普通のことだと思っている人も少なくありません。

②歯茎が赤く腫れている

鏡で歯茎を見たとき、健康的なピンク色ではなく以前より赤くなっていたり、腫れて丸みを帯びていたりする場合は、歯茎に炎症が起きている可能性があります。

③朝起きたとき、口の中がネバつく

朝起きたときに口の中がネバネバすると感じる場合は、細菌が増えている可能性があります。

④以前より口臭が気になる

自分では気づきにくい口臭ですが、歯周病が原因となっていることもあります。「最近、口臭が変わったかも」と感じたら、一度歯茎の状態を確認してみましょう。


⑤歯を舌でなぞるとザラザラする

歯の裏側を舌でなぞってみて下さい。ザラつきを感じた場合、歯石が付いている可能性が高いです。特に、下の前歯の裏側は歯石が付きやすいです。

⑥歯が以前より長く見える

「なんだか歯が長くなった気がする」という場合、歯そのものが伸びたのではなく、歯茎が下がっている可能性があります。また、サ行が言いにくくなった、歯と歯の間から空気が抜ける感じがするというのも、歯茎が下がっているサインです。

⑦歯と歯の間に食べ物が詰まりやすくなった

以前は気にならなかったのに、最近になって歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなった場合も、歯茎やその周囲の骨などに変化が起きている可能性があります。

⑧歯がグラグラする、噛みにくくなった

歯が動くように感じる、以前と噛み心地が違う、といった変化がある場合は注意が必要です。歯周病がかなり進行している可能性もあるため、早めに歯科医院を受診しましょう。

特に歯周病は、初期の段階では痛みなどの自覚症状が乏しいです。そのため、「痛くないから問題ない」と自己判断してしまうのは禁物です。もし最近、こうした変化を一つでも感じているのであれば、なるべく早く歯科医院で歯や歯茎の状態を確認してもらうことをおすすめします。歯周病は、早い段階で気づくことができれば、進行を抑えるための対策を行えます。
症状が出てからでは手遅れになっていることも少なくないのが歯周病です。「ちょっと気になる」という段階でチェックすることが、自分の歯を長く守るための第一歩なのです。

「歯磨きしているから大丈夫」は危険?

「歯磨きで血が出る」「口臭が気になる」“秋バテ”の時期に見逃せない歯周病8つのサイン
毎日歯磨きをしているにもかかわらず、歯石が付着し、歯茎が炎症している
「毎日ちゃんと歯を磨いているから、歯周病は大丈夫」そう思っている人は少なくありません。しかし、毎日歯磨きをしていることと、歯周病をしっかり予防できていることは、必ずしもイコールではありません。成人の約8割が歯周病または予備軍と言われています。歯磨きで特に磨き残しが起こりやすいのが、「歯と歯の間」、「歯と歯ぐきの境目」、「奥歯」、「歯並びが重なっている部分」です。細菌は、ツルツルの歯の表面を好むのではなく、隙間を好むのです。こうした場所にプラークが残ったままになると、細菌が増え、歯茎に炎症が起こる原因になります。

また、歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れを十分に落とすことが難しいため、フロスや歯間ブラシなどを取り入れることも大切です。そして、もう一つ知っておいてほしいのが、歯周病は痛みが出にくい病気だということ。

むし歯のように「痛いから歯医者に行こう」と気づけるとは限りません。気づかないうちに歯茎の炎症が進み、「歯がグラグラする」「噛みにくい」といった症状が出て、初めて受診するケースもあります。だからこそ、歯周病予防で大切なのは、症状が出てから対処することではなく、症状がないうちから自分の口の中の状態を知っておくことです。
「痛くないから大丈夫」ではなく、「痛くない今こそ、歯を守る」。毎日のセルフケアに加えて、歯科医院で定期的にチェックやクリーニングを受けることで、自分では気づきにくい変化を早い段階で見つけることができます。

自宅でできる「秋の歯ぐきケア」4つ

夏の間に生活リズムが乱れたり、歯磨きがおろそかになったりしたという人は、秋を口内環境の見直しのタイミングにしてみてはいかがでしょうか。歯科医院では、歯茎の状態を確認する歯周病のチェックだけでなく、普段の歯磨きでは取りきれない歯石やプラークの除去、磨き残しの確認、ブラッシング方法のアドバイスなどを受けることができます。

では、歯科医院でのケアに加えて、自宅ではどんなことを意識すればいいのでしょうか。

①1日2回以上、丁寧に歯を磨く

まず基本となるのが毎日の歯磨きです。回数だけを意識するのではなく、歯と歯茎の境目や奥歯など、汚れが残りやすい場所を意識して丁寧に磨きましょう。特に重要なのは「寝る前の歯磨き」です。睡眠中は唾液の分泌が減少し、口内細菌が増殖するため、むし歯や歯周病は進行しやすくなります。寝る前は一日の中で一番丁寧な歯磨きをしましょう。

②歯間ブラシ・フロスを取り入れる

歯ブラシだけでは、汚れは約6割しか落ちず、歯と歯の間の汚れを落とすことは難しいです。歯間ブラシやフロスを併用しなければお口の中全体を磨けていることにならないのです。自分の歯の状態に合ったフロスや歯間ブラシを取り入れ、歯ブラシが届きにくい部分までケアしましょう。


③こまめな水分補給を意識する

夏の暑さが落ち着いても、口の中の乾燥には注意が必要です。こまめに水分をとり、口の中が乾燥しないように意識しましょう。

ただし、デスクワーク中の水分補給として、砂糖入りの缶コーヒーや甘い清涼飲料水をダラダラ飲むと、むし歯のリスクが高まるため、水やお茶を選んでください。

④睡眠や食生活を整える

歯周病の予防は、口の中だけをケアすればいいわけではありません。夏の疲れが残っている人は、十分な睡眠をとり、バランスのよい食事を心がけるなど、まずは生活リズムを整えることも大切です。夏バテ+口の乾燥+コーヒーやタバコで、秋は口臭も出やすくなるため注意が必要です。

歯茎の異変は、体からの小さなサインかもしれない

夏の疲れが出やすい秋は、自分の体だけでなく、口の中にも目を向けてみてほしい時期です。「最近、歯茎から血が出る」「なんとなく腫れている気がする」――そんな小さな変化を見逃さないことが、自分の歯を守るきっかけになります。歯周病は、痛みが出てから治療するのではなく、症状を感じないうちに、定期的に歯科医院で状態を確認し、予防していくことが大切です。

この秋は、夏の疲れをリセットするだけでなく、口内環境も一度リセットするつもりで、歯茎の状態を見直してみてはいかがでしょうか。

<文/野尻真里>

【野尻真里】
一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari
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