お店で食事をしていると、ほかのお客さんが店員さんに大きな声で文句を言いはじめる。自分には関係ないのに、なんだか料理の味がしなくなってしまう。
そんな居心地の悪さを感じたことがある人も多いのではないでしょうか。
「土下座しろ!」水をこぼした女性店員に激怒する高齢の男性…救...の画像はこちら >>
東京都が2025年10月に都内の企業で働く人を対象に行った調査によると、過去1年にカスハラの被害にあった人は11.9%。業種別に見ると、飲食店やホテルなどの「宿泊業、飲食サービス業」では23.8%と、4人に1人近くにのぼりました。では、店員さんが怒鳴られている場面に居合わせたとき、まわりの客にできることはあるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、レストランでアルバイト中に、高齢の男性客から土下座を迫られた女性店員の話。

記事の後半では、飲食店で働く人が、どれくらいカスハラを受けたり、目にしたりしているのかを調べてみました。

*  *  *

カジュアルな店にお金持ちそうな夫婦が来店

「土下座しろ!」水をこぼした女性店員に激怒する高齢の男性…救いの手を差し伸べてくれた“意外な人物”/飲食店で働く4人に1人がどんな目にあっているのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
昭和の時代ならいざ知らず、現在では客だからといって横暴に振る舞う行為はタブーとする風潮が浸透した。一方で、そうした世間の動きから取り残されたままの人物も、まだまだ少なくはないのが現状だ。

銀行員の飯田萌香さん(仮名・24歳)が忘れられない迷惑客は、そんな時代錯誤型の客だったという。

「学生のころ、個人経営のイタリアンレストランでアルバイトをしていました。イタリアンといっても価格も安く、気軽に地元の方たちが日常的に訪れるようなタイプのお店でした」

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そんなお店でのランチ営業中のこと。男女2人でやってきた初見の客がいた。男性はぱっと見で60代後半。
老人然としていたが、女性はそれよりはかなり若そうな容貌だった。ただ、親子ほどの年齢差にも見えず、年の離れた夫婦のように見えたそうだ。

「服装も品があって、お金持ちの夫婦といった雰囲気でした。いつも通り席に案内し、『メニューをお持ちします』と言って立ち去ろうとすると、男性が席の前で立ち尽くしたんです。

席を引いてほしいのだろうと思いました。高級レストランではないので普段はそんなサービスはしていないのですが、特に気には留めずに椅子を引きました。

それで男性はようやく腰を下ろしたんですが……顔を見たら、『なんでこんなこともできないんだ』とでも言いたげな感じでこちらを睨んでいました」

カスハラ発言を乱れ打ちする男性

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少し感じが悪いお客さんだなと思いながら、飯田さんはメニューを取りに場を後にした。

「テーブルに戻ってメニューを手渡そうとすると、『メニューぐらい先に用意しておけ。馬鹿かお前は』と言い捨ててから、ひったくるようにしてメニューを取られたんです。そんなことを言うお客様はそれまで一人もいなかったので、ただただ驚いてしまって……。その後、注文を取りに行くと、男性はボソボソと呂律の怪しい小声で言うので、聞き取れなかったんです。間違えるのはよくないからと聞き返すと、『二度も言わせるな!』と怒鳴られました」

男性の横柄な態度はそれだけでは終わらなかった。

「料理を持っていけば『話の邪魔をするな!』と言われ、ワインを注ぎにいけば『この下手くそが。
ワインが不味くなるから貸せ』と言われたあげく、突き飛ばされました」

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いずれも飯田さんにミスがあったわけではなく、そのお店でのごく通常の振る舞いだった。現に、対応を咎められたことは過去一度とてない。

にもかかわらず、接客のたびに罵倒されるので、飯田さんはその席に行くのが怖くなってしまったという。

救世主の一声と、沸き起こる爆笑!?

「あの席に行かなければと思うと、足がすくんでしまうほどの状態でした。そのお客さまに水を要求されたので注ごうとしたんですが、恐怖心から手が震えてしまって……。手にしていた水のボトルをテーブルに落としてしまったんです。水はテーブルを伝ってお客様のスラックスを濡らしてしまいました」

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男性は烈火のごとく激怒した。飯田さんは頭を下げて謝ったが、それでも怒りは収まらない。

「何度も頭を下げたんですが、怒りは収まらず、『土下座しろ!』と言われました。あまりの剣幕だったので、そうするしかないと思って膝をつこうとした時でした。近くの席にいたご年配の女性に『水がこぼれたぐらいでそんなことしなくていいよ』と声をかけられたんです」

ご年配の方は男性に、「あなたみたいなのがいるとね、せっかくのお料理が不味くなるの。黙るか、出ていくかどっちかにしなさいな」と告げた。

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「例の男性はご年配の方を睨んでいましたが、ご年配の方は頑として視線を逸らさないので、何も言えなくなっていました。
そんな緊迫した状況で、いきなり笑い声が響いたんです。声がした先を見ると、奥さんと思われる女性がゲラゲラと大笑いしていました」

尻尾を巻いて店を飛び出した男性の肖像とは

女性は男性が叱られているのがおかしくてしょうがないという感じで笑い続けた。

「そうしたら、その男性の顔が真っ赤になって取り乱し始めたんです。女性に笑われたことにひどく狼狽しているようでした」

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男性はイライラした様子で席を立つと、料理がまだ残されているのも構わずに店から出ていった。残された女性はというと、それは優雅に一人でメニューを完食し、そのまま上機嫌で会計をして帰ったという。

「夫婦だとしても、どのようなパワーバランスの関係なのか、謎が謎を呼ぶ展開でしたね。ご年配の方が毅然とした態度でかばってくださったことと、恐怖よりも印象が強いミステリーのおかげで、アルバイトが嫌にならずに済みました。

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今銀行で働いてて思うのは、会社員として多少の出世をしたようなタイプの男性は、リタイア後のタチが悪い割合が高いこと。推測に過ぎませんが、あの人もその手合いだったのかもしれませんね」

音楽やらの趣味が時代遅れでも好き好きでしかないが、振る舞い方が時代錯誤では誰も肩を持ってはくれないどころか、笑い者にされても致し方あるまいや。

<TEXT/和泉太郎>

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■飲食店で働く人の6割近くが、カスハラを「受けた」か「見た」

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東京都の調査で、「宿泊業、飲食サービス業」で働く人の答えをもう少し詳しく見てみました。過去1年にカスハラの被害にあった人が23.8%。被害にはあっていないけれど、見聞きしたことはある人も35.1%いました。

あわせると58.9%。6割近くの人が、カスハラを自分で受けたか、すぐ近くで見ていたことになります。
飯田さんの店のように、地元の人が気軽に入れるお店で働いている人も多いはず。この数字には、正直驚きました。

被害にあった場面も聞いています。業種をまとめた全体では「電話・メール」が69.5%といちばん多いのですが、「宿泊業、飲食サービス業」では「対面(接客時)など」が77.5%でした。飲食店で働く人にとって、カスハラはお客さんと顔を合わせる場で起きることが多いようです。

■「土下座しろ」も、カスハラのひとつ

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同じ調査では、業種をまとめた全体で、どんな被害にあったのかも聞いています。土下座の要求は、脅迫や侮辱、暴言などと一緒に「精神的な攻撃」に分類されていて、被害にあった人の45.0%が、この種類の被害を受けていました。大声で責めるなどの「威圧的な言動」も55.0%です。

罵倒されて、怒鳴られて、最後は土下座を求められる。飯田さんは、たった一度のランチの接客で、そのいくつもを受けていたことになります。

■近くの席にいたら、声をかけられるか

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飯田さんを救ったのは、お店の人ではなく、たまたま近くの席にいたご年配の女性でした。もし自分があの店で食事をしていたら、同じように声をかけられたかどうか。気まずくて、お皿に目を落としたままだったかもしれません。


それにしても、大笑いした女性はいったい何者だったのか。最後まで謎のままなのも、この話の味わいなのかもしれません。

ご年配の女性のようにはっきり言い返すのは、なかなか難しそうです。でも、次に外食するとき、水を運んでくれた店員さんに「ありがとう」とひと言添えるくらいなら、私にもできそうです。

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<再構成/日刊SPA!編集部>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
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