その象徴が武豊騎手とC.ルメール騎手だろう。武騎手は菊花賞で歴代最多の5勝。それに並ぶのが2023年から3連覇中のルメール騎手だ。
一方、今年の菊花賞で三冠達成を狙うロブチェンの鞍上を務めるのは、松山弘平騎手。2020年にデアリングタクトとのコンビで無敗の牝馬三冠を達成し、目下7年連続で年間100勝を達成するなど、今や日本を代表する騎手の1人である。
重賞64勝の松山弘平騎手、2500m以上では38戦未勝利
しかし、長距離重賞に限ると、意外な数字が浮かび上がってくる。松山騎手はこれまでJRAの重賞を64勝している。芝2400mでは【4-2-5-35】と4勝を挙げているが、2500m以上の重賞になると【0-2-2-34】。38戦していまだ勝ったことがない。
2500m以上はスタミナがより問われる舞台といえるが、距離別で見ても興味深い。2500mの重賞では16戦未勝利だが、2020年の有馬記念では11番人気サラキアを2着に導いている。
3000mは16戦して3着が2回あるだけで、3200mでは6戦すべて馬券圏外である。つまり、3000m以上の重賞では22戦して連対さえないのだ。
菊花賞との相性もいいとはいえない。過去11回騎乗して最高着順は6着。2022年にはセントライト記念を勝ったガイアフォースと挑み、1番人気の支持を集めながら8着に敗れた。
人気薄への騎乗が多かった松山騎手、今年の菊花賞は二冠馬で挑む
翌2023年も、日本ダービー3着のハーツコンチェルトに騎乗。ダービーでは勝ち馬からわずか0.2秒差だった同馬は、菊花賞でも5番人気に支持されたが、結果は6着。春のクラシックで好走した実力馬でも、掲示板に載ることはできなかった。ただし、2500m以上の重賞38戦のうち28戦は6番人気以下の馬だった。3番人気以内は2回しかなく、勝利を期待される馬への騎乗が多かったわけではない。
それでも、重賞64勝の実力者が2500m以上では38戦0勝。この極端な数字は、菊花賞で三冠に挑む今だからこそ気になるところだ。
何しろ今回の相棒ロブチェンは、これまで6戦5勝。皐月賞を逃げ切り、日本ダービーは中団から差し切った。前走の神戸新聞杯もハナ差で競り勝ち、脚質の自在性と勝負強さを見せつけている。
父も祖父も菊花賞馬。血統と能力でジンクス打破へ
血統面も申し分ない。父ワールドプレミアは2019年の菊花賞と2021年の天皇賞・春を制したステイヤー。祖父ディープインパクトも菊花賞馬で、今回勝てば史上初となる祖父、父、子の3代にわたる菊花賞制覇が実現する。血統的に距離延長は歓迎といえそうだが、馬体から受ける印象は少し異なる。500kgを超える筋骨隆々の体つきについて、杉山晴紀調教師が3000mへの対応を気に掛ける発言をしたことも過去にあった。
もちろん、筋肉質だから長距離に向かないとは限らない。杉山晴師は世代トップクラスの能力を認めており、最終追い切りでも折り合いや反応に十分な手応えを示している。松山騎手への信頼も厚い。血統と能力に後押しされた二冠馬なら、鞍上のジンクスを打ち破る可能性は十分にあるだろう。
伏兵ナリタエスペランサに注目したいワケ
では、ロブチェンの三冠達成を阻むとすれば、どの馬か。まず、名手2人が手綱を取るゴーイントゥスカイとダノンヒストリーは人気であっても無視はできない。そしてもう1頭、穴党として馬券に忍び込ませておきたいのが、北村友一騎手のナリタエスペランサだ。
北村騎手は松山騎手とは対照的に2500m以上の重賞で通算【4-2-2-16】。24戦して4勝、複勝率33.3%、複勝回収値130という数字を残している。
特筆すべきは人気薄での好走だ。2020年の天皇賞・春では11番人気スティッフェリオを2着に、その前年も8番人気パフォーマプロミスを3着に導いた。長距離の大舞台で穴をあけてきた実績は魅力だ。
ナリタエスペランサ自身も、6月の小倉芝2600mで古馬相手の2勝クラスを快勝。前走は3勝クラスで1番人気に推されるも12着に敗れたが、勝ち馬とはわずか0.5秒差だった。菊花賞の出走馬には夏以降も3歳馬同士で戦ってきた馬が多いだけに、ひと足先に古馬の上級条件を走った経験は見逃せない。
管理する福永祐一調教師も長距離への適性を評価しており、距離延長も歓迎材料となりそう。最終追い切り後には前走からの良化も伝えられており、巻き返しへの期待は膨らむ。
大外18番は雨で不利が薄れるか…
ただし、気になるのが大外18番。道中で外を回り続ければ距離ロスは大きくなるが、週末の京都は土曜、日曜とも雨が見込まれ、道悪が濃厚な情勢となっている。ただ、ナリタエスペランサはこれが重賞初挑戦だけに勝利まで期待するのは酷かもしれない。それでも、天皇賞・春で2年続けて人気薄を馬券圏内に導いた鞍上なら、紐穴として押さえておく価値はあるのではないか。
2500m以上の重賞で38戦未勝利というジンクスに加えて、松山騎手には三冠達成という重圧ものしかかる。その前には武騎手とルメール騎手の2人の名手も立ちはだかり、北村友騎手も一角を崩そうと虎視眈々。「長距離は騎手で買え」という格言が、今年の菊花賞で改めて問われることになりそうだ。
文/中川大河
【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。
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