松井秀喜氏が巨人の監督に就任した。かつて日本中を沸かせた「ゴジラ」が、今度は指揮官として古巣に帰ってくる。

松井秀喜氏の巨人監督就任でよみがえる「視聴率43.1%」の熱...の画像はこちら >>
 このニュースを聞いて、真っ先に脳裏によみがえったのは1992年秋のドラフト会議だった。当時、筆者は熱烈な阪神ファン。優勝まであと一歩に迫ったチームに、阪神ファンだった松井が加わることを心から願っていた。しかし、4球団競合の末に交渉権を引き当てたのは巨人だった。

 あのときの落胆は今も覚えている。それでも、長嶋茂雄監督の下で松井が球界を代表するスターへ成長していく姿を見て、いつしか考えが変わった。阪神ファンとしては悔しくても、日本球界全体にとっては巨人入りで良かったのかもしれない……と。

視聴率43.1%の熱狂から30年…松井監督誕生に期待すること

 同じ1990年代、パ・リーグではもう一人のスターが誕生していた。1994年、オリックスのイチローがシーズン210安打、打率.385を記録。その年から7年連続で首位打者に輝き、松井とともに時代を象徴する存在となった。

 そして1996年、長嶋監督率いる巨人と仰木彬監督率いるオリックスが日本シリーズで激突した。第1戦ではイチローが延長10回に決勝本塁打を放つなどし、最終的にオリックスが4勝1敗で日本一に輝いた。あれからちょうど30年になる。


 当時のプロ野球界の熱狂を物語る数字がある。1996年の日本シリーズ第1戦は、関東地区の世帯平均視聴率が43.1%。一方、今年のDeNA対ソフトバンク第1戦は12.1%だった。インターネット配信の普及や視聴習慣、対戦カードの違いはあるにせよ、31ポイントもの落差には驚かされる。

 もっとも、プロ野球人気が衰退したわけではない。今年の公式戦観客動員は2700万人を超え、過去最多を更新した。球場はにぎわっているのに、テレビを通じて多くの人が同じ試合に熱中した時代とは、野球の楽しまれ方が変わったのだ。

 そんな時代だからこそ、松井の監督就任には勝敗以外の意味もある。松坂大輔氏も26日、テレビ朝日系の「報道ステーション」で、松井の監督就任を知って巨人ファンだった頃の気持ちがよみがえったと明かした。

イチロー氏にも古巣の監督を願う理由

 松坂の言葉には共感するところがある。そして筆者にも、松井の監督就任を機に、もう一つ期待してしまうことがある。いつの日か、イチロー氏にもオリックスの監督になってほしいのだ。

 もちろん、簡単に実現する話ではない。
イチロー氏は2019年の現役引退会見で監督には向かないという考えを示しており、現在もマリナーズで指導に携わっている。日本球界への復帰を表明したわけでもない。

 一方、松井氏も就任会見では、指導者経験がほとんどないことを率直に認めた。アメリカに生活の拠点があり、家族もいる。悩んだ末に家族の後押しを受け、古巣の再建を引き受けたという。

 名選手が名監督になる保証はない。結果が出なければ、現役時代の名声が大きいほど厳しい批判にさらされる。それでも松井は新しい一歩を踏み出した。

「松井秀喜以外いない」イチロー氏が賛辞

 そんな決断に、イチロー氏も賛辞を送っている。10月23日、シアトルで共同通信の取材に応じ、「監督人事でこれだけ盛り上がるのは松井秀喜以外いない」と語った。さらに、松井を軸にこれからのプロ野球が形づくられていくという期待まで口にした。

 2人は2024年から、イチロー氏率いる草野球チーム「KOBE CHIBEN」でチームメートとなった。かつて日本シリーズで対戦した2人が、引退後は同じユニフォームを着てプレーしているのだから面白い。


イチロー氏が高校球児に伝えてきた技術と姿勢

 イチロー氏自身にも、指導者として積み重ねてきたものがある。2020年に指導した智弁和歌山は翌2021年夏の甲子園で優勝。2021年に訪れた国学院久我山も、翌春のセンバツで初の4強入りを果たした。

 もちろん、数日間の指導だけで両校が躍進したわけではない。ただ、技術に加えて練習への向き合い方や自分で考える姿勢を伝えてきたイチローが、プロの選手たちをどう導くのかは興味深い。本人は否定的でも、監督としての姿を想像したくなる理由はある。

「松井巨人vsイチローオリックス」という夢

 もっとも、古巣オリックスにも事情がある。イチローがプレーしたブルーウェーブは2004年の球団統合で姿を消し、現在はバファローズとなった。岸田護監督の2027年続投も決まっている。

 1992年、筆者が願った松井の阪神入りは実現しなかった。だが、巨人に進んだからこそ長嶋監督と出会い、1996年にはイチローのオリックスと日本一を争うことになった。

 あれから30年。今度は松井が巨人、イチローがオリックスの監督として向き合う姿を見てみたい。
本人が望んでいない以上、実現が難しいことは百も承知だ。それでも、かつて野球に夢中だった人たちが、再びテレビの前に集まる光景を想像してしまう。

 そんな対決が実現する日を、気長に待ちたい。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。
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