元芸人のベストセラー作家・藤崎翔が、最新作『漫才師の殺し方』を上梓した。
藤崎は、デビュー作の『神様の裏の顔』で第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、その後も『逆転美人』(双葉文庫刊)、『お梅は呪いたい』シリーズなどを世に放ってきた。


「人気上昇中の若手漫才師が突然逮捕された。彼の無実を信じ、相方と後輩芸人が立ち上がる」

お笑い×ミステリーという藤崎の真骨頂が光る本作の装画を手掛けたのは、藤崎側からのオファーを快諾した人気お笑いコンビ・見取り図のリリー。

序盤には、通常の小説にはまずない、主人公コンビのネタを丸々1本載せるという挑戦的な場面もある本作。M-1グランプリ(以下、M-1)決勝進出者でもあるリリーは、そのネタをどう読んだのか?

「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。...の画像はこちら >>

小説の装画に初挑戦。リリーが選んだのは「ピカソ」風


――絵がお得意なリリーさんは、絵本(『ももからうまれたおにたろう』)も出されていますが、小説の装画は初めてです。オファーを聞いたときは、いかがでしたか?

見取り図・リリー(以下、リリー):正直、夢というか、1回やってみたかったんです。例えばCDジャケットのイラストとか、何かの表紙みたいなものの需要が自分にあったら。だからうれしかったです。単純に。

藤崎翔(以下、藤崎):そうなんですか!? よかった。「リリーさんにオファーしてみようと思います」と担当編集さんから言われて、「ぜひ!」と答えながら、どうせ「断られました」となって、傷つくんだと思ってたんです(苦笑)。引き受けてもらえたと知ったときは、本当にうれしかったです。


――どんなイメージで装画を描かれたのでしょう。

リリー:最初はただ芸人の話かなと思って読み始めたんですけど、現代的なネットの要素とか、医学的なこととか、今のいろんなことが入ってて。

「これはピカソだ!」と思いました。1枚にいろんな要素がある感じの。それでちょっとキュビスム系で攻めようと思って描いていきました。

藤崎:いやあ、僕なら装画を描けと言われても困ります。特に難しい作品ですし。

「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。元芸人・ベストセラー作家とのタッグが実現するまで
『漫才師の殺し方』 (扶桑社文庫)
――苦労されたところは?

リリー:捕まっちゃう芸人の名前がゴーレム(『ドラゴンクエスト』のモンスターと同じ)なんですけど、まんまなわけじゃないし。

どこまでゴーレムの要素を入れて、どこまで生身の人間の要素でいくか、何回か描き直しました。ゴーレムの雰囲気すぎると、RPGみたいな話だと思われちゃうし。

藤崎:本当にドラクエっぽいのかと思われちゃう。

リリー:あとは目立つほうがいいと思って、できるだけカラフルに。
でもカラフルすぎても、中身と違うので、不気味さのあるカラフルにしようと工夫しました。

藤崎:言われてみれば、本当にそうですね。ありがたいです。

「準決勝進出コンビ」のネタをリリーに読まれる緊張


「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。元芸人・ベストセラー作家とのタッグが実現するまで
「冒頭の漫才を大慌てで書き直した」と語る藤崎
――序盤には、主人公コンビ「パワーブレイン」の漫才シーンが1本、丸々書かれています。彼らはM-1準決勝進出コンビですが、リリーさんはM-1決勝経験者です。

藤崎:「リリーさんに読まれるんだ、やばい」と思いました(苦笑)。

全体を推敲していく中で、漫才シーンも徐々に面白くすればいいやと思ってたんですけど、装画がリリーさんに決まって、急遽あそこだけを考える時間をしっかり設けました。

M-1グランプリの準決勝進出コンビという設定なのに、リリーさんに「この程度じゃ、準決勝なんて行けねえよ」とか、思われちゃうかもって焦って。僕にできる精一杯をやった次第です。

リリー:いやいや、面白かったですよ。漫才のシーンって、物語なんかに出てくると、芸人の目から見ると「こんなネタは絶対ないのに」と思うことがあるんです。

でも藤崎さんは元芸人ですから。リアルにウケそうなネタだと思いました。


藤崎:でも、実際の漫才のネタまんま過ぎてもダメで。たとえばM-1で優勝してる方々のネタを文字に起こしてみて、読んで面白いかといったら、そんなことない。それこそマヂカルラブリーさんなんて、その極致で、あの感じは文字に起こしようがないですよね。

リリー:たしかに動きとかもネタに込みですもんね。なるほど。でも「パワーブレイン」の面白さは文字で伝わりました。さすがだと。すごく感動しました。

藤崎:装画がリリーさんになってなかったら、ここまで頑張れなかったです。本当にありがとうございます。

主人公コンビを弱小事務所所属にした理由

「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。元芸人・ベストセラー作家とのタッグが実現するまで
主人公コンビを弱小事務所所属にした理由
――「パワーブレイン」をはじめ、芸人たちの熱い絆や関係性もグッときます。先輩や後輩、事務所の仲間など、芸人たちの描かれ方はどう読まれましたか?

リリー:めっちゃ吉本以外の芸人像だなと思いました。

――吉本以外の?

リリー:これ、芸人しかわかんないと思うんですけど、吉本とそれ以外の事務所って、なんかちょっと違うんですよ。


藤崎:「パワーブレイン」は小さな事務所に所属してます。大きな事務所だと、相方以外で助けてくれちゃう人が現れちゃうかなと思ったのが大きいです。

それに、僕が石井光三オフィスという超弱小事務所で芸人時代を過ごしたので(笑)、そもそも大きい事務所のことは知らないし、書けないんです。

リリー:すごくリアルだったので、吉本以外の知り合いの奴らを思い浮かべながら読みました。

「あー、こんな感じだよな」と。芸人が読んだら、めっちゃうなずくと思います。炎上しちゃう感じとか。突然、逮捕されちゃって、相方と後輩ぐらいしか、もう助ける人がいないという感じも。

藤崎:もし大きな事務所だったら、今ならたぶん弁護士芸人のこたけ正義感さんが何とかしてくれちゃう(笑)。

“あれ”の話は実体験。終盤に登場するのは……

「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。元芸人・ベストセラー作家とのタッグが実現するまで
“あれ”の話は実体験。終盤に登場するのは……
――そのほかの印象はいかがでしたか?

リリー:とにかく藤崎さんの知識にびっくりしました。さすが作家だなと。
書くのに大変じゃなかったですか? “あれ”を登場させるのも、知識がないと。

藤崎:鍵として登場する“あれ”ですね。逮捕されるゴーレムが過去に経験してるんですけど、実際、僕も経験者なんです。だから今回ほど調べなくて済んだ企画はないかもしれないです。

リリー:へえ~! 元芸人だし。

藤崎:芸人も“あれ”も、どっちも経験していることなので。そういう意味では、書くのは簡単でした。

リリー:それで終盤にご自分の名前も出して?

藤崎:そうですね。終盤に小説家の「藤なんとか翔」っていう名前がちょっとだけ登場するんですよね。

「“あれ”の経験が本当にある人が書いているからね。全く知らずに書いているわけじゃないからね」というのを読者に伝えたいと思って。後書きとかに書くのはちょっとかっこ悪いかなと。
まあ「藤なんとか翔」って書いたのもかっこ悪いかもしれないですけど、一応、作中でさらっと(笑)。

リリー:ユーモアがあって、藤崎さんならではですね。

プロットは決める?リリーが藤崎に聞いた執筆法

「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。元芸人・ベストセラー作家とのタッグが実現するまで
プロットは決める?リリーが藤崎に聞いた執筆法
――リリーさんから、藤崎さんに聞いてみたいことはありますか?

リリー:ストーリーって、最初から最後まで、決めて書き出すんですか?

藤崎:僕の場合は、途中で考えながらはあんまりできないので、最初と最後とトリックと、この笑いは入れたいというのを最初に何個かポンポンポンって決めます。

特に最初と最後。そこが思いついてれば、あとはなんとかなるだろうという感じです。でも連載の方だと、そういうわけにもいかないんだと思います。

リリー:考えながら書いていくと。

藤崎:そうだと思うんですけど、僕は連載を任されるほど売れてはいないので、ちゃんと自分のペースでやれます。

昔の松本清張さんとかは、連載のオファーが切れ目なしで来るから、ざっくりどうにでもできるタイトルを書いて、連載中に展開を考えてたらしいです。

リリー:先がどうとでもできるタイトルで書き始める? それ、すごいな。

藤崎:本当にどうやってたんだろうと思います。書くペースが速い人は、割とそうみたいです。赤川次郎さんとかも。オチまで思いついてないのに書くなんて、僕は絶対できないですけど。

しゃべりながら歩いて撮ったボイスメモがネタになる

「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。元芸人・ベストセラー作家とのタッグが実現するまで
スマホのメモ帳を見せる藤崎
リリー:でも物語を組めるだけですごい。頑張ってひねり出すんですか? それともパッと思いつくんですか?

藤崎:僕はメモ魔なんです。それで「これはいつか使おう」っていうネタのストックがたくさんあるんです。

――リリーさんも、メモは取られますか?

リリー:メモ帳にパッと書いたりはしますけど、そんなにこまめじゃないです。寝る前にいいのを思いついても、次の日起きたら全部忘れてますね。

藤崎:僕はそれどころじゃなく忘れちゃうので、ちゃんとボイスメモするようにしてます。今日もここに来る前に、この先の小説で明治神宮を出すかもしれないと思って、1回行って歩きながらボイスメモをバーッと録ってきたんです。

――しゃべりながら歩いて?

藤崎:明治神宮をずっと歩いて。フリック入力が苦手なので、ずっとしゃべりながら。

リリー:天才ですね。

藤崎:いやいや、天才じゃないから、こうして頑張ってるんです。

リリー:そういうネタを組み合わせて?

藤崎:そうですね。融合して、何とか1つの物語になる感じです。

リリーが藤崎に期待する次作は「恋心からの殺人」

「正直、夢というか」見取り図リリーが小説の“装画”に初挑戦。元芸人・ベストセラー作家とのタッグが実現するまで
リリーが藤崎に期待する次作は「恋心からの殺人」
――リリーさんから、今後、藤崎さんにこんな小説を書いてほしい、というリクエストがあればぜひ。

藤崎:メモします。

リリー:(笑)。僕は、恋愛から起こるサスペンス、みたいなのが割と好きなんです。「恋心からの殺人」みたいな。

藤崎:恋心からの殺人、ですか。

リリー:自分自身がそんなことをする可能性は絶対にない。恋で人なんて殺さない。だからこそ、楽しく読めると思います。

藤崎:でも僕は、恋愛の経験がほとんどなくて(苦笑)。もし書くとなったら、リリーさん、アドバイスをお願いします(笑)。

<取材・文/望月ふみ 撮影/荒熊流星>

【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):@mochi_fumi
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