井上ひさしさん原作の二人芝居「父と暮せば」(7月5日開幕、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA)で舞台初主演を務める女優の戸さおりがこのほど、スポーツ報知などの取材に応じた。

 原爆投下によって父親や親友を失った女性が生きる希望を得ていく姿を描いた作品。

1994年に初演され、2004年に宮沢りえ主演で映画化された。今作は父・竹造役の松角洋平との二人芝居で、鵜山仁氏が演出を務める。

 5年ほど前、瀬戸は同作と出会い、娘・福吉美津江役を客席から見つめ、「この役を絶対にやりたい。この役として生きていきたい」と思った。「学生の頃から周りのみんなにあわせてきた。みんなが好きだから好きという感覚はあったけど、自分の本当の好きがよく分からなくなっていたんです。だから、この舞台を見て、『このセリフを言いたい』『これが好きだ』と自分の中からわき起こってきたこと自体が特別なことで、その『好き』をちゃんと言おうと思って、逃しちゃいけないと思ったんです」

 切望してきた役のオファーに「すごくうれしかったです。素直に」と柔らかな笑み。劇中の最後のセリフである広島弁の「おとったん、ありがとありました」へ向け「積み重ねて、想像し続けて、どう彼女生きていこうかなっていうのはすごく思ってます」と、まさに今、役と日々向き合っている。

 舞台が上演されるこの夏、原爆投下から80年の節目を迎える。瀬戸は「演劇を通して時代のにおいを、戦争を、体験してもらうということがすごく大事なことだと感じる」と思いを込めた。

 役者としての原点には役として生きていた兄・瀬戸康史の存在がある。

地元で兄の舞台を観劇し、「お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない」感覚に心つかまれ、それが役者を目指すきっかけとなった。「不思議な感覚でした。俳優って、役者って面白いなって思ったんですよね。なんでこうなるんだろう、何をしたらその人として生きられるんだろう、役として生きていけるんだろうと思って。今まで身近に見てきたお兄ちゃんだからこそ、そういう不思議な感覚になったんです」

 普段は仕事の話はあまりしない兄妹(きょうだい)だというが、今作については兄に報告。以前から妹がやりたい役だと知っていた兄は「よかったじゃん。見に行かなきゃ」と喜んでくれたという。

 兄には、以前は「どんな仕事でも妹は妹としか見られない」とも言われていたが、最近は役者として認めてくれるように。瀬戸は「今回も兄が見て、どういう感想がくるのか楽しみです」と反応を期待する。

 開幕の夏はもうすぐそこだ。「舞台をやってると、ここが居場所なんだなって思えるんです。だからこそ舞台をやっていきたいし、目の前の作品一つ一つと真摯に向き合っていきたい」。

瀬戸さおりはこの夏、美津江に生きる。(瀬戸 花音)

 ◆瀬戸 さおり(せと・さおり)1989年9月19日、福岡県出身。35歳。元美容師。2011年、「non‐noモデルオーディション」で審査員特別賞を受賞し、雑誌「non‐no」の専属モデルに。13年、女優デビュー。15年、日本テレビ系「ドS刑事」で連続ドラマに初レギュラー出演。18年、「愛の病」で映画初主演。24年、NHK大河ドラマ「光る君へ」に出演。

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