◆プロボクシング ▽WBO世界ウエルター級(66・6キロ以下)タイトルマッチ12回戦 王者・ブライアン・ノーマン―同級2位・佐々木尽(6月19日、大田区総合体育館)

 日本人初のウエルター級世界王者を目指したWBO同級2位の佐々木尽(23)=八王子中屋=が、王者ブライアン・ノーマン(24)=米国=に5回46秒、KOで敗れ、悲願の王座獲得はならなかった。同級世界戦の日本開催は36年ぶり3度目。

日本人選手の同級での世界挑戦は、16年ぶり6度目(5人目)。「日本人初のウエルター級世界チャンピオンになる男、佐々木尽です」「待ってろ世界!」と言い続けてきた23歳が、最激戦階級・ウエルター級の分厚い壁にはね返された。

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 佐々木は初回にいきなりノーマンの左フック一発にダウンを喫し、終盤にも2度目のダウン。ノーマンの強打を受けながらも果敢に前に出て反撃したが、かなわなかった。5回に左フック一発でキャンバスに沈没。強烈な一撃に受け身も取れずにキャンバスに真後ろから倒れ込んだ。後頭部を打ち付けて倒れた後は失神してしまい、セコンドが棄権の意思を表明。佐々木はKO負けを宣告された後もしばらく大の字になったまま動けなかった。

 

 果敢に挑んだ。破天荒な言動の裏には、深く刻まれた挫折の記憶があった。高校の合格発表日、12歳の時から指導を受ける中屋廣隆チーフトレーナーに「これからはボクシング一本でやります。世界チャンピオンになります」と誓った。

しかし高1で出場したアマチュアの試合は1勝3敗。「自殺しようと思ったぐらい悔しかった。そこで心に火がついた」。17歳でプロデビュー。だが19年の東日本新人王決勝を計量失敗で棄権。21年のWBOアジアパシフィック&日本スーパーライト級王座決定戦では体重超過の末に11回TKO負け。23年には左肩腱板断裂で手術を受け「ボクシングができなくなるかもしれない」と覚悟したことも。夢への道は、何度も閉ざされた。

 折れかけた心を「世界」へと向かわせたのが、中屋チーフトレーナーだ。私財を投じて佐々木をラスベガスに連れて行き、ウエルター級世界戦を観戦。30年以上の指導者歴で「最高の素材」と見込んだまな弟子に基礎をたたき込み、世界王者育成の夢を託した。ボクシングだけで生活できる環境を与えるため、スポンサー探しにも奔走した。

佐々木も「人生を懸けてやらないと世界チャンピオンになれない」と師の思いに応えた。「友達はいない。中学卒業以来、遊んだこともない」。人生を丸ごとボクシングに捧げてきた。

 初の世界挑戦でベルトには届かなかったが、まだ23歳。日本ボクシング界の未踏峰に挑んだ若武者の拳が切り開く未来は、新たな歴史となるはずだ。

 ◆佐々木 尽(ささき・じん)2001年7月28日、東京・八王子市生まれ。23歳。小学5年から中学3年まで柔道を習い都大会2位に。中学1年からボクシングも始める。ボクシングに専念するため定時制の八王子拓真高に進学し、2年時の18年8月にプロデビュー。20年12月、日本ユース・スーパーライト級王座獲得。

23年1月、WBOアジアパシフィック・ウエルター級王座獲得。24年5月、東洋太平洋同級王座も獲得し2冠王者に。身長174センチの右ボクサーファイター。

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