日本オリンピック委員会(JOC)は26日、都内で評議員会と理事会を開き、役員改選で新会長に元五輪相の橋本聖子参院議員(60)を選出した。任期は2年。

6代目にして女性会長は初めてとなった。長期療養中の山下泰裕会長(68)は任期満了で退任した。理事会で互選する新会長は、これまでは事前に一本化されていたが、今回は日本サッカー協会前会長の田嶋幸三氏(67)、日本バスケットボール協会会長の三屋裕子氏(66)も候補に入り、新会長選出は長時間にわたり紛糾。新理事による投票が初めて実施され、橋本氏が選ばれた。

 3時間以上にも及ぶ理事会でついに橋本新会長が誕生した。

 130年以上の歴史がある国際オリンピック委員会(IOC)で、初の女性会長となったカースティ・コベントリー氏(41)に続き、JOCもまた女性会長がかじを取ることになった。会見した橋本氏は「大変光栄な任務につかせていただくことになった。身を引き締めて、しっかりと初心を忘れずに業務を遂行させていただきたい」と力強く所信表明した。

 会長選は混迷を極めた。当初はJOCで副会長まで務めた田嶋氏を会長候補に据える方向で進められたが、選考委員会にも入っていない役員が「政治介入」をしてきたことに疑問を持った元役員らが元五輪相の実績もある橋本氏の就任を強く進言。水面下での駆け引きが続き、これまでのように事前に一本化されないまま、理事会を迎えた。

 橋本氏は7月に6期目当選を目指す参院選を控え、自民党派閥裏金問題の余波も考慮し、慎重な姿勢だった。

会長選前のスポーツ報知の取材に、橋本氏は、元役員らの支援も受けていた中で、退任したIOCのバッハ前会長から直接、JOCの新会長就任を熱望する激励の手紙をもらったことも会長就任への思いを後押ししたことを明かしていた。

 橋本氏は東京五輪・パラリンピック担当大臣を経て同大会の組織委員会会長も経験。長年の政治経験や国際感覚を備える。今後は東京五輪招致を巡る汚職事件、30年札幌市冬季五輪招致の失敗と弱体化した組織の立て直しへ大きな期待がかかる。

 会見では五輪招致への意欲も見せた。「東京五輪・パラリンピックのレガシーであるのが今年の東京世界陸上、デフリンピック。もう一つが来年の愛知・名古屋アジア大会。JOCの役割としてアジア大会を成功させるかは重要。開催能力が高いと認められれば招致へ大きな弾みがつく。五輪を招致し、世界へ平和の象徴であるという姿をみせることがJOCの使命」と五輪招致再挑戦への思いを語った。来年2月に開催されるミラノ・コルティナ五輪が新会長としての最初の大仕事。夏冬通算7度出場の“五輪の申し子”が、日本スポーツ界に新たなムーブメントを起こしていく。

(松末 守司)

 ◆橋本会長に聞く

 ―立候補決断の経緯。

 「IOCで初の女性会長が誕生し、スポーツ界は新たな時代を迎えた。JOCもIOCの考え方に寄り添い、新たな改革を進めなければと決意した」

 ―理事会で訴えたこと。

 「(五輪パラ)東京大会のメインスポンサーがパリ大会で撤退した。スポーツ界、JOCの危機。困難な状況だからこそ身を投じるべき。再び日本で五輪パラリンピックを開催する準備をすることが使命」

 ―裏金問題について。

 「私自身は明確に裏金はなかった。(政治資金収支報告書への)不記載ではなかったことが検察から認められている。その部分は自信を持って(理事に)説明をした」

 ―初の投票による会長選任だった。

 「田嶋さん、三屋さんも能力のある方だ。終わればノーサイド。

2人の力をお借りし、足りない部分をサポートしていただく。たくさんの意見をお聞きし、今回の選定方法は非常に良かったと思っている」

 ◆橋本 聖子(はしもと・せいこ)1964年10月5日、北海道早来町(現・安平町)生まれ。60歳。3歳でスピードスケートを始め、冬季五輪は84年サラエボから4大会連続出場。夏季五輪は88年ソウルから自転車で3大会連続出場。92年冬アルベールビル五輪1500メートルで日本女子初の銅メダル。95年参院選で初当選。10年冬季バンクーバー、14年冬季ソチ、16年夏季リオデジャネイロ五輪の選手団団長。19年9月東京五輪・パラリンピック競技大会担当大臣。21年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長。

 決選投票決着 〇…理事会では自ら手を挙げた橋本氏、田嶋氏に加え、会長代行を務めてきた三屋副会長への推薦もあり、三つどもえの争いに。1989年から36年のJOCの歴史で、初の会長選となり、新人10人を含む理事らによる投票に。

投票を繰り返して、最後は決選投票で過半数の支持を得て橋本氏に軍配が上がった。投票では候補者の自薦、他薦を募り、無記名で行った。得票数は公表していない。

 田嶋氏「15項目の提言」提示も 〇…三つどもえとなった会長選で敗れた田嶋氏は終了後、報道陣に「橋本さんをサポートしていきたい」と淡々と語った。五輪への思い入れが強い田嶋氏も「全力でやる」と、事前に行われた選考委のヒアリングでは15項目の提言を盛り込んだ46ページに及ぶマニフェストを提示。使命感に燃えて臨んだ会長選だった。

 現役ハネタクら新理事10人就任 〇…評議員会で選出された理事には橋本新会長、田嶋氏ら新たに10人が就いた。柔道男子の00年シドニー五輪金メダリスト・井上康生氏(47)、重量挙げ女子の12年ロンドン五輪銀メダル・三宅宏実氏(39)、現役選手でもあるカヌー男子の16年リオ五輪銅メダル・羽根田卓也(37)=ミキハウス=も新たに入った。長期療養中で会長を退任した山下泰裕氏は理事を外れた。

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