東京・国立競技場で開催される世界陸上(9月13日開幕)の選考会を兼ねた日本選手権が、7月4日に同競技場で開幕する。男子100メートルに宮城辰郎(27)=日星電気、浜松西高出=が出場。

6月の布勢スプリント(S)では桐生祥秀(29)=日本生命=ら日本トップクラスが集結した中、自己ベストを更新する10秒14で初優勝を飾った。全国的には無名に近いスプリンターが、世界につながる大一番で快走を見せる。

****

 布勢Sで一躍、脚光を浴びた宮城が日本最速王の争いに割って入る。「現実主義なんで、まずは準決勝突破が目標です」。控えめな27歳は、過去2度阻まれている決勝への扉を開く。

 今季は飛躍的にタイムを伸ばしている。5月の静岡国際で10秒28をマーク。中大4年の2019年に10秒25を記録して以来の10秒2台だった。続く中部実業団対抗の決勝で6年ぶりに10秒22の自己ベストをたたき出すと、布勢Sでは10秒14と更新。「今まで色々考えすぎたけど、布勢の決勝はスタートの一歩目だけを意識した」。桐生や山縣亮太(33)=セイコー=らオリンピアンをまとめて撃破した。

 22年11月から拠点を関西に移した。

パリ五輪代表で、同じ年の坂井隆一郎(27)=大阪ガス=の練習パートナーとしてトレーニングを積んでから少しずつ変わった。「当初は冬だけという話だったけど、会社に承諾をもらって、今では(兵庫の)西宮にいます」。今までやったことがないという、筋トレやドリルで一から動きをつくり直した。

 中大から、20年に陸上部がなかった日星電気に就職した。熱意が買われ、宮城の入社とともに部が創部され、今年からは監督兼選手として会社の“看板”を背負って走っている。「今年ダメなら、うっすら辞めようかなって思っていた」。布勢Sを制した以降は「たまに、サインも求められるようになった。ちょっとは有名になってきたかも」。ひとつのタイトルから、周辺の見る目も少しずつ変わりつつある。

 1991年以来、34年ぶりに東京が舞台となる世界陸上の切符を狙って、全員がピークを合わせてくる日本最高峰の大会。「練習でやってきたことを出すだけ」。現役引退から一転、まだまだ成長途上の“伏兵”が再び、陸上界を驚かせる。

(塩沢 武士)

 ◆宮城 辰郎(みやぎ・たつろう)1997年11月7日、浜松市生まれ。27歳。都田中1年から陸上を始めた。浜松西高3年では県総体決勝で4位に入ったがレース中に負傷し、東海総体は欠場。中大4年では日本インカレ100メートル3位、200メートルは2位。好きな飲み物はコーヒー。165センチ、71キロ。独身。

  ◆世界陸上への道 選考項目は複数あり、昨年のパリ五輪で8位以内の選手は1月以降に各種目で設定された参加標準記録(男子100メートルは10秒00)を突破すれば内定。続く条件が、有効期間内に参加標準をクリアした上で日本選手権で3位以内に入れば内定で、宮城はまずこれを目指す。

 今大会は県勢女子に実力者がそろう。5月の静岡国際の400メートルで、日本記録を上回る51秒71をマークしたフロレス・アリエ(日体大3年)=東海大静岡翔洋高出=が登録。

ペルー国籍だったが、このほど日本国籍を取得した。5月のアジア選手権の400メートルで優勝した松本奈菜子(東邦銀行)=浜松市立高出=との県勢対決が楽しみだ。

 3000メートル障害では、今季ランキング1位の斎藤みう(パナソニック)=伊豆中央高出=が初Vを狙う。アジア選手権では自己ベストの9分38秒16で4位入賞を果たした。100メートル&200メートルには、昨年の全国高校総体100メートル女王の小針陽葉(駿河台大1年)=富士市立高出=が出場予定。1500メートルには、米国のルイジアナ州立大に進学している沢田結弥=浜松市立高出=と、6月の日本インカレを制した田島愛理(順大3年)=静岡サレジオ高出=が登録した。

 男子では34歳の飯塚翔太(ミズノ)=藤枝明誠高出=が200メートルに出場。布勢Sで宮城に敗れた2位の鈴木涼太(スズキ)=浜松工出=が100メートルに登録しており、注目が集まる。

編集部おすすめ