フランスの高級ブランド「エルメス」のバッグ「バーキン」の第1号がパリで競売にかけられ、ハンドバックとしては史上最高額となる858万2500ユーロ(約14億7000万円)で落札された。落札したのは日本企業の「バリュエンスジャパン」。

2001年から3年間G大阪でプレーした元Jリーガーの嵜本晋輔氏(43)が設立した「バリュエンスホールディングス株式会社」のグループ企業に当たる。このたび嵜本氏がスポーツ報知の電話取材に応じ、“歴史的落札”までの経緯と、今後の展望などを明かした。(取材・構成 金川誉)

―バーキン購入の理由は?

 「今、世界的に中古のラグジュアリーマーケットが加速、拡大しておりまして、特にその一点ものであったり、ストーリー性のある商品への注目度がすごく高い状態なんですね。そんな中で今回、ジェーン・バーキンその人のために作られた、この名前の由来でもあるバーキンが出品され、これは歴史的な本当に大きな瞬間で。今回出品した方は、約25年前にオークションで買われて、25年ぶりに今回、オークションに出品されたんですね。仮に今回逃したら、もう次いつになるか分からないっていう意味で、ある意味ラストチャンスだなと思って。そういう背景で、まずは参加することを決めました」

―14億円は大金だが、予算通りだったのか?

 「(手数料などを除き)700万ユーロで落札させていただいたんですけど、我々の予算はまさに700万ユーロだったんですね。だから仮にこれ、あとワンビット上に乗られていたら、僕らは買えていなくて。もう僕も最後の1分ぐらい、オークショニアが(入札を)あおっていたと思うんですけど、その時間は緊張感しかなくて。あのワンビット行かれたら負けが確定していたので。だから(予算は)考えられないぐらいドンピシャで。実は予算も、前日まで600万ユーロだったんですよ。

当日になって100万ユーロ増やしたんですけど、これも僕が過去の体験や経験から、600万ユーロやったら落札できないやろうなと思って。700万まで予算上げてくれと、CFO(最高財務責任者)に頼み込んで。もうしぶしぶ、CFOがOK出してくれて、当日を迎えたんですね。もうドンピシャすぎてやばいです」

―ちなみに700万ユーロという予算はどう算出したのか?

 「このバーキンを取得することによって、もたらされる経済的な効果がどれぐらいあるのかを試算しました。例えば広告換算、こうやってメディアに取り上げていただくことによって社名が出るとか、ブランド名が出るという意味での広告換算であったり。あとは弊社が運営する「なんぼや」や「バリュエンス」など、(関連)会社が恩恵を受ける売り上げや利益も。あとはこのバーキンそのものが10年後、20年後、どれぐらいの価値になり得るのかを、AIなども駆使して算出しました。その中で、自分たちの今の企業としての体力ではここまでだろう、というところで、色々な事情を勘案した上で、マックス700と」

―今後の展開はどう考える? 

 「まず日本に到着するのが、おそらく2か月ぐらいかかると思うので、到着次第、お披露目会のような形で展示発表会を実施させていただこうと考えています。その後は美術館であったり、ご興味を持っていただける施設の方と連携しながら、展示の機会を作っていこうかなと思ってますね」 

―25年前に購入された方は、いくらで購入されたのか? 

 「それは非公開になっています」

―サッカー選手からビジネスの世界に転身したきっかけは

 「(G大阪で)3年間プロとして過ごし、その後は(社会人リーグの)佐川急便で1年プレ―しました。サッカーのレベルと自分の置かれている位置、今持っている実力を比較した時に、どう考えても伸びしろというか、ここではないなというふうに悟り、22歳で引退しました。その後、父が大阪でやっていたお店を引き継ぎ、3兄弟で継いでスタートしました。3兄弟で、今の「なんぼや」を立ち上げたんですけど、新しく洋菓子の事業を立ち上げて、そちらがうまくスタートしたので、兄2人が洋菓子事業の方に専念しました。

私が(バリュエンスの)社長になったのが2011年です。そこから14期目なんですけど、7期で上場しました」

―サッカーで培ったもので経営に生きている点は? 

 「やはりサッカーも得点能力の高いエースストライカーが一人いたとしても、試合には勝てないと思うんですよ。ある意味、凡人と言われるような人の集まりの方が、逆にチームとして戦うことの重要性を分かっている。1人の天才より、10人の凡人の方がどう考えても圧倒的に勝ちやすいと思っていて。僕自身は正直、何か優れた才能があるかというと、そうじゃなくて。むしろサッカーから学んだチームとして戦うこと、つまり社長とか、社員とかではなく、本当に横の関係でリスペクトするという考え方を、創業してからずっと貫いてきたんです。いかに仲間を信じてやっていくか、1人ではできない成果を出すかを考え続けてきたので。その経験を、今まさにビジネスの世界でも、同じことやっている感じですね。僕はもうサッカー(選手)としての実力は全然なかった。自身では前向きな撤退、という言葉を使っていますけど、自分がチャレンジを続ける場所なのか、そういうことを考えてその場を離れたからこそ、今があると思っていて。努力し続けるってこと、やりきる力も重要なんですけど、どこでやりきるかを見極めることは、ビジネスにおいても重要なんじゃないかなと思っています」

―今後はこの落札をどう生かす?

 「やっぱり買わずに後悔するよりは買って後悔したほうがいい、と思っていて。この後、このバーキンとともに時間を過ごせるのか、過ごせないのかで、全然得られるものが違うのではないかと。

もちろん確信、自信を持って落札はしているんですけど、思った通りいかないこともあるだろうし。想定した売り上げや利益につながらないこともあるかもしれません。でも落札できたからこそ、見える世界があると思うんですね。この見える世界に、僕はすごく興味関心があって。やっぱり結局は他者のことは、他人事としか人は見ない。でもこれは自分が責任もって落札したものなので、ある意味死ぬまで見届けられる。関わることができると」

―すべて合わせたら18億とは?

 「消費税とか。関税とか合わせたら18億円。ハンマープライス、落札手数料込みは14・7億です」

―オークションはパリで参加?

 「いえ、東京からオンラインです」 

―なぜバーキンだったのか?

「バーキンは世界的なアイコン。ブランドのトップオブトップです。誰もが知るあの形であり、また何よりバーキンというもの自体にストーリー性がある。ジェーン・バーキンがエルメスの会社のCEOの隣にたまたま座った時、そこで持ち物が会長の下にこぼれ落ちてしまった時に、機能性のあるラグジュアリーで、ファッショナブルなバックが欲しいと話した、という。

そういう出会いから生まれた、他社のブランドにはないストーリー性のあるバック。このストーリー性がなかったら、今回の金額にはいってないと思うんです。トップオブトップのバーキンで、かつプロトタイプ、試作品。こんなアイテムがもう出てくることはないと思います」

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