プロフィギュアスケーターの羽生結弦さん(30)が、7月19日にプロ転向から3年を迎える。アスリートとして進化を続ける羽生さんのプロ3周年を記念し、スポーツ報知では特別インタビューを19日まで5回にわたり連載する。
仙台市内のホテルに現れた羽生さんは、この日も凜として美しかった。ソファーに腰を下ろすと、途端にスイッチが入る。プロ3年目の一年を、言葉を尽くして語ってくれた。
「知らないことがたくさんあって、ふと気づいたら、色んなことを勉強できていたなと思う一年でした。勉強していく中で『あ、こんなにも色んなことを身につけずに、色んなことを知らずに、勉強せずに、ここまで何とか来られていたんだな』って。自分の足りなかった部分を知ることができた一年でしたね」
幼い頃から哲学的な問いに関心があったという羽生さん。アイスストーリー「Echoes of Life」(エコーズ・オブ・ライフ)で、哲学をテーマにした物語の執筆にも挑戦した。
「今までざっくりと、命についての哲学みたいなことを、何となく自分の中でしてきてはいたんですけど。『エコーズ』を作る時、(登場人物の)案内人のセリフを書く時に、哲学者たちが提唱している哲学や考え方を、そこに書けるようにしようと思って勉強しました。色んな哲学を学んだ上で、こう思っていたことって、こういう理論があって、こうなっていたのかな、とか。先人たちはこういうことを考えていて、今自分が考えていることって、もしかしたらソクラテスが考えていた頃のことを考えているだけなんじゃないか、とか。
学び続ける日々。羽生結弦に現状維持はない。
「それは競技者として、みたいなところは、もしかしたらあるかもしれないです。アスリートだからこそ余計に、日々努力をし続ける。例えば、何か賞を取るとか、点数を取るみたいなことがなくて、何となくの勉強だけだったら、こういう風な形にならなかったと思うんですよ。僕はアスリートとして、今まで順位というものと点数っていうものを明確に提示されるような生活をしていました。点数を取るためにはどういう練習をしなきゃいけないか、どうしたらいいか。そういった目標があって、日々を過ごしていたんですよね。
プロ転向後、各方面を代表する人物と触れ合う機会が格段に増えた。3年目の今年はアイスショー「羽生結弦 notte stellata」(ノッテ・ステラータ)で狂言師・野村萬斎(59)と共演。身体表現を極めていく過程において、羽生さんにもたらした影響は大きかった。
「野村萬斎という存在が、『ノッテ』の時は目の前にいるわけですよ。一緒に踊ってくださっている。舞ってくださっている。ある意味では一番自分が近くで、野村萬斎の波動を受けているんですよ。それがもう、なんて言うんだろうな、なんて言えばいいんだろう…。違う次元に連れて行ってもらえていたというか。『こんな世界だよ、こっちは』っていうのを、見せつけてくれていたというか。
【注1】ラヴェルの舞踊音楽「ボレロ」と狂言「三番叟」を融合させた独舞。東日本大震災が起きた2011年に野村萬斎が「鎮魂」と「再生」への思いを込めて初演。
◆アイスストーリー 羽生さん自ら企画、台本、出演、制作総指揮を務めるアイスショーで約2時間半を一人で滑りきる。第1弾は23年2月の東京ドーム単独公演「GIFT」、第2弾は同年11月から翌年4月の全国ツアー「RE_PRAY」。第3弾が「Echoes of Life」で、昨年12月から今年2月にかけて開催。
◆「Echoes of Life」(エコーズ・オブ・ライフ) 羽生さんが制作総指揮・出演し、昨年12月~今年2月に開かれたアイスストーリー。羽生さんが演じた主人公は遺伝子操作で生まれたとの設定で、自分の存在意義を問いながら、世界に希望を見いだすという内容。