◆大相撲 ▽名古屋場所3日目(15日、IGアリーナ)
東前頭筆頭・安青錦(あおにしき)が渡し込みで横綱・豊昇龍を破り、初の金星を獲得した。初土俵から12場所目での金星は、年6場所制となった1958年以降、14場所の元大関・小錦らを上回る最速記録。
天井高30メートルの新アリーナ内に座布団が舞った。結びの土俵に立った安青錦は、豊昇龍の立ち合いの突きにも、レスリング仕込みの体幹で前傾を崩さず。得意の右を差して頭をつける体勢をつくった。体をピッタリと密着させて、逆転を狙う横綱の投げも封じ、最後は相手の右脚を抱えるように引きずり込んで、あおむけにひっくり返した。技ありの渡し込み。小錦を超える初土俵から12場所での最速金星を祝う大歓声にも「信じられず、聞こえなかった」と夢心地だった。
技能賞6度の師匠の安治川親方(元関脇・安美錦)譲りの技巧派だ。師匠は03年初場所で貴乃花から初金星をつかんだ。金星計8個の同親方は「自分の意図を出していかないといけない。横綱との対戦は全てが経験で大きくしてくれる」と成長を楽しみにする。
ウクライナで相撲に取り組んでいたが、ロシアの侵攻を受け、戦禍を逃れて22年4月に来日。特に大相撲の結びの一番は、来日前から母国でネット配信などで視聴していた憧れの舞台だった。新入幕だった今年春場所は千秋楽の土俵下で結びを見届け、「ここでやりたいなと思って座っていた」と明かしていた。2日目(14日)は初の横綱戦、初の結びで大の里に完敗。それでも「自分の精いっぱいを出し切るだけ」と、連日の結びに気持ちを切り替えていた。
横綱・大関戦を2勝1敗の白星先行も「これから長いので、一日一日しっかりやっていきたい」と浮かれた様子はなし。今も戦禍にある母国を思い「自分の相撲を見て、一人でも元気になってくれたらうれしい」と語る。ウクライナ出身力士初の金星とともに、21歳の真夏の快進撃は始まったばかりだ。(大西 健太)
◆渡し込み 日本相撲協会の決まり手によると、相手の膝か太ももを片手で外側から抱え込んで内へ引き、もう一方の手で押し込み、体を預けて倒し勝つ。