プロフィギュアスケーターの羽生結弦さん(30)が、7月19日にプロ転向から3年を迎える。3周年を記念した特別インタビュー第3回は「好奇心」と「ゲーム」。

(取材・構成=高木 恵)

 説明書を隅から隅まで熟読してから、羽生さんはゲームや機械を始動する。完璧主義で、準備を大切にする姿勢が、そんなところにも表れている。

 「小さい頃から説明書を読むのが大好きなんですよ。すごく不思議がられるんですけど。説明書を読んで、ちゃんと理解した上で何かを始めたいっていう。意外と慎重派なんです。子供の頃も、何かをもらってすぐにババって始めちゃうというタイプではなかったです。なるべく理解したい。その理屈をちゃんと理解した上でやりたいという人間なんですよね、元々。研究者気質というか(笑)」

 ロールプレイングゲーム(RPG)もそう。攻略情報をしっかり読み込んでからスタートする。

 「みんな普通はネタバレは好きじゃなくて、ちゃんと自分で通してからネタバレを見たり、攻略情報を見たりして『あ、こんな所にこんなのあったんだ』みたいな感じになるんですけど。

もう私は最初から見ます、攻略を(笑)。ちゃんと見てから攻略します。ちゃんと見てからじゃないと動けなかったりしています。ダンジョンの構造とか、どう戦ったらいいかみたいなことを、徹底的に調べ上げてからやらないと気が済まないタイプです」

 アイスストーリー第2弾の「RE_PRAY」では、ゲームの世界観からの倫理観や価値観を物語に組み込んだ。ゲーム好きの羽生さんの、最近のお気に入りは何なのだろう。

 「今は物語の材料を集めるために、いろいろ物色しています。物色中という感じです。そういう時もまず、一番簡単な難易度に設定して、ストーリーだけを楽しんで、みたいな感じにしちゃう人間ですね割と。で、1回通してから、一番難しいモードにする。イージーからベリーハードに。急に難しいモードで、強いやつらをちゃんと倒すっていうのが快感(笑)。ちゃんと準備したいんですよね。

あと、自分ができないことがすごい嫌いなんですよ。そういうのは自分の根本的な性格なんだろうし、そういうのがあったから、ここまでやってこられたんだろうし。スケートというものに関しては、いまだにその攻略情報を見て完璧にやれているというわけではないと自分は思っています。攻略情報を探している最中。でもやっぱり、なんだかんだこの26年間を、へこたれる日もあるけれども、極めてきていたので。だから逆に、他のものに対してのギャップが激しいんですよね。スケートはここまでやってこられているから、他のことやった時に、なんでこんなこともできないんだよぉー、ってなっていって辞めちゃうみたいな感じはしますね」

 音楽にも精通する羽生さんは、楽器にも興味を持っている。

 「ベースとドラムを本当にやりたいんです。ベースやりたいんですけど…。でもやっぱり、そこまでやっても、どうせそこまでやったとしても、下手くそだろうなと。はまるかもしれないけれども、やっぱりスケートの極め度が高すぎるので、他と比べたら卵段階なわけです。だから、卵の中から殻を割って、ヒビ入ったな、出るのやめようみたいな(笑)」

 氷上で一音一音を拾って演目に落とし込むほど耳がいい。

そんな羽生さんがベースとドラムを挙げた理由を聞いてみた。即答だった。

 「音質が好きだから」

 曲を聴いているなかでも、ベースとドラムの音に耳がいくのだろうか。

 「いくかもしれない。ボーカルラインを拾いながらベースを聴いているかもしれないです。一番最初に、ボーカルよりベースの方を聴いているんじゃないかな。あ、でもドラムを一番聴いているのかな。ドラムをすごい聴くかもしれないです。多分、そっち寄りの耳なんでしょうね」

 いい意味での“オタク気質”と、多方面への尽きない好奇心が、表現者としての広がりを無限のものにしている。

 「好奇心はやっぱりありますね。そういう好奇心が全部創作につながっていくと思うんです。それこそいろんなことで挫折したりとか、いろんなことで喜びを味わったりとか、本当に日々の中でいろんな感情がいっぱい渦巻いているわけですよね。

そういう渦巻きこそが、制作とか創作の源流になると思うんです。そこは大事にしつつ、そこの幅みたいなものをちゃんと作りながら、ただボーッと過ごすんじゃなくて、いっぱいいっぱい、いろんなことを感じながら過ごしていけたらいいなと思いますね」

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