プロフィギュアスケーターの羽生結弦さん(30)が、7月19日にプロ転向から3年を迎える。3周年を記念した特別インタビュー第4回のメインテーマは、2022年2月の北京五輪。

日本男子初の金メダルに輝いた14年ソチ、66年ぶり2連覇を達成した18年平昌を経て迎えた、3度目の舞台について聞いた。(取材・構成=高木 恵)

 3年前の北京五輪が、羽生さんにとっての最後の競技会になった。現在も質量ともに競技者時代を上回る練習と研究を自らに課し、2時間超のワンマンショーを滑りきる。アスリートであり続ける羽生さんが、今改めて思う3度目の五輪とは―。

 「北京まで、4A(4回転半ジャンプ)の練習をしたことは良かったとは思います。あそこに向けて、それこそ結果を求めていたわけなので。結果っていう明確な目標がなかったら、やっぱりあそこまで突き詰めて練習することはできなかっただろうし。あそこでもしかして成功している並行世界がそれこそ存在するかもしれないけど、今現在成功しなかったという世界に生きているうえでは、あの時成功しなかったから、余計、今もまだ体についてめちゃくちゃ研究しているし、今もまだ4回転半に向けて、あがこうとずっといろんなトレーニングを積めているわけなので。あそこで学べたことと、あそこの延長線上で今も戦えているっていうことは、確かなことだなと思っています」

 北京出場は直前まで悩み、前年12月の全日本選手権で明言した。決断に至った最後の一押しも、やはり「夢」のジャンプだった。

 「全日本まで跳べなかったんですよ、アクセルが。全日本まで4Aが跳べなくて。

本当は全日本で辞めようと思っていたんですよ、あの時。なんだったらもっと前に辞めたかったんですよ(笑)。前にも言っていたと思うんですけど、平昌が終わって辞めたかったので。辞めたい辞めたい、とは思ってはいました。けど、僕、今までいろんなインタビューで話したことって全部達成してきてしまった人間なんです。だから途中で辞められなかったんですよね、正直。4A跳びますってずっと言っていたので。そのためにやっている、って言っていたので。途中で諦めるということと、自分の夢を手放すということがすごく怖かった」

 14年ソチ、18年平昌と五輪を連覇した。男子シングルでは66年ぶりの快挙だった。取るものは取った。平昌後の「最大のモチベーション」は「4A」だった。

 「これは最近すごい哲学をしていて、なんとなく自分の中で今芯にあるものの一つなんですけど、夢に向かって研さんし続けることみたいなものが、自分の命の証しだと思っていて。だから、それを手放してしまうということは、自分の命がもうなくなっちゃうぐらいの勢いで、ずっと考えてきたと思うんですよね。だから、4A跳びますって言っていたから、ずっと辞められなかったと。で、正直、北京まできちゃったな、どうしようってなっていたという感じです」

 平昌五輪時よりもさらに進化した、つなぎを大切にした演技。こだわりをもって作り上げた、フィギュアスケートらしい細部にわたる美しさ。理想の追求を捨てることなく、夢を追った。

 「(21年の)全日本に行くにあたって、全日本で絶対にアクセルを決めようと思っていました。だからやったんですけど、あの時も。最後まで、6分間練習まで分からないし、本番でやってみて1発だけ跳べるかもしれないしと思って、希望を持ちながらやっていました。まず、全日本で跳べなかったら辞められないなと思ったので。跳べなかったから、という感じです。せっかくここまで近づいたのに諦めてたまるかみたいな。

今までの中で一番4Aに近づいた瞬間だったので、あそこが。ここで諦めちゃダメだなって。諦めて、手放してしまったら、本当に崩壊してしまうな、っていうのがありました」

◆ミラノ五輪を目指す同郷の佐藤駿と千葉百音へ「頑張り屋さん」「報われてほしい」

 羽生さんが、来年2月のミラノ・コルティナ五輪を目指す同郷の後輩にエールを送った。仙台市出身の男子・佐藤駿(21)=エームサービス・明大=、女子・千葉百音(20)=木下グループ=は、アイスリンク仙台で一緒に練習をした間柄だ。

 「小さい頃から見ているので。すごい頑張り屋さんなんですよ、彼らは。自主練をたくさんしていました。僕はリンクが一度経営破綻する前から練習していたので、小さい頃に先生にずっとレッスンを見てもらったり、練習時間もたくさんあったんです。貸し切り時間もたくさんあったんですけど、あの子たちは小さい頃に貸し切りがたくさんあるという世代ではなかったんですよね。そんな中で、小さい頃からずっと頑張っていました」

 現在佐藤は埼玉、千葉は京都を拠点に、初の五輪切符獲得へ努力を重ねている。

 「今は違う環境にいますけど、あの頃に頑張っていたことは絶対生きると思うから。報われてほしいなと思います」と優しい表情で語った。

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