◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 「一日一番」。取組後の取材で力士が必ずと言っていいほど口にする言葉だ。

担当になった約1年半前は「なぜ当たり前のことを繰り返し言うのか」と感じていたが、今なら重みがわかる。

 名古屋場所では、東前頭15枚目・琴勝峰(佐渡ケ嶽)が史上38回目(37人目)の平幕優勝を果たした。終盤に差し掛かっても感情の起伏を見せず、優勝を決めた直後の支度部屋での受け答えも淡々。まるで千秋楽の翌日も取組が続くのでは、と思うほど平常心に映った。

 23年初場所の千秋楽で敗れながらも相星決戦を戦った経験がある。普段から口数は少なめ、感情をあまり表に出さないタイプだが、優勝争いの当時を師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇・琴ノ若)は「ガチガチになっていた」と振り返る。琴勝峰も「(23年の)経験を生かしている」と、優勝を逃した悔しさを経て、たどり着いた境地なのだろう。

 番付がものを言う世界。力士は毎場所勝ち越しを懸け、プレッシャーの中で土俵に上がる。ある力士は「一番一番に一喜一憂していると(気持ちが)持たない」と明かす。今場所、「一日一番」の精神を最も実践していたのが琴勝峰だった。

 今場所、私は初めて優勝記事を担当した。

振り返れば、大混戦で仕事量も多くなるにつれ、落ち着かない日々が続いた。ただ、そんな時こそ「一日一番」。琴勝峰を始めとする力士たちが口にする当たり前の言葉が、胸に響いた。(相撲担当・大西 健太)

 ◆大西 健太(おおにし・けんた)21年入社。レイアウト担当を経て24年3月に大相撲担当。

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