歌手で俳優の福山雅治(56)が9日、故郷・長崎市のハピネスアリーナで、同市の山王神社に現存する被爆クスノキを題材にした楽曲「クスノキ―500年の風に吹かれて―」の歌唱を行った。この日は長崎に原子爆弾が投下されてから丸80年の節目。

歌唱の模様はNHK「MUSIC GIFT」で生中継され、長崎から全国に平和への思いを届けた。

 故郷にとって特別な日に、平和への祈りを歌声に乗せた。会場を埋め尽くした5000人の一般参加者と共に歌唱した福山は「8月9日という日に、長崎で5000人と歌えるのは奇跡ですよね」と喜びをかみ締めた。

 以前から命の尊さを訴えた「クスノキ」を長崎で歌うことを願い、実現に向けてNHKとタッグを組んで始動。レコード関係者によると、同曲を「自分の歌だけど、皆さんの歌にしたい」との思いも持っていたことから、全国から歌唱希望者を募り、4万5000人の応募が集まった。

 この日の歌唱前には、同市のピーススタジアムで開催されたサッカーJ2のV・ファーレン長崎による平和記念マッチのセレモニーにも登場。サポーターに「スポーツというのは平和の象徴だと思っています。サッカーというスポーツが開催されるこの瞬間こそが、平和の一日だと言えると思います」と呼び掛けた。

 同曲は、山王神社の境内入り口にそびえ立ち、原爆の爆心地から800メートルの場所で熱線にさらされながらも枯死せずに残ったクスノキがモデル。自身が作詞作曲し、2014年にリリースした。今年6月には、80年の節目に向けて新録バージョンをデジタルリリース。ここでも「皆さんの歌にしたい」との思いを反映するため、合唱隊やオーケストラが加わる形で編曲された。

 長崎市では至る所で「クスノキ」に関連したプロジェクトが行われている。長崎県美術館では、画家のjunaida(ジュナイダ)さんが描きおろした同曲のジャケットデザインの原画を展示。この日からは、そのジャケットデザインがラッピングされた路面電車の運行も始まった。

 ここ数年、世界ではウクライナ戦争や中東地域での紛争など緊迫した情勢が続く。そんな世の中だからこそ、福山は平和に向けて「長崎の人間としての使命感はある」と主張する。長崎を最後の被爆地にするため、誰もが平穏に暮らせる世の中にするため、福山は「クスノキ」を歌い続ける。(松下 大樹)

◆「また泣いた」平和祈念式典で児童約100人が「クスノキ」合唱

 この日午前に同市の平和公園で営まれた平和祈念式典では、爆心地に近い市立城山小と山里小の児童約100人が「クスノキ」を合唱した。

 福山は会場には行けなかったため、テレビで式典を視聴。「児童たちの年齢が、ちょうど11歳とか12歳。楽曲を発表した時と時を同じくしてこの世に生を受けた児童たちが、戦後80年というこの日に歌を歌ってるっていうのが、クスノキっていう楽曲の成長と、彼らの成長とシンクロしちゃって、なんかもうまた泣いてましたね」と感動にふるえたという。

 式典での児童の合唱は2000年から始まったが、今年は「クスノキ」を歌うことを市側が福山に提案。福山も快諾した。

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