◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 もし自分に記者としての長所があるとすれば、長時間のインタビューが苦ではないことだと思っている。かつて古舘伊知郎さんに言われた。

「あなたのいいところは時計を見ないところです。必死で話している時に時計を見られると申し訳なくなる。気持ちよく話させてくれてありがとう」。その言葉は毎回、私の背中を押す。

 先日、大黒摩季さんの取材は午後7時に始まり、終わると10時を過ぎていた。音楽の話題のみならず、世界情勢や最近のボーイフレンド事情、朝ドラの話まで。一緒に笑い、一緒に泣いた。3000字目安のコーナーなのに、文字を起こしたら5万字あった。お話が好きな方と聞いてはいたが、本人や周囲のスケジュールを考えると、さすがにやりすぎたと反省した。

 「冗長になってしまってすみません」と恐縮すると、彼女は私をハグした。「ライブで地方に行った時にいつも話すんです。“大黒摩季”でもやってなかったら、みなさんが私の曲を好きじゃなかったら、この街で出会うなんて一生なかったって。

尊くないですか? 今もそう。幼稚園ではミジンコみたいに端にいて、高校時代は跳び箱の中で休み時間を過ごしていた私が、大黒摩季をやってないと絶対にあなたに出会えない」。そうか、尊いのか。この3時間の出会いに感謝した。

 効率重視の世の中、“タイパ”の観点からはもっといい取材方法があるのは承知している。それでも、目の前の人が人生を切り分けてくれる、非効率な時間を一緒に過ごすのが好きだ。時計が目に入らなくなる瞬間が、私なりの「尊さ」への敬意なのかもしれない。(芸能担当・宮路 美穂)

 ◆宮路 美穂(みやじ・みほ) 2007年入社。話を聞くのは好きだが、書くのはいまだに苦手。

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