2022年に亡くなった俳優の渡辺徹さん(享年61)が企画・原案した映画「SENSEKI」(ルカシュ・ババ監督)が、9月13日から1週間限定で東京・新宿のK’s cinemaで特別上映される。徹さんの出身地・茨城県古河市の偉人で、江戸時代の蘭学者・鷹見泉石を描いた作品。

今作に出演する長男の俳優・渡辺裕太(36)、次男の俳優・渡辺拓弥(29)が作品への思い、撮影時の思い出を語った。(加茂 伸太郎)

 質問の答えに困った時、互いに助け舟を出す姿はまさに、あうんの呼吸。2人がそろって取材を受けるのは初めてだったが、緊張した様子もなく、和やかな雰囲気で進んだ。

 「SENSEKI」は、蘭学者で古河藩家老だった鷹見泉石(たかお鷹)の晩年を描いた作品。徹さんは志半ばで病に倒れたが、その遺志を継いだ古河市や同市観光協会の協力を得て、24年2月に全編市内ロケで実施された。裕太は古河藩藩士の原田直輔、拓弥は泉石の蘭学仲間で医師の桂川国興を演じた。

 裕太は「この作品に関しては、父が、家族が、というのは二の次で、渡辺家を超えた思いがある。家族が思っている以上の気持ちを、携わった皆さんが持っていてくださってありがたいです」と感慨深げ。「幼い頃からお世話になっている古河の方々の思いに応えたい、というのが一番。オファーを頂いたからには何らかの力になりたいと思い、参加しました」と話した。

 拓弥は「生前、父がやりたかったことの一つがこの映画だった。亡くなった後も、渡辺徹に対する熱い思いを持った古河の方々が形にしてくださった。

『家族』というものを超えて、ここまでやってくることができて感謝の気持ちでいっぱいです」。公開が前後したが、本来は今作が俳優デビュー作になる予定だった。「父が携わった作品に出られることが、純粋にうれしいです。僕自身、もう一度、芝居の道へ進むきっかけになった作品でもあるので」とかみ締めた。

 撮影期間中は徹さんの懐かしい話を聞く機会もあった。在りし日をしのび、現場に立った。裕太は、たかおに対峙(たいじ)する場面を回想。「たかおさんは、実際に父が文学座でお世話になった方。その方を目の前にするわけですから、気持ちがこみ上げてきたというか…。今思い返すと、特別な感情を抱いていたかもしれませんね」

 共演者、スタッフも2人の姿から面影を感じていた。拓弥は「兄の笑い声が父とそっくりだったみたいです。現場では『徹が来た。

鳥肌が立った』って話題になっていましたから」。その裕太は「笑い声、笑い方、笑うタイミングは自分でも似てきたな~って思います(笑)。似てると言えば、この映画の予告編で見る拓弥の横顔が父親のシルエットにそっくりなんです。驚きましたね」と目を丸くした。

 今作での共演シーンはなく、現場で会う機会もなかったが、拓弥には「舞台でも映像でもいいので、兄と一緒に芝居をやりたい」という新たな目標ができた。

 それを聞いた裕太は「もちろん!」と呼応。「弟は僕が出演した作品に、お世辞抜きで本音を言ってくれる。いいものは『いい』『良かった』と褒めてくれるし、30秒で10個ぐらいダメ出しされたこともある(笑)。その関係性って貴重ですよね」。良き友、良きライバルとして役者の世界で切磋琢磨(せっさたくま)を続けていく。

 〇…裕太は30代後半に向けて「改めて、映像の方でお芝居のレッスンに行ったり、同時にドラマに出させて頂いたり。その延長に、朝ドラに出演するという夢がある」と充実の日々を送る。

「5きげんテレビ」で金曜キャスターを務めるが「もっと岩手の人たちとの交流を持ちたい」と意気込んだ。一方の拓弥は20代ラストイヤー。「まだまだこれから。駆け出しです。無駄なことは1つもないので、オファーを頂いたお仕事には全力取り組んで、自分の糧にしていきたい。主演兼プロデュースの企画に挑戦してみようと思っています」と声を弾ませた。

 ◆渡辺 裕太(わたなべ・ゆうた)1989年3月28日、東京都出身。36歳。2009年に舞台初出演。16年から日テレ系「所さんの目がテン!」実験プレゼンター。22年からテレビ岩手「5きげんテレビ」金曜キャスター。24年から日テレ系「news every.」特集リポーター。

今年は映画「囁きの河」に出演した。特技は料理、野球、遠泳。資格は野菜ソムリエ。173センチ。

 ◆渡辺 拓弥(わたなべ・たくや)1996年2月6日、東京都出身。29歳。19年から22年まで文学座附属演劇研究所に所属。24年10月に短編映画「一区切りの吉日だ(^^)」で俳優デビュー。今年は映画「わたしのバタフライ」「ソーゾク」が公開予定。趣味はゴルフ(ベストスコア80)、将棋、料理(得意料理は徹さん直伝のペンネボロネーゼ)、英会話。夢は日本アカデミー賞を取ること。175センチ。

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