世界陸上が9月13日、東京・国立競技場で開幕する。初日の男子35キロ競歩で金メダル候補に挙げられる川野将虎(26)=旭化成、御殿場南高出=に須走中(静岡)時代、陸上を始めるきっかけをつくった船津拓也さん(64)がエールを送った。
川野の恩師・船津さんが、感慨深げに言葉を紡いだ。34年ぶりに東京で開催される世界陸上に教え子が臨む。「これまで関わった生徒が、こんな大舞台に立つなんて信じられない。本人が納得するレースをして、最後はガッツポーズでゴールしてほしい」と健闘を祈った。
須走中で教諭だった時に川野が入学。陸上部がなく、卓球部にいた。1学年2クラスで全校生徒は130人ほどと小規模。「部活に関係なく生徒の多くが朝練で校庭を走るのが通例だった」。駅伝シーズンには船津さんが指揮を執り、部員を集めて「駅伝部」として大会に出場。川野が競歩を始めたのは御殿場南高からだが、陸上の「原点」はまさに中学時代だった。
決して目立った選手ではなかったが、コツコツ努力する姿勢は目を見張るものがあったという。入学当初、1500メートル走は6分以上かかっていたが、3年時には4分20秒台で走破。余力を残さず、ゴールした後は倒れ込むスタイルも中学時代からだった。「途中で足がつったんでしょうね。でも、太ももをたたきながら声を出して走る姿が忘れられない」と懐かしんだ。
師弟の関係は今も続いている。21年3月に一度、定年を迎えた恩師に川野が感謝の思いを込め、祝電とバラの花を贈った。船津さんにとって今も大事な宝物だ。同年の東京五輪も応援に駆けつけた。競歩は北海道で行われたが、コロナ禍のため声出し応援は自粛。「手書きのボードを掲げていましたが、本人は気がつかなかったみたい。そのレースで僕の目の前で2回嘔吐。
今回の世界陸上も現地に赴く予定。「私の生まれ故郷の御殿場で育った子が世界で活躍してくれる姿は、今の中学生たちの励みになる。『ぜひ、見に来てください』と言ってくれたので、今度は声を出して応援したいと思います」。教え子でもあり、高校の後輩でもある川野の歩きを沿道から後押しする。
(塩沢 武士)
◆船津 拓也(ふなつ・たくや)1961年2月22日、御殿場市生まれ。64歳。御殿場南高から玉川大に進学。小学校からスキーを始め、高校1、2年に国体のアルペン少年男子の県代表で出場。83年から中学校保健体育の教諭になった。家族は夫人と2男。170センチ、65キロ。
〇…川野はこのほど共同通信の取材に応じ、日本陸上界初となる3大会連続のメダルに挑む世界陸上に向け「今まで取ったことがない色のメダルを取れるように頑張りたい」と決意を語った。22年オレゴン大会は銀、23年ブダペスト大会は銅。昨年10月に世界記録を樹立したが、海外勢が続々と塗り替えた。「世界記録保持者として臨んでいたら、守りに入るレースになっていたかもしれない。これでさらに戦えるなと、メラメラと燃えている」と言い切った。