7年前、松本好雄オーナーにインタビューをしたとき、騎手の選択について聞いたことがある。答えは「私は一切、口を挟みません。

調教師さんから『この馬、誰を乗せますか』と聞かれても、外国人騎手(の名前)は言いません」だった。99%近い勝利が日本人騎手で、外国出身騎手による勝利は2020年10月のグリーンチャンネルC(メイショウテンスイ)のルメール騎手まで、さかのぼる。JRA重賞73勝(うちG1・10勝、JG1・2勝)も、全て日本人騎手で挙げてきた。

 日本の競馬はビッグレースなどで外国人騎手への乗り替わりが当たり前のことになった。だが、松本オーナーは「確かに外国人騎手は馬の御し方が上手で、いい馬に乗って、どんどん勝っています。でも、私は(武)豊が筆頭。そして普段から調教をつけていたり、厩舎の人がかわいがっている騎手に自分の馬に乗ってもらいたい」。厩舎サイドと騎手との信頼関係が第一で、「反発してるわけでも何でもないんです」と調教師の思いをくみ取り、ジョッキー選びを任せてきた。

 騎手と馬とのつながりで印象に残るエピソードが、メイショウマンボと武幸四郎騎手(現調教師)とのコンビだ。2013年に、こぶし賞で2勝目に導いたが、重賞初制覇となった報知杯FRは騎乗停止期間中。桜花賞で再コンビも10着に終わった。「絶対にいいところに来ると思ったんですよ。

ところが終始、大外を通って、その日はすごい風。強風をまともに受けて、あれではどうしようもない。『幸四郎、何をやっているんだ。なんで内に入れないのか』と直後は腹が立ったのですが、入るところもなく、それも競馬です」。馬券を握り締めて見守ったレース後は頭に血が上ったというが、すぐに冷静さを取り戻した。

 その日の帰りの車の中、武幸四郎騎手から電話があった。「『オークスに出してくれませんか。登録していないけど、乗せてください』と。直後は、くそー! と思ったけど、幸四郎がそう言うなら追加登録をしようと決めました。(マンボを)育ててくれた幸四郎を乗せ続ける以外、ありません。あれから堂々たる横綱相撲を3回も、本当にいい夢を見せてくれました」と振り返った。追加登録料200万円を払って参戦したオークスでG1初勝利。

デニムアンドルビーやラキシスなどの強豪牝馬を撃破し続け、秋華賞、エリザベス女王杯も制覇した。

 競馬ファンは騎手と馬との絆が紡ぎ出すドラマをいつも見たい。武豊騎手とコンビのメイショウタバルが今年の宝塚記念を制覇。管理するのは、騎手時代にメイショウサムソンで2006年にクラシック2冠を達成した石橋守調教師だった。競馬史に残る多くの名場面は、松本オーナーの強い信念によって生み出されてきた。そのひとつに個人馬主では不滅の大記録の2000勝が加わった。(競馬担当デスク・内尾 篤嗣)

編集部おすすめ