日本テレビ系刑事ドラマ「太陽にほえろ!」で、舞台となった七曲署の警部補「山さん」役で知られた俳優の露口茂(つゆぐち・しげる、本名同じ)さんが4月28日、老衰のため都内の自宅で死去していたことが2日、分かった。93歳だった。
冷静沈着な洞察力と鋭い推理力を武器に、「太陽―」を初回から支えた「落としの山さん」を演じた露口さんが、ひっそりと人生の幕を下ろしていた。
露口さんは1994年のテレビ朝日系スペシャルドラマ「終着駅シリーズ」第4作を最後に俳優業から遠ざかった。95年のスタジオジブリのアニメ映画「耳をすませば」で猫の男爵・バロンの声を務めて以来、目立った活動はなかった。2013年に、週刊誌の取材に応じた際には「役者としてもう一度とは考えていない」と引退状態であることを明かしていた。
東京都に生まれ、戦争で疎開した愛媛・松山で少年時代を過ごした。愛媛大を中退し上京。俳優座養成所では同期の田中邦衛さん、山本學らとしのぎを削り、劇団新人会を経て、60年に劇団俳優小劇場の立ち上げに参加。舞台を中心に活動していた。その後、今村昌平監督の映画「赤い殺意」で注目された。
67年のNHK「文五捕物絵図」以来、テレビに活躍の場を移し、72年にスタートした「太陽―」の「山さん」こと山村精一警部補が当たり役となった。駆け引きを得意とする渋い刑事役で、裕次郎さんが入院で休演した際は、裕次郎さん演じる「ボス」の代わりに捜査の陣頭指揮を執るなど、七曲署には欠かせない存在だった。
山さんは同ドラマでは11人目となる最後の殉職者。86年4月に放送された出演最終話の第691話まで13年9か月にわたって「太陽―」を支えた。二枚目というだけではなく、生きてきた年輪がにじむ、濃淡のある演技に多くの支持が集まった。
声優としても活躍し、英国のテレビドラマで、NHKで放送されていた「シャーロック・ホームズの冒険」では主人公ホームズの声を担当。「耳を―」のバロン役は、宮﨑駿監督からのラブコールを受けて実現した。
晩年は妻と都内の自宅でマイペースに暮らし、娘夫婦や孫に会うことを楽しみにしていた。かつての名俳優は家族思いの男に戻り、その生涯を閉じた。
◆露口 茂(つゆぐち・しげる)1932年4月8日、東京都生まれ。愛媛大2年で中退。上京して俳優座養成所入り。