◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 文化社会部に配属されて丸6年になる。話を聞き、原稿を書き、の繰り返しが作業的になっていないか点検する意味で、月末のルーチンとして、スケジュール帳の末尾に「〈1〉今月の心に残った取材」「〈2〉心残りな取材」を書いて翌月に向かうようにしている。

 〈1〉は当月の取材で胸が熱くなった光景や言葉を書き留め、〈2〉は「何で取材対象にこんな聞き方をしてしまったのだろう」などと反省を書いている。8月は〈1〉と〈2〉どちらも、日本テレビ系「24時間テレビ」で子ども支援のためのマラソンランナーを務めたSUPER EIGHT・横山裕(44)の取材に関するものだった。

 今夏、横山を2度取材する機会があった。心に残ったのは、取材で計5度聞いた「僕には走る理由がちゃんとある」という言葉。近年のランナーでトップクラスと言っていいほど、自身の生い立ちとリンクした横山の走りはチャリティーの意義と覚悟が伝わるものだった。酷暑のマラソンに個人的には疑問もあるが、力走には胸を打たれ、支援を必要とする子どもの存在を考える契機をもらった。

 一方で「心残り」なのが、横山が母の闘病や弟たちの生活、学費を工面してきた経験を聞いた時のこと。記者が「大変でしたね」と神妙な相づちを続けると、静かに言葉を紡いでいた横山は「いや、僕は幸せでした」と少し語気を強めた。潜在的に「貧困=かわいそう」と捉え、苦労話でくくろうとする浅はかなアングルを感じ取ったのだろう。貧困や家庭内の問題は、複雑なグラデーションの中に本質や声にならない声がある。単純な構図に落とし込もうとした取材姿勢を反省した。(芸能担当・奥津 友希乃)

 ◆奥津 友希乃(おくつ・ゆきの)2019年入社。

文化社会部で社会担当を経て、芸能担当。

編集部おすすめ