AI(人工知能)で、サッカー界に新風を吹き込む―。24年創業のFocus(フォーカス)社が、大きな野望を胸に、今までになかったサッカー少年少女向けの自主練習を促進するアプリケーション「ガムトレ」の開発に向けて歩みを進めている。

 「いつでもどこでも、好きなだけ、質の高いサッカーの練習環境を」をテーマに、スマートフォンやタブレットで自身の練習の様子を動画で撮影。その動きをAIが解析し、ボールを蹴る時のフォームや体の重心のかかり方、ボールの回転量などをデータで可視化し、課題や最適な練習方法などを提案。またアプリ内には自身のキャラクターが設定され、実際の練習の成果や結果に基づき、体力や技術のパラメーターが上がっていくゲーム要素も取り入れられる予定だという。代表取締役CEOの宮口翔氏(35)は「子どもたちのために絶対に必要なサービスだと思っています」と、強い思いを言葉に乗せる。

 「スポーツは人を、子どもたちを変える。今の日本において、なくてはならないもの」と断言する宮口氏だが、ある出来事が開発への原動力となっている。昨年のこと。次男が在籍していることもありコーチを務めるサッカーチームに、ある少年が体験入部に来た。潜在能力の高さに光るものがあったものの、サッカー用品を買い与えることが出来ないなどの家庭環境を理由にチームに入ることはなかった。

 「社会問題としてそういう情報はありましたが、自分の目の前で起きた。そういう子どもたちをうちのサービスを使って一人でも救いたい。家庭環境に左右されずに子どもたちがサッカーを続けられる世界を作りたいなって思いました」

 今年の元日にその思いを具現化するべく立ち上がり、その思いに賛同し、開発部門を担当しているのが、東北大学大学院を準主席で卒業後、コニカミノルタでAI画像処理の研究開発などを行い、その後米国で脳波事業で起業経験もある取締役CTOの田辺悠介氏(34)。

中学卒業後から社会人として働く宮口氏とは異色のタッグのように映るが、田辺氏は「大学院に行くと社会に出るのが遅くなるので、すぐに社会に出ている人たちをすごく尊敬している。また、色々やっていく中で技術には自信はあるけど、営業力に課題を感じている中でゴリゴリに営業をされている人はすごく相性がいいなと。スキルや経歴は正反対なのに、思いとか、やりたいことがめちゃくちゃ合致する。これが一番相性がいいタイプだなって思ったので」と、お互いの突き抜けた強みを掛け合わせることができる最高のコンビが結成した。

 このアプリの可能性について、田辺氏も「今、技術で解決しようとしているのが、子どもたちの能力と努力の可視化。努力がこれだけの能力に結果として結びついているんだというのが可視化されると、子どもたちが頑張るモチベーションにもなる」と言う。現在はサッカー関連のインフルエンサーとして活動している「なかしゅん」こと中村駿介氏、高野歩夢氏の2名がAIのデータ蓄積のために練習動画などの提供と監修を務めており、データが集積されていくことで、選手個々に合わせた解析の精度もより上がっていく。

 さらにアプリによって、新たな道が切り開かれるかもしれない。「努力量が可視化され、結果には現れてないけど、これだけ努力してきたんだっていうのが全部見えるので、例えばスカウトの人たちの1個の指標にもなると思うんですよね」と田辺氏。どんなに離れた場所にいる選手でもタブレット一つでチェックすることが可能になるため、いつかは各カテゴリーのチームのスカウトが、「ガムトレ」を駆使して、選手を発掘する時代がくるかもしれない。

 既にアスリート向けのクラウドファンディング「ロドクラ」を立ち上げ、来年の上半期をメドに「ガムトレ」の試作版が出される見通し。宮口氏は「僕は絶対に、意地でも軌道に乗せます。

これはやっぱり子どもたちのために絶対に必要なサービスです。最終的には子どもたちが可能性を諦めない世界を作りたいですし、家庭環境に左右されずに、サッカーを持続的に続けられるスポーツにしていきたい。またビッグデータが集まれば、どこにいても、クラブチームとかが見られるようになりますし、そうすることによって、地方の子たちも見てもらえるケースも増えてくると思う。そういった世界を目指したいですね」。サッカーが持つ無限の可能性をさらに引き出すアプリが、近い将来、子どもたちの手元に届けられる。(後藤 亮太)

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