経営再建中の日産自動車(横浜市)が経営権を持ち、約75%保有する株式の売却を検討しているサッカーJ1の横浜FMについて、IT大手などを含め、少なくとも数社が興味を示していることが29日、複数の関係者への取材で分かった。売却額は十数億円規模とみられる。

今後、金額や候補先企業はさらに増える可能性があるという。

 関係者によると、交渉は初期段階で、12月までに候補先企業に打診した上で絞り込みを行い、協議を続けていく見込み。J1優勝5度で、同クラブには木村和司や井原正巳、中村俊輔川口能活、中沢佑二ら数多くの日本代表が所属してきた。「日産ブランド」の象徴でもある横浜FMだが、地盤とする横浜市を中心としたファン層や人口規模など他企業にとっても評価は高いという。

 1972年の日産自動車サッカー部創部から、半世紀を超える歴史を持つ地域に根ざした名門クラブだけに、29日付スポーツ報知の「株式売却報道」は大きな衝撃を与えた。横浜市の山中竹春市長(53)は記者団の取材に「報道を見て驚いた。市民に愛着を持たれて活動してきたクラブ。存続してほしい」と話した。山中市長は「必要な対応を行う」と語り「経営判断もあるが、市民のメリットをしっかり考えたい」と強調した。日産は販売不振で、25年3月期連結決算の純損益が6708億円の巨額赤字に陥った。コスト削減が急務で、グループ従業員の約15%に当たる2万人と国内外で7つの車両工場を削減する計画を公表。日産広報担当者は「推測については、コメントしない」と話した。

 神奈川県の黒岩祐治知事(71)は「地域経済や雇用への影響などについて、日産や国をはじめとする行政機関との情報連携をしっかりと行う」とのコメントを出した。横浜市内の横浜FM事務所前には報道陣が集まったが、29日は休業日で対応はなかった。28日のFC東京戦(3〇2)から一夜明けたチームもオフだった。

 ◆近年の主なJクラブ買収事例

 ▽町田 18年10月、IT大手のサイバーエージェントが当時J2所属の町田を11億4800万円で発行株式の80%を取得。

 ▽鹿島 19年7月、フリーマーケットアプリ大手メルカリが、日本製鉄が保有していた発行済み株式72・5%のうち、61・6%を15億8800万円で取得。

 ▽FC東京 21年11月、IT大手のミクシィは、第三者割当増資を11億5000万円で引き受け、これまでの所有株式と合わせて2万4000株を保有。議決権所有割合51・3%となり経営権を取得した。

 ▽大宮 24年8月、オーストリアの大手飲料メーカーのレッドブルがNTT東日本が保有する当時J3の大宮とWEリーグ大宮の運営会社が発行する株式100%の譲渡を受けた。金額は公表されていないが、3億円程度だと言われる。

 ◆横浜F・マリノス マリノスはスペイン語で「船乗り」の意。1972年に創部した日産自動車サッカー部が前身。92年に日産FC横浜マリノス、96年に横浜マリノスに改称。

99年2月に横浜フリューゲルスと合併し、横浜F・マリノスとなった。2014年5月にはマンチェスターCなどを傘下に置く英国のシティー・フットボールグループ(CFG)と資本提携。リーグ優勝5回、ナビスコ杯(現ルヴァン杯)優勝1回、天皇杯優勝7回。クラブカラーは青、白、赤のトリコロール。ホームタウンは横浜市、横須賀市、大和市。本拠地は日産スタジアム(入場可能数7万1624人)。

編集部おすすめ