今年のジャパンカップ・G1(11月30日、東京競馬場・芝2400メートル)は、どんなドラマが生まれるのか。過去の名勝負・06年勝ち馬のディープインパクト(武豊騎手騎乗)を振り返る。

フランスの凱旋門賞後に薬物が検出されて3着から失格となったが、本来の実力を見せ付けて「6冠馬」の称号を得た。

 飛んだ―。地鳴りのように響く歓声の中、小柄な鹿毛馬が、ライバルを一方的に突き放していく。これまで何度も見てきた光景。ディープインパクトは、やはり日本の英雄だった。

 府中の広い直線。その真ん中を完歩の大きいフットワークではじけ飛ぶ。ライバルは関係ない。ただ、自分の走りをするだけだ。内で粘るドリームパスポートに、2馬身差をつけての快勝劇。ゴールに入る前に、武豊が小さくガッツポーズを作る。数々の栄冠を手にしてきた天才も、喜びは抑え切れなかった。

 表彰式でディープの背にまたがる武豊は、12万人が詰めかけたスタンドに向かって何度もバンザイを繰り返す。「飛びましたね。変わりなく、ディープはディープでした。先生(池江泰郎調教師)の顔を見ると、胸が熱くなってきそうだった」。凱旋門賞は3位入線で敗戦。その後、禁止薬物の検出で失格処分を受けた。周囲の騒動を含め、すべてをリセットして臨んだ戦い。何よりも結果が求められていた。

 すべてが“いつも通り”だった。スタートの出が悪く、前半は最後方から。3角を過ぎて進出するのも同じだ。「(4角手前で)ウィジャボードがちょっと内めに入った時、外に行けるいい形になった」もう、何の障壁もない。

スローペースを大外からまくり、上がり(最後の600メートル)33秒5の豪脚でライバルをのみ込んだ。

 吉兆はあった。発走前に集合合図が出た際、昨年5月に5馬身差で圧勝したダービーと同じ場所で、同じように物見をするしぐさを見せた。「あれで勝ったと思った」とスタッフに打ち明けたユタカ。有能なサラブレッドは、自分の経験を忘れない。ディープ自身が何をすればいいのか分かっていたに違いない。

 ディープインパクトはこの後の有馬記念も勝利し、06年限りで引退。07年からは種牡馬に。産駒にはジェンティルドンナ、コントレイルなどG1勝ちの名馬が多数。19年7月に天国へ旅立った。

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