第70回有馬記念・G1は12月28日、中山競馬場の芝2500メートルで行われる。早見和真氏原作の大ヒットドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」で注目を集めた北海道・日高地区出身の馬。

昔ながらの伝統ある牧場出身で、有馬記念を制した名馬を5回にわたって取り上げる。第4回は2015年に制したゴールドアクター(吉田隼人騎手が騎乗)。

 手綱を執り続けていた自信があるからこそ攻めていった。吉田隼は横一線のスタートからゴールドアクターを先頭へ導く。すぐにキタサンブラックとリアファルが動くと、スッとインの3番手という絶好のポジションを確保。「スタートは思い切って出していきました。テンションが高い馬なので、テン乗りだったら、あそこまで出していけなかったと思う。でも、僕は折り合いをつける自信があった。だから、まず行く気を見せてから控え、インのポケットにうまくはまることができた」と吉田隼は振り返る。

 3コーナー手前。地鳴りのような歓声がわき上がった。今回が引退レースになるゴールドシップが動いた。

代名詞ともいえる『まくり』もこれが最後。内の各馬を一気にかわしていったが、有終Vの夢を乗せた豪脚も4角過ぎまでだった

 芦毛の怪物が静かに沈む中、インで脚をためていたゴールドアクターは馬場の真ん中へ持ち出される。あとは加速するのみ。「4コーナーの手応えも抜群でした。直線では、声にならない声で叫びながら追いまくりました。勝った瞬間は、ホッとして、そしてやったぞ!と思いました。これを夢見て、ジョッキーになったわけですから」と吉田隼。1000万、1600万、G2に続く4連勝で8番人気の伏兵がG1初制覇を果たした。

 強い決意があった。11月29日に東京で他馬に足を蹴られ、右膝蓋(しつがい)骨の亀裂骨折と診断された。乗り替わりの危機だったが、関係者に騎乗を頼み込んだ。「あの馬は僕が一番うまく乗る自信があった。

思い入れもあった。負けたら僕のせいでいい、足が曲がらなくなってもいいと思って、お願いしました」。外国や地方から強い騎手が次々とやってくる中で手応えを感じていたチャンス。逃すわけにはいかなかった。

 北海道新冠町の北勝ファームにとっては、牧場創立以来初めてのGI制覇。父スクリーンヒーロー、母の父キョウワアリシバという、当時の主流血統であるディープインパクトやキングカメハメハと比較すると非常にマイナーな配合だった。母ヘイロンシンも北勝ファームの生産馬で、障害で2勝。“超地味血統”が花開いた。

 当時の繁殖牝馬は預託馬を含めて15頭で、2人で切り盛りしている小規模牧場からG1馬を送り出した。田谷利夫場長は「生まれたときから出来は良かったけど、どの調教師も血統を見ると通り過ぎていった。大きなレースを勝ててうれしい」と当時の取材に満面の笑み。当歳に全妹がいるが、ゴールドアクターの有馬記念勝利時には空胎だった。

 その後も同馬は16年に日経賞、オールカマーを制して重賞4勝を挙げた。18年の11着に敗れたオールカマーがラストランとなり種牡馬になった。通算24戦9勝。

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